「おおお、俺と、けつ、けっ、結婚してください!!」
人生初の告白《プロポーズ》。
緊張のあまり噛みまくり、相手の顔すらまともに見られなかった。
こんなベタな台詞すら満足に言えない自分が、ただただ恥ずかしい。
「……はい」
しかし、そんな俺の告白を――
彼女ステラは、あっさりと受け入れてくれた。
「はっはっはっ、あのイノスがとうとう結婚かよ!」
「あのイノスがなぁ」
「……お前ら、俺をどんな目で見てたんだよ」
告白から数日後。
籍を入れたことを報告しようと、学園時代からの友人二人を飲みに誘った。
最初は普通に祝福してくれていたが、酒が回るにつれ、空気は徐々に“いつもの方向”へと傾いていく。
――嫌な予感がしてきたぞ。
「で? どうなんだよ、嫁さん」
「ん? 何の話だ?」
友人の一人がニヤついた顔で意味深に問いかけてくる。
しかし、その意図がこの時点ではまだ理解できていなかった。
「とぼけんなよ。身体の相性だよ。どうだ? 抱き心地は? 気持ちよかったか?」
「ぶっ?!」
「うへっ、きったねぇ!」
思わず飲んでいた酒を噴き出した。
むせ込み、鼻の奥にまで酒が入り込み、涙目になる。
「えほっ、げほっ……お前、なんてこと聞きやがる!」
ここは大衆酒場だ。
他の客がいる場所で堂々と聞く内容じゃないだろう。
「いいじゃねーか。猥談の一つや二つ、酒の肴だろ?」
「……」
――ああ、そうだった。
こいつは昔からこの手の話が大好物だった。
「で? マジでどうなの? 胸は大きい? 感度は? 好きな体位は?」
「……」
「おいおい、何か答えろよ。別にお前の嫁さん想像して――」
「……いよ」
「ん? なんて?」
詰まるように、俺は答えた。
「……まだ、してないよ」
「「……は?」」
二人が同時に固まった。
そりゃそういう反応になるよな、と自分でも思う。
「その……まだ、そういう行為はしてなくて……」
「う、嘘だろお前?!」
一人は驚愕。
もう一人は、なぜか怒りすら滲ませている。
「は、初めての彼女だし……そういうことに興味があるのかも分からなくて……」
「恋する乙女か!?」
――否定できないのがつらい。
恥ずかしながら、彼女は人生で初めてできた恋人だ。
大切にしたいがゆえに、軽々しく手を出すことを避けていた。
別に興味がないわけじゃない。
ただ、踏み出す勇気がなかっただけだ。
「……はぁ。まさか三十にもなって、そんなピュアな心を持ってるとはな。驚きを通り越して怖いわ」
「ぐっ……!」
胸に突き刺さる正論。
反論の余地がない。
「でもさ、もう結婚したんだし、そろそろいいんじゃねーの?」
「……あ、ああ。そうだとは思うんだが……」
ふざけた空気が、少しだけ真面目になる。
決して拒みたいわけじゃない。
だが、今さら「しよう」と言い出して、彼女がどう思うのか――
それを考えると、不安が先に立ってしまう。
俺みたいな男を好きになってくれて、籍まで入れてくれた心の広い女性だ。
もし彼女が、まだ慎ましい関係を望んでいるなら――
無理に踏み込むのは違う気がしてしまう。
「マジな話、子供とか欲しいんじゃねーの?」
「そ、それは……俺も欲しいし、ステラだってきっと……」
子供。
その言葉が現実味を帯びて胸に落ちる。
「……な、なあ。ど、どうやって誘えばいいと思う?」
「「……イノス、お前……」」
二人は深いため息をついた。
――なぜか、完全に呆れられていた。