「とっとと本題に入ってくれません? 俺もそこまで暇じゃないんですけど」
「まるで私が暇人みたいな言い方だね。これでも今、やるべきことが山積みなんだけど?」
「だったら、なおさら早く話した方が良くないですか?」
「分かってないなあ。仕事がどれだけ詰まっていても、息抜きは必要不可欠なんだよ」
「……さっきのが息抜きだったんですか?」
「そうさ。こうして冗談を言い合える相手が、私には君くらいしかいなくてね。他愛もない雑談も立派なリフレッシュなんだ」
どこか本音めいた言葉に、一瞬だけ返す言葉に詰まる。
だが次の瞬間、彼女はいつもの調子に戻る。
「まあ、もし君が本気にするなら、それはそれで歓迎するけど?」
「……」
軽口と分かっていても、どう反応すればいいのか分からない。
彼女に付き合っていると、話の主導権が常に相手側にある気がしてならなかった。
「……はあ」
小さく息を吐く。
「冗談はいいんで、本題を」
「おっと、そうだったね」
彼女はわざとらしく咳払いを一つすると、表情を研究者のそれに切り替えた。
「実はね、ちょっとした実験に付き合ってほしいんだ」
「実験?」
嫌な予感が背筋を走る。
「簡単な人体実験を――」
「いやいやいや」
即座に眉をひそめると、彼女は苦笑した。
「冗談だよ。そんな露骨に嫌な顔しなくても。ちゃんと事前に物品実験は済ませてるし、安全性も確認済みだ」
「……本当ですか?」
「多分」
「その“多分”が一番信用ならないんですが」
不安を煽る言葉に、思わず視線が冷たくなる。
だが、彼女はどこか楽しそうに肩をすくめた。
「まあまあ。聞き分けが良くて助かるよ。今度、何かお礼はするからさ」
ここで断っても、どうせ別の方法で巻き込まれる気がする。
それに、彼女が本気で危険なことをする人物でないのは、これまでの付き合いで理解していた。
「……で、何の実験なんです?」
「いい質問だ」
彼女は端末を操作し、設計図を表示させた。
「最近ね、学園内を瞬時に移動できる転移魔法装置を設置してほしいって要望があってさ。その試作品を作っているところなんだ」
「転移魔法装置……」
聞き覚えのある単語に、記憶が引っ掛かる。
「あっ……」
そういえば、入学初日にギリスケとそんな話をした気がする。
まさか、あいつ本当に要望書を出していたとは。
「行動力だけは無駄にあるな……」
「というわけで」
彼女はにやりと笑い、こちらを指差した。
「今から君には、この転移装置の実地テストに付き合ってもらう!」