「いててててて……」
「大丈夫、ギリスケ?」
「はあ、ヒデー目に遭った……」
「遭ったっていうか、遭いに行ったって方が正しい気がするけど」
「いや、まさかあんなビリビリするとは思ってなかったから! マジで!」
ミオの治癒魔法のおかげで、なんとか気絶していたギリスケが目を覚ました。
危うく任務が始まる前に一人欠けるところだった。本人が不用意に触ったのが原因とはいえ、こちらとしても肝が冷えた。
とはいえ、不幸中の幸いというべきか。
雷電の威力は、これで十分に証明された。
触れただけで人を気絶させるほどの電撃なら、賊を相手にしたときでも戦闘不能に持ち込むのは難しくないはずだ。そう考えると、少しだけ気持ちが軽くなる。
もし本当に賊が現れたとしても、これなら多少は安心できそうだ。
「とはいえ、賊も馬鹿じゃないって先生も言ってたし、あんまり過信しすぎるなよ、マヒロ」
「うむ。分かっておる。拙者、こう見えても刀を奪われるようなヘマをした試しはござらん」
「……」
妙に自信満々なマヒロの言葉に、思わず言葉が詰まる。
まあ、こいつはこういう奴だ。
しかし、相手も同じ人間だ。
賊といえど、決して馬鹿な輩ばかりではない――それはコールスタッシュ先生から何度も教えられていた。
ふと、ミーティングのときの会話が頭に浮かぶ。
「いいか。ああいう悪党は愚か者で馬鹿ばかりだ。だが、全員が全員そういうわけじゃない」
コールスタッシュ先生は腕を組み、俺たちを見回しながら続けた。
「頭の切れる奴が一人いるだけで、その集団は魔物以上に厄介な存在になる。人間ってのは不思議なものでな、まともなことを考える賢さより、ルールの穴を見抜く“ずる賢さ”の方がよく働く」
そこで一度言葉を区切り、俺たちの反応を確かめるように視線を巡らせる。
「もちろん、全員が全員そういうわけじゃないが……俺が何を言いたいか分かるか?」
「い、いえ……」
誰一人として答えられず、結局全員が首を横に振った。
そりゃあ、賊といえども馬鹿な人間ばかりではない。
まあ、犯罪を犯している時点で愚かなことをしているのは事実だが、それでも頭の回る連中が混ざっている可能性は十分にある。
それに、世の中には“ずる賢い人間”が想像以上に多い。
詐欺やハッキングはもちろん、最近では不正な転売や、オンラインゲームでのチーミング行為、さらには他人の作品の無断転載など――挙げればきりがない。
手を変え品を変え、あの手この手で悪さを働く。
自分が得をするためなら手段を選ばず、言葉を選ばずに言うなら、汚い手を使うことさえ厭わない。
世間的にも、そして法的にも許されていない行為がほとんどだ。
それでも、そうした連中は一向に減る気配がない。むしろルールの隙間を巧みにすり抜けて、一儲けしている輩さえいる。
正直なところ、好きなカードゲームの最新弾が買えずに高額転売されていたときや、好きな漫画が動画サイトで無断転載された挙句、発売前の早バレまで出回ったときは、本気でイライラしたものだ。
パソコンの前で何度机を叩いたことか。
……まあ、私怨の話はこのくらいにしておこう。
問題は、先生があの話をした意図だ。
結局その場では、誰一人として答えを出せなかった。
先生もそれ以上は何も言わず、ミーティングはそのまま次の話題へと移ってしまった。
今になって考えてみても、やはりはっきりとは分からない。
先生は、あの話を通して何を伝えたかったのだろうか。
頭の中で先生の言葉を反芻していると、最後に残った意味だけが、静かに浮かび上がってくる。
――結局、言いたかったことはきっと一つだ。
「相手を侮るなよ」
その言葉が、妙に重く胸に残っていた。