転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー8

 「……スプラシーズン?」

 

 聞き慣れない単語に、俺とギリスケ、マヒロの三人は同時に首を傾げた。

 

 スプラ、と聞くとどうしても前世の某イカの陣取りゲームが頭をよぎるのだが――いや、今はそれどころではない。

 

 「……おい。お前ら、まさかとは思うが授業中寝たりしてねーだろーなー?」

 

 先生の声色が変わった。

 

 「え゛っ?!」

 

 思わず変な声が出る。

 

 嫌な予感が背筋を走る。

 もしかして、今のは授業で既に扱った内容なのか?

 

 ――マズい。

 

 朝練の疲れで、何度か意識が飛んでいた記憶が蘇る。横を見ると、ギリスケとマヒロも露骨に視線を逸らしていた。どうやら同罪らしい。

 

 対して、ミオとフィーは特に動揺していない。

 なるほど。ちゃんと聞いていたのか。

 

 俺たちは、見事に墓穴を掘ったらしい。

 

 『春生期《スプラ・シーズン》は、魔物が発生しやすくなる時期のことだよ。魔物には大きく分けて二種類いて、季節の変わり目に出現しやすい種と、そうでない種がいるの。春生期は、トレントやスライムみたいな自然発生型が特に増える』

 

 フィーのマスクに文字が浮かび、機械音声が補足する。

 

 「……その通りだ」

 

 先生の険しい表情が、わずかに緩んだ。

 

 助かった。

 フィーがいなければ、確実に雷が落ちていた。

 

 「……お前ら三人は、後で補習な」

 

 「「「……はい。すみません」」」

 

 しかし、処分は下った。

 補習という名の説教タイムが確定である。

 

 なんでこう、毎回こうなるんだ。

 

 「……話を戻すぞ」

 

 先生は小さく息を吐いた。

 

 「今は春生期。魔物の発生数が増えている。迂闊に集落周辺で作業をすれば、魔物を刺激する可能性がある」

 

 「ならば、拙者が周辺の魔物を一掃すればよいでござる! 生まれたての魔物相手に遅れは取らぬ!」

 

 マヒロが勢いよく立ち上がる。

 

 だが先生は即座に返した。

 

 「その隙に賊に狙われたらどうする?」

 

 「……ッ」

 

 「今回の任務は“処分”だ。戦闘が主目的ではない。なるべく危険を冒さず遂行するのが前提だ」

 

 「でもさ」

 

 今度はギリスケが口を挟む。

 

 「いつどこで現れるかも分からない賊を警戒しつつ、魔物から集落を守って、花を全部処分? 正直、無理ゲーじゃね?」

 

 ……確かにその通りだ。

 

 俺も同じことを思っていた。

 

 先生はしばらく黙り込み、やがて口を開いた。

 

 「だから今回は特別に、理事長の許可を得て助っ人を呼ぶ」

 

 「助っ人?」

 

 「騎士団から二名、派遣される予定だ。ただし向こうも多忙だ。任務前日までには到着するらしい」

 

 「……それまでの間は?」

 

 マヒロの声が硬くなる。

 

 焦りと苛立ちが滲んでいた。

 

 先生は一度、大きく息を吸い込み――

 

 煙草に火を点けた。

 

 紫煙がゆらりと立ち上る。

 

 「それまでは、なんとか耐えてもらう」

 

 「なっ!? 何か起きてからでは遅いでござる!」

 

 マヒロが一歩踏み出す。腰の刀に手がかかる。

 

 「ちょ、マヒロ!? 落ち着いて!」

 

 ミオが慌てて腕を掴む。

 

 空気が、張り詰める。

 

 先生の表情は冷たかった。だが、その奥にあるのは無責任さではない。覚悟を決めた者の顔だ。

 

 「拙者一人でも十分でござる! この魔剣・魔妖があれば――」

 

 「人を殺すのか?」

 

 低く、静かな声。

 

 その一言で、空気が凍りついた。

 

 「ッ!?」

 

 今のは魔力の圧ではない。

 言葉そのものの重みだ。

 

 教室が完全防音であることを忘れるほど、沈黙が深く落ちた。

 

 先生は煙を吐き、真っ直ぐに俺たちを見る。

 

 「いいか。今から言うことは重要だ。心して聞け」

 

 誰も口を開かない。

 

 先生の顔は、これまで見たことがないほど真剣だった。

 

 「もし賊と戦闘になった場合――」

 

 一拍。

 

 「誰一人、殺すことを許さん」

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