転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー9

 「ッ!? 殺生を……禁ずる、でござるか!?」

 

 マヒロの声が震える。

 

 「ああ。そうだ」

 

 先生は迷いなく頷いた。

 

 「あやつらは人を殺すのでござろう?」

 

 「それがどうした?」

 

 あまりにも冷静な返答に、空気が張り詰める。

 

 「……分からぬ。違法薬物に手を染め、関係のない人々を襲う極悪人でござるぞ? そのような輩は、斬って然るべきではござらぬか」

 

 真っ直ぐな瞳だった。

 迷いのない“正義”。

 

 だが、先生は即座に切り返す。

 

 「『悪人なら何をしてもいい』ってか?」

 

 「ッ!? それは……」

 

 言葉が詰まる。

 

 今の一言の意味を、マヒロ自身が理解してしまったのだろう。

 

 沈黙が落ちる。

 

 先生はゆっくりと煙を吐き、低い声で続けた。

 

 「よく聞け。連中は欲のためなら手段を選ばないクズだ。人殺しもする。事実としてな」

 

 紫煙が揺れる。

 

 「だがな。どれだけ腐っていようと、奴らも“人の子”だ」

 

 その言葉には、怒りも軽蔑もなかった。

 ただ、冷たい現実だけがあった。

 

 「人の子である以上、裁くのは人族のルールだ」

 

 「……人族の、ルール?」

 

 「法律だ」

 

 短く、断言する。

 

 「私怨で裁いていいという法律は存在しない。どんな理由があろうと、殺人は罪だ。正義を名乗っても、それは変わらん」

 

 マヒロの拳が震える。

 

 「そんな……」

 

 「勘違いするな。俺は連中を庇ってるわけじゃない。だが、法を無視して私刑を始めた瞬間、お前らも同じ穴の狢だ」

 

 教室の空気が重く沈む。

 

 前世でもそうだった。

 どれほど憎むべき相手でも、勝手に裁くことは許されない。

 

 だが、それを“現場”で貫くのは、簡単ではない。

 

 先生はさらに続ける。

 

 「ちなみにだ」

 

 嫌な予感がした。

 

 「この中の誰かが殺しをやった場合――連帯責任で五人全員、退学だ」

 

 「ッ!?」

 

 一斉に息を呑む。

 

 「ちょ、それは厳しすぎじゃ……」

 

 思わず口に出しかけたが、先生の目を見て飲み込んだ。

 

 あれは脅しではない。

 本気だ。

 

 「いいか。学園《ウチ》は人を殺すために魔法を教えてるんじゃない」

 

 声が、わずかに強くなる。

 

 「人を助けるためだ」

 

 その一言が、胸に落ちる。

 

 「ここにいる限り、人殺しはご法度だ」

 

 マヒロは俯いたまま動かない。

 

 彼女の中には、武士としての矜持がある。

 悪を討つことが正義だという信念。

 

 だが今、それは真正面から否定された。

 

 「魔法は殺すための道具じゃない。救うための手段だ。分かったな?」

 

 「……はい……」

 

 小さく、だがはっきりと頷く。

 

 完全に論破された形だった。

 

 少し気の毒にも思えるが、先生の言葉は間違っていない。

 

 ――もっとも。

 

 俺たちは今のところ、魔法の基礎訓練すらまともに受けていない。やっているのは走り込みばかりだが。

 

 「……じゃあ、もし賊と接敵したら、集落の人を逃がしつつ騎士団に任せる感じっすかね?」

 

 ギリスケが恐る恐る尋ねる。

 

 空気を和らげようとしたのか、それとも純粋な疑問か。

 

 だが――

 

 「あ゛あ゛? んなもん俺が知るか。ぶっ殺すぞ!」

 

 「えええええええっ!?」

 

 教室に絶叫が響いた。

 

 ついさっきまで“殺人は絶対禁止”と説いていた人物の発言とは思えない。

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