「木刀? ああ、それならもちろん私が作ったよ。護身用としては悪くない出来だろ?」
「やっぱり、そうでしたか」
ミーティング終了後、確認のためにソンジさんの研究室を訪れていた。ちょうど向こうも用があったらしく、タイミングは悪くなかった。
相変わらず、研究室は物と機材で溢れている。壁際には魔導回路の設計図、机の上には分解途中の魔導具。彼女はいつもの白衣姿で、どこか生活感の薄い空間の中に立っていた。
――やはりこの人が作ったか。
木刀から雷を発生させる、という発想。
どこかロマンに振り切った設計思想。
中二心をくすぐる感じが、実に彼女らしい。
「君たち、初任務まであと少しだろう? コールスタッシュ先生に頼まれて急ごしらえしたんだ。どうだい、扱えそうかな?」
「……それなんですけど」
ちょうど彼女が興味を示したところで、本題に入る。
「ふむふむ……少し重い、か」
俺たちの意見を一通り聞き終えると、ソンジさんはすぐさま机に向かい、端末を操作し始めた。画面には魔導回路の構成図と数式が並ぶ。
「刀身を長めに設計したのが裏目に出たな。重心が前に寄りすぎている。これでは初心者は振り回される」
カタカタと軽快にキーを叩く。
やはり、あの木刀も思いつきで作ったわけではないらしい。内部構造まできっちり計算されているのが分かる。
申し訳なさもあるが、こちらも命が懸かった任務だ。妥協はできない。
「間に合いそうですか?」
「うーん……物理サイズの調整だけならすぐできる。ただ、魔力許容量の再設定も必要だな。出力を下げすぎればスタン効果が落ちるし、上げすぎれば回路が焼き切れる」
画面を睨みながら続ける。
「早くて二、三日といったところだ」
「それなら、任務には間に合いそうですね」
「理論上はな。だが“お望み通りの完成度”になるかは別問題だ。私は剣術の専門家ではない。実戦での使い心地までは保証できない」
「まあ、そうですよね」
彼女は発明家だ。武術家ではない。
「できれば明日、例の彼女を連れてきてくれないか。実際に扱う本人から直接フィードバックをもらった方が効率的だ」
「俺もそう思います。声をかけてみますよ」
「頼んだよ」
とりあえず、木刀の件は解決の目処が立った。
マヒロが協力すれば、より実戦的な仕上がりになるはずだ。
「あ、そういえば。用があるって言ってましたよね? 何の話ですか?」
こちらの用件が終わったところで、今度は彼女の要件を尋ねる。
さっき“ちょうど私も用があってね”と言っていたはずだ。
「ん? ああ、私の用事か」
くるりと椅子を回転させ、こちらを向く。
「……えーっとねぇ~、こんばんわぁ~、わたしとぉ~、一緒に寝てほしぃ~なぁ~って」
妙に甘ったるい声色。
不自然に首を傾げ、わざとらしい仕草。
「……で、用件は?」
即座に切り返す。
「ちっ。妹キャラでも駄目だったか」
素に戻った。
「いや、目の前でキャラ作り始めた時点でアウトでしょう」
というか、切り替えが早すぎる。
どうやら本気で誘惑する気は最初からなかったらしい。完全にからかい目的だ。
研究者としては天才的だが、こういう悪ノリも忘れないのがこの人の厄介なところだ。
「冗談だよ、冗談。君の反応を見てみたかっただけさ」
まったく悪びれない。
……本当に用事は何なのか。
今度こそ、まともな話であることを祈るばかりだ。