「でも先生。殺しに来る相手を無力化するって言っても、今の私たちじゃ……とても」
ミオが不安げに言葉を濁す。
確かに理屈は分かる。
だが実力が伴っていないのが現実だ。
「ああ、そうだろうな」
先生はあっさり認めた。
「だから今回――こんなものを用意してきましたー」
やけに軽い口調でそう言うと、教壇の机の引き出しから何かを取り出す。
机の上に置かれたそれを見て、全員が目を瞬かせた。
「……木刀?」
ごく普通の、どこにでもありそうな木刀だった。
なるほど。これなら斬れない。
マヒロの魔剣《魔妖》のように命を奪う心配はない。
……だが、それだけで本当にどうにかなるのか?
先生はニヤリと口角を上げる。
「この木刀には特殊な加工が施されている。柄を握って、少しだけ魔力を流すと――」
次の瞬間。
バチバチッ!!
木刀の刃部から青白い電光が走った。
「ッ!?」
思わず身を引く。
どう見てもスタンガン仕様である。
「一定量の魔力を流すと電撃が発生する仕組みだ。殺傷力は抑えてある。これなら相手を殺さずに無力化できる」
なるほど。
物理衝撃+電撃。確かに実用的だ。
「ただし」
先生が人差し指を立てる。
「許容魔力量は多くない。流しすぎると内部の魔導回路が焼き切れて壊れる。だから使うときは“確実に触れられる間合い”で、一瞬だけ流せ」
ピーキーな仕様だな。
「それはいいんだけどさー」
ギリスケが木刀をまじまじと見つめながら言う。
「俺、剣術なんて習ってないんすけど? もっと短い武器とかないんすか?」
「残念ながら現状はこれのみだ」
即答。
「剣に自信がないなら、今から素振り一万回やれば多少はマシになるだろ」
「いやいやいや、一万回って。今からじゃ無理ゲーでしょ!?」
「嫌なら俺が直々に身体に叩き込んでやる。前に出ろ」
圧。
「が、がんばりまあぁすぅ……」
あっさり陥落した。
確かに素人がいきなり長物を扱うのは難しい。ミオやフィーも近接戦は得意分野ではないはずだ。
「まあ」
先生は視線をマヒロへ向ける。
「お前がいればなんとかなるだろ。試しに振ってみろ。専門家の意見を聞いておきたい」
「う、うむ」
マヒロは木刀を受け取り、慎重に構えた。
いつもの魔剣とは違う感触に、わずかに眉をひそめる。
数度、空を斬る。
ヒュン、と風切り音。
「……ふむ」
評価が始まった。
「長さは魔妖よりやや長いでござるな。重さもこちらの方がある。重心も僅かに前寄り。素人では振り回されるであろう」
的確だ。
「それに、鞘のない刀を常に抜き身で扱う感覚は不慣れでござる。間合い管理にも違和感がある。拙者でも馴染むまで時間を要する」
彼女がここまで言うのだから、相当だろう。
先生は腕を組む。
「改善の余地あり、か。後で開発班に伝えておく。今ならギリギリ調整が間に合うかもしれん」
「流石に間に合わせてくれねーと困るんですけど」
ギリスケがぼやく。
「専門外だ。一応急がせるが、最終判断は向こう次第だな」
マヒロはもう一度木刀を振るい、軽く魔力を流した。
バチッ、と電光。
その光が刃の軌跡をなぞる。
視覚的威圧も十分だ。
「……発想としては悪くないでござる」
小さく、だが素直に認めた。
確かに。
木刀に雷を纏わせる。
殺さずに止めるための武器。
理にかなっている。
ただ――
「……にしても」
俺は木刀を見つめながら思う。
こんな魔導回路を内蔵した武器を、急造で作れるものなのか?
電撃出力の制御。耐久限界。魔力許容量の調整。
どう考えても、相当な技術が必要だ。
まさか――
これを設計したのは。
俺の脳裏に、ある人物の顔がよぎった。