「え? ちょ、これ……死ぬんですか?」
衝撃のあまり、思わず装置から飛び退いていた。
危ない。
その説明は最初に言うべきでは?
「四肢がはみ出していなければ問題ないよ」
ソンジさんは落ち着いた声で言う。
「この装置は、いわば“切り取りと貼り付け”だ。指定範囲を一度消去し、別座標へ再配置する。転移魔法というのは、要するにその処理を魔法式で行っているだけなんだよ」
「き、切り取り……貼り付け……?」
頭の中で、無機質な処理画面が浮かぶ。
「パソコンと同じ理屈さ。囲った部分だけを移動させる。だから範囲外は対象外。単純明快だろう?」
「単純だけど怖いんですよその説明」
「まあ、生身で転移魔法を使える連中は別系統の理論だろうけどね。私は私なりのアプローチさ」
なるほど。
デジタル的発想の魔導工学、というわけか。
分かりやすい。
分かりやすいが、命がかかっている。
「と・に・か・く!」
ぱん、と手を叩く。
「余計なことをしなければ問題ない。早く乗った乗ったー!」
「問題ないって言われた直後に“最悪死ぬ”って聞いてるんですけど……」
それでも、ここで引き下がるわけにもいかない。
一度了承した以上、やるしかない。
――これが成功すれば、今後の学園生活は格段に楽になる。
そう自分に言い聞かせ、再び装置の上へと乗る。
「よし。全身ちゃんと収まってるから安心して」
「……ふぅ」
両足をきっちり揃え、腕も体側に寄せる。
身長測定のときのように、できるだけコンパクトに。
「一応言っておくと、転移時は距離感が一瞬で切り替わるから脳が混乱する。気分が悪くなるかもしれない。目は閉じておくことを勧めるよ」
「こ、こうですか?」
ぎゅっと目を閉じる。
「私がオッケーと言うまで開けないように。それじゃ、魔力を流してごらん」
――いくしかない。
足元へ意識を集中させ、魔力をゆっくり流し込む。
視界は闇。
何が起きているのか分からない状態というのは、想像以上に不安を煽る。
「よしよし、いい感じだ。あと少し」
どこか楽しげな声が聞こえる。
足元から、低い機械音のような振動音が響き始めた。
ブゥン……という、かすかな共鳴。
「……っ」
微細な揺れが足裏を伝う。
地震とは違う、内側から空間が軋むような感覚。
「いいよいいよ。それじゃあ――起動!」
その合図と同時に、
――閃光。
目を閉じているはずなのに、瞼越しに白が突き刺さる。
世界が一瞬、裏返るような感覚。
上下左右の感覚が消える。
身体が“消される”ような、妙な浮遊感。
「ッ……!」
叫び声は出なかった。
時間の感覚が歪む。
一瞬だったのか、数秒だったのか分からない。
やがて、振動が止んだ。
静寂。
「……よ。もう目を開けていいよ」
遠くから聞こえる声。
「んっ、んん……」
恐る恐る瞼を開く。
視界がゆっくりと焦点を結ぶ。
「……お、おお?」
さっきまで入口の前に立っていたはずの自分が、今は作業スペースの手前。
目の前には、腕を組んで満足げに頷くソンジさん。
背後を振り返ると、五メートル先にもう一枚の装置が見える。
――成功だ。