翌日。
ソンジさんとの約束通り、マヒロを連れて再び研究室を訪れていた。
扉を開けた瞬間――
「はじめましてっ! ソンジはソンジっていいます! いつもサダメおにいちゃんがお世話になってますっ!」
開幕から全力の妹キャラ。
昨日のリベンジとばかりに、満面の笑みで頭を下げるソンジさん。
「おお!? サダメにこんな愛らしい妹君がおったでござるか!?」
即座に食いつくマヒロ。
「いや違うから」
間髪入れずに否定するが、遅い。
「もー! おにいちゃんってば、いじわる言わないでよー! ソンジ、かなしくてなみだがでちゃいそーだよー!」
「サダメ!? 今のはさすがに酷いでござるよ! 妹君に謝るでござる!」
「だから違うって!? この人、俺より一個年上だからな!?」
開始三十秒でこの有様である。
ソンジさんがマヒロ相手だと分かっていて仕掛けているのは明らかだ。そしてマヒロは疑うという選択肢を持たない。
――この二人、混ぜるな危険だ。
ようやく誤解を解き、互いに自己紹介を済ませた頃には、すでに少し疲れていた。
「なるほど。拙者でよければ力になるでござる」
事情を説明すると、マヒロは快く頷いた。
「助かるよ。じゃあ、試作品をいくつか作ってみたから持ってくるね」
ソンジさんは席を立ち、部屋の隅に積まれた段ボール箱の山を漁り始める。
――昨日の今日でもう試作品を?
しかも“いくつか”と言った。
からかってばかりの印象が強いが、仕事はきっちりやるタイプらしい。研究者としての本気度は本物だ。
「……にしても、ソンジ殿は随分と珍妙な格好をしておるな」
マヒロが小声で呟く。
「ああ……まあな。あの格好が落ち着くらしい」
白衣の下はいつも通り下着姿。
見慣れてしまったせいで麻痺していたが、初見だと確かにインパクトはある。
「……むむ。サダメは気にせぬのでござるな」
「へ?」
どうやら“珍妙”の意味が少し違ったらしい。
服装そのものよりも、堂々とその格好で室内を歩き回っていることが気になっているようだ。
「拙者が少しでも軽装になろうとすると、サダメはすぐに着ろ着ろと申すのに。ソンジ殿があのような姿でも何も言わぬのだな?」
「いや、お前の場合は人目につきやすい場所でやるからだろ!? ソンジさんは外に出るときはちゃんと制服に着替えてるし!」
「……ズルいでござる……」
「は?」
なぜ拗ねる。
マヒロの表情がみるみる曇っていく。
「拙者も……あのような解放感のある格好になりたいでござるー!」
「ちょっ、何やってんだマヒロ!?」
泣き出すかと思いきや、突然制服のボタンに手をかけた。
慌てて腕を掴む。
「何故止めるのだサダメ!? 彼女が良いなら拙者も良いでござろう!?」
「良くないから止めてんだよ! ここ一応学校だからな!?」
「ふふふ♡」
そこへ割り込む声。
「ほんとは知ってるんだよ~? サダメおにいちゃんは~、ソンジのえっちな格好みて~、ドキドキしてるんだって♡」
「それは真でござるか!?」
「違ぇよ!? 勝手に話広げんな!」
必死にマヒロを止めつつ、横から薪をくべてくるソンジさん。
混沌。
カオス。
研究どころではない。
「ちょ、ソンジさんも煽らないでください!」
「だって面白いんだもーん」
悪びれた様子ゼロ。
「拙者も……ソンジ殿のように開放的されたいでござる!」
「ちょっ、やめろって!?」
結局、落ち着くまでにしばらく時間を要した。
ソンジさんは終始愉快そうに笑い、マヒロはなぜか唐突に制服を脱ぎ出そうとするしで、自分はその間で頭を抱える。
「……で、本題に戻っていいですか?」
深くため息をつきながらそう告げ、話しを戻す。
本当に、混ぜるな危険だな、この二人は。