転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

212 / 250
第6章ー21

 馬車に揺られて数時間。

 目的地であるレルトの集落までは、ソワレルからそれほど離れていない場所にあるらしい。集落同士の距離としては比較的近い方で、馬車で向かえば半日もかからず到着する距離とのことだった。

 

 車輪が石の道をゴトゴトと鳴らす音が、一定のリズムで耳に響く。

 揺れに合わせて身体がわずかに上下する中、皆それぞれ思い思いに過ごしていたが――。

 

 「よし。じゃあ、改めて任務の内容を確認しようぜ」

 

 自分はそう言って、荷物の中から一枚の紙を取り出した。

 コールスタッシュ先生が描いた、手描きの簡易地図だ。

 

 それを馬車の中央に広げ、皆から見えるようにする。

 

 今回の任務は初めての実戦だ。

 もし見落としや勘違いがあった場合、取り返しのつかない事態になる可能性もある。念入りに確認しておいて損はないだろう。

 

 「まず、レルトに到着したら騎士団の人と合流する。そこで周辺の状況確認とか、細かい情報交換をする予定だ」

 

 指で地図の集落部分をなぞりながら説明を続ける。

 

 「そのあと、マヒロと俺――それと、頼めれば騎士団の人を一人加えた三人で、周囲の魔物の駆除に入る」

 

 簡単な円を書き込み、作戦範囲を示す。

 

 「ある程度魔物が減ったら、その三人はもう一人の騎士団員と相談してタリスターの花を回収。可能なら集落の人にも手伝ってもらう」

 

 さらに地図の別の場所を指さす。

 

 「回収が終わったら花を一か所にまとめて焼却。これで任務は終了、って流れだ」

 

 説明を終えると、皆の顔を順番に見回した。

 

 「うむ。魔物相手なら拙者の出る幕でござるな。安心して作業なされよ」

 

 自信満々に胸を張るマヒロ。

 

 「うん。頼りにしてるよ、マヒロ」

 

 自分がそう返すと、横から小さな声が聞こえた。

 

 『サダメもガンバ!』

 

 フィーが応援するように手を振ってくる。

 

 「ありがとう。俺もマヒロほどじゃないかもしれないけど、皆を守れるよう頑張るよ」

 

 そう言うと、ギリスケがニヤニヤしながら口を挟んだ。

 

 「フー、カッコいー」

 

 からかうような口調だったが、特に気にせず地図をたたむ。

 

 簡易地図には自分たちの配置場所や行動範囲などを円で書き込んでおいた。

 皆すでに作戦の概要は知っているので、本来ならここまで細かく説明する必要はない。

 

 だが、騎士団の人たちにはまだこちらの作戦を伝えていない。

 後で説明する時、この地図が役に立つだろう。

 

 「ミオ、フィー。『アレ』はちゃんと持ってきてるよな?」

 

 ついでに忘れ物の確認もしておくことにした。

 

 今回の荷物管理はミオとフィーに任せてある。

 任務で最も重要になるアイテムの確認だ。

 

 「大丈夫。来る前に何度も確認したから」

 

 ミオは落ち着いた様子で頷いた。

 

 『私も大丈夫だと思うよー。これのことでしょ?』

 

 そう言うと、フィーは腰に巻いていたウエストポーチを開き、中から小さな物体を取り出した。

 

 それは手のひらサイズの白い装置だった。

 

 丸みを帯びた形状で、見た目だけならインテリア用の小型アロマディフューザーにも見える。

 

 しかし――これこそが今回の任務の要となる魔道具だった。

 

 「うへー、マジでちっちぇーなこれ。これで本当に何とかなるのか?」

 

 ギリスケが覗き込みながら眉をひそめる。

 

 「大丈夫だよ。これがタリスターの花の代替品なんだ」

 

 自分は説明した。

 

 「一個で半径五キロ以内に効果が届くらしい」

 

 「これ一個でそんなに!?」

 

 ギリスケが思わず声を上げる。

 

 「マジかよ。そのソンジって人、ガチで天才じゃん」

 

 「うむ! ソンジ殿は紛れもない天才でござるよ!」

 

 なぜかマヒロが誇らしげに胸を張る。

 

 「拙者が保証するでござる!」

 

 この魔道具の制作者は、当然あのソンジさんだ。

 

 このアロマディフューザー型の魔道具は、タリスターの花と同じ匂いを発生させる装置らしい。

 しかも一つで半径五キロにも匂いを拡散できるという。

 

 実際に五キロ先で匂いを確認したわけではないが、本人がそう言っていた。

 普段は冗談ばかり言っている人だが、自分の作った物に関して嘘をつくタイプではない。

 

 その点は信用していいだろう。

 

 「ふっふっふ!」

 

 その時、マヒロが得意げに笑った。

 

 「何故ならば――」

 

 そう言いながら、背中に背負っていた袋から一本の竹刀を取り出す。

 

 「拙者とソンジ殿が切磋琢磨して完成させたこの竹刀!」

 

 ビシッ、とポーズを決めながら掲げた。

 

 「その名も――【名刀・雷電《らいでん》】でござる!」

 

 完成したばかりのスタンガン式木刀を、誇らしげに見せつけてきたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。