「なるほど。それなら、まあ……いいですけど」
転移魔法。
この実験が成功すれば、学園内に正式採用されるかもしれない。
そうなれば、あの無駄に広い敷地を毎日歩き回らずに済む。
教室棟から訓練場、寮までの移動時間が消えるだけでも革命だ。
――できれば自室から教室まで直通で頼みたい。
「で、俺は何をすれば?」
「慌てなさんな。今準備するから」
ソンジさんは木刀の調整作業を中断し、机の下から何かを取り出した。
黒いタイル状の板が二枚。
思ったより薄く、そしてコンパクトだ。
「あれが……転移装置?」
彼女はそれを抱え、部屋の隅へ移動する。
「まだ試作段階だから簡易版だけどね。これが成功すれば上出来だ。まずはこの距離でいこう」
一枚を入口付近の床に設置。
もう一枚を作業スペースの手前に置く。
距離はおよそ五メートル。
室内実験としては妥当な範囲だろう。背後には高価そうな機材が並んでいる。暴発でもしたら被害は甚大だ。
「このタイルが転移基点だ。上に乗った状態で魔力を流すと、対になる装置へと瞬間移動する仕組みになっている」
さらりと言うが、理屈がおかしい。
「じゃあ、この上に乗ればいいんですね?」
「そうそう。ただし注意事項があるから、まだ魔力は流さないように」
言われた通り、装置の上に乗る。
――狭い。
座布団一枚分ほどのサイズしかない。両足を揃え、腕を畳んでようやく収まる程度だ。
「こ、これで……大丈夫ですか?」
無理やり体を装置内に収める。
少しでも姿勢を崩せば、端からはみ出しそうだ。
地味にバランスがきつい。
「うん、大丈夫。そのまま全身が装置から出ないようにね」
「ぐっ……結構きついっすね」
「簡易版だからね。大型化はまだこれからだよ」
さらっと言うが、こちらは既に限界が近い。
太ももが震えている。
これ、長時間維持する体勢じゃない。
「ちなみになんですけど」
自分は恐る恐る尋ねる。
「もし装置からはみ出した状態で起動したら、どうなるんです?」
万が一、ほんの少しでもズレたら。
指先や踵が外に出ていたら。
安全装置くらいあるだろう、と僅かながらに期待しながら。
ソンジさんは顎に手を当て、少し考える仕草をした。
「うーん……」
嫌な間。そのせいで変に不安を掻き立ててくる。
「はみ出した部分は転移対象外になるね」
「……対象外?」
「つまり、その場に残る」
「……」
「最悪、身体が分断されるから――死ぬね」
「……えっ?」
そして、彼女から衝撃的な事実が告げられるのだった。