とうとう任務当日がやって来た。
校門前に集められた自分たち一年生は、整列した状態でコールスタッシュ先生の前に待機していた。任務地までは馬車で向かうことになっているため、その到着を待つ間、先生から最後の注意事項が伝えられているところだった。
朝の空気はひんやりとしているが、それ以上に場の空気が張り詰めている。
初めての任務ということもあり、周囲の生徒たちの顔にも緊張の色が見えた。
「いいか、お前ら。初めての任務で緊張しているだろうが――任務は任務だ。浮ついた気持ちで臨むな。やるからには、しっかりこなしてこい」
先生の低く重い声が校門前に響く。
「「はい!」」
生徒たちは一斉に返事をした。
自分も声を揃えて返事をするが、胸の奥にはわずかな高揚と不安が入り混じっていた。
「忘れてはいないだろうが、念のため注意事項をもう一度確認しておく。これは全員に言えることだからな。絶対に忘れるなよ」
そう言うと、先生は腕を組み、周囲を見回した。
「まず一つ目。任務にトラブルは付き物だ。何が起きても、なるべく自分たちで対処しろ。一人じゃ無理でも、五人もいれば何とかなるはずだ」
そこまで言うと、先生はズボンの右ポケットに手を入れ、白い小さな機械を取り出した。
見た目は防犯ブザーのようなものだ。
「だが、命の危険を感じるような事態になった場合は話が別だ。その時は、各班の代表者に持たせているこのブザーを押せ」
それを見て、自分も慌ててポケットを確認した。
制服の左胸ポケットに手を入れると、同じ形のブザーがきちんと収まっている。どうやら忘れてはいなかったらしい。
「このブザーは学園の職員室にあるセキュリティ装置と連動している。押せば職員室でアラームが鳴る仕組みだ」
先生はブザーを軽く振りながら説明を続けた。
「だから――間違っても誤作動を起こすなよ。先生方の迷・惑になるからな」
最後の「迷惑」の部分だけ妙に強調され、先生は物凄い形相でこちらを睨んできた。怒っているのか、それとも面倒くさがっているのか判断がつかないが、とにかく凄まじい圧だ。
確かに誤作動で先生たちを動かしてしまうのは申し訳ないが、この人の場合、単純に自分が出動したくないだけのような気もする。
「そしてもう一つ」
先生の声色がさらに低くなった。
「いかなる理由があっても――人殺しは禁止だ」
その言葉に、周囲の空気が一瞬で重くなる。
「相手が賊だろうが関係ない。誰か一人でも殺人を犯した場合、その班は連帯責任で全員退学だ」
ざわめきが起きそうになるのを、先生の視線が押さえ込む。
「そして殺した本人は……悪いが騎士団に連行してもらうことになる」
半ば脅しのようにも聞こえる口調だった。
だが、それだけこの任務が危険を伴うものだということでもある。
おそらく先生は、自分たちの任務内容を知っているからこそ、ここまで強く念を押しているのだろう。
特に――あの人物に対しては。
「魔物は放っておけば増殖し、人間に危害を加える。だから魔物を倒すことは許されている」
先生はゆっくりと言葉を続けた。
「だが、賊は腐っても同じ人間だ。お前らには奴らを裁く義理も、生殺与奪の権利もない」
そして最後に、はっきりと言い切る。
「それだけは、死んでも忘れるな」
「……はい!」
先ほどよりも力のこもった返事が響いた。
言い方は厳しいが、先生の言葉は至極まともだ。
だからこそ、この忠告は絶対に忘れてはいけない。
「よし」
先生がふっと息を吐いた。
「馬車の準備が整ったみたいだな」
校門の外を見ると、ちょうど数台の馬車がこちらへ近づいてきていた。
車輪の音が石畳を鳴らしている。
「それじゃあ行ってこい!」
先生は腕を振り上げて言った。
「お前らの任務の成功を祈ってる」
先生の言葉とほぼ同時に、馬車が校門前に到着する。
――いよいよだ。
こうして、自分たちの初めての任務が始まるのだった。