転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第1章ーおまけ

 「おおお、俺と、けつ、けっ、結婚してください!!」

 

 人生初の告白《プロポーズ》。

 緊張のあまり噛みまくり、相手の顔すらまともに見られなかった。

 こんなベタな台詞すら満足に言えない自分が、ただただ恥ずかしい。

 

 「……はい」

 

 しかし、そんな俺の告白を――

 彼女ステラは、あっさりと受け入れてくれた。

 

 「はっはっはっ、あのイノスがとうとう結婚かよ!」

 

 「あのイノスがなぁ」

 

 「……お前ら、俺をどんな目で見てたんだよ」

 

 告白から数日後。

 籍を入れたことを報告しようと、学園時代からの友人二人を飲みに誘った。

 最初は普通に祝福してくれていたが、酒が回るにつれ、空気は徐々に“いつもの方向”へと傾いていく。

 

 ――嫌な予感がしてきたぞ。

 

 「で? どうなんだよ、嫁さん」

 

 「ん? 何の話だ?」

 

 友人の一人がニヤついた顔で意味深に問いかけてくる。

 しかし、その意図がこの時点ではまだ理解できていなかった。

 

 「とぼけんなよ。身体の相性だよ。どうだ? 抱き心地は? 気持ちよかったか?」

 

 「ぶっ?!」

 

 「うへっ、きったねぇ!」

 

 思わず飲んでいた酒を噴き出した。

 むせ込み、鼻の奥にまで酒が入り込み、涙目になる。

 

 「えほっ、げほっ……お前、なんてこと聞きやがる!」

 

 ここは大衆酒場だ。

 他の客がいる場所で堂々と聞く内容じゃないだろう。

 

 「いいじゃねーか。猥談の一つや二つ、酒の肴だろ?」

 

 「……」

 

 ――ああ、そうだった。

 こいつは昔からこの手の話が大好物だった。

 

 「で? マジでどうなの? 胸は大きい? 感度は? 好きな体位は?」

 

 「……」

 

 「おいおい、何か答えろよ。別にお前の嫁さん想像して――」

 

 「……いよ」

 

 「ん? なんて?」

 

 詰まるように、俺は答えた。

 

 「……まだ、してないよ」

 

 「「……は?」」

 

 二人が同時に固まった。

 そりゃそういう反応になるよな、と自分でも思う。

 

 「その……まだ、そういう行為はしてなくて……」

 

 「う、嘘だろお前?!」

 

 一人は驚愕。

 もう一人は、なぜか怒りすら滲ませている。

 

 「は、初めての彼女だし……そういうことに興味があるのかも分からなくて……」

 

 「恋する乙女か!?」

 

 ――否定できないのがつらい。

 

 恥ずかしながら、彼女は人生で初めてできた恋人だ。

 大切にしたいがゆえに、軽々しく手を出すことを避けていた。

 別に興味がないわけじゃない。

 ただ、踏み出す勇気がなかっただけだ。

 

 「……はぁ。まさか三十にもなって、そんなピュアな心を持ってるとはな。驚きを通り越して怖いわ」

 

 「ぐっ……!」

 

 胸に突き刺さる正論。

 反論の余地がない。

 

 「でもさ、もう結婚したんだし、そろそろいいんじゃねーの?」

 

 「……あ、ああ。そうだとは思うんだが……」

 

 ふざけた空気が、少しだけ真面目になる。

 

 決して拒みたいわけじゃない。

 だが、今さら「しよう」と言い出して、彼女がどう思うのか――

 それを考えると、不安が先に立ってしまう。

 

 俺みたいな男を好きになってくれて、籍まで入れてくれた心の広い女性だ。

 もし彼女が、まだ慎ましい関係を望んでいるなら――

 無理に踏み込むのは違う気がしてしまう。

 

 「マジな話、子供とか欲しいんじゃねーの?」

 

 「そ、それは……俺も欲しいし、ステラだってきっと……」

 

 子供。

 その言葉が現実味を帯びて胸に落ちる。

 

 「……な、なあ。ど、どうやって誘えばいいと思う?」

 

 「「……イノス、お前……」」

 

 二人は深いため息をついた。

 

 ――なぜか、完全に呆れられていた。

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