「ッ!? どういう意味ですか?」
静かな口調で答える先生に対し、思わず身を乗り出して問い返す。
「どういう意味も何も、言葉通りだ。さっきも言ったが、頭の切れる奴が一人いるだけで、その集団は魔物以上に厄介な相手になる。連中の統率力は並じゃない脅威になるんだ」
コールスタッシュ先生は腕を組みながら、淡々と説明を続けた。
「それだけじゃない。向こう見ずに花を乱獲したり、無計画に集落を襲ったりしない可能性もある。もしそんな真似ばかりしていたら、今頃とっくに魔物に襲われてお陀仏だろうからな」
「た、たしかに……」
理由を聞いて、思わず納得してしまう。
賊だって、馬鹿ばかりだったらこの世界では長く生きていけない。もし無計画に動く連中ばかりなら、今頃どこかで野生の魔物に食い荒らされているはずだ。
となると、連中の中には統率を取るリーダー的な存在が一人くらいいても不思議ではない。
「それにだ。奴らは闇ルートで違法の魔道具を取引している可能性も高い。ああいう所は値段こそ高いが、犯罪をするには便利な魔道具がいくらでも売られている」
「そんなものがあるんですか?」
思わず聞き返すと、先生は少し肩をすくめた。
「完全に姿を消すマント、足音を殺すブーツ……あとは地雷やら、機関銃みたいな武器まで扱っていたな」
先生の話を聞いていると、どうやらこの世界にも闇取引というものが存在するらしい。
裏社会というものは、どうやらどこの世界にもあるものらしい。
そう思うと同時に、ふと頭の中にある人物の顔が浮かんだ。
――あの男、《パット》だ。
あの時、あの男が持っていたバカデカい機関銃。
いったいどこから入手したのか、以前からずっと気になっていた。
もし先生の言う闇ルートが関係しているのだとしたら……。
ひょっとすると、あのドローンも同じようなルートで手に入れたのかもしれない。
そう考えると、あの二人がどれだけ危ないところに手を出していたのか、改めて実感してしまい、少し背筋が寒くなった。
「にしても、随分詳しいんですね?」
素直な疑問を口にすると――
「あっ、もしかして何回か取引してんじゃないんすか? ヤニとかアルコールの代わりになるもんを――お゛お゛お゛お゛お゛っ!?」
「んなことする訳ねーだろ。ブチ殺すぞ!」
「いでででででっ!! ず、ずいまぜんでした~~~!?」
ギリスケが余計なことを言った瞬間、先生の顔色が一変した。
次の瞬間には、先生の手がギリスケの顔面を鷲掴みにしていた。
そのまま握り潰すんじゃないかという勢いで力を込めている。
こめかみに血管が浮き上がり、表情は完全にブチギレ状態。
今日一番キレているんじゃないかと思えるほどの怒りっぷりだ。
……まあ、あんなことを言えば当然だろう。
とはいえ、ギリスケに呆れる一方で――
正直なところ、
「この人ならあり得そうだな」と、ほんの少しだけ思ってしまった自分もいる。
多分、ここにいる全員が同じことを感じているだろう。
ただし、ギリスケのような目に遭うのはごめんだ。
だから誰も口には出さない。
全員、黙ってその考えを胸の奥にしまい込んでいた。
やがて先生は、掴んでいたギリスケを乱暴に放す。
「昔、依頼で闇取引の拠点を壊滅させたことがあってな。そのときに、色々と情報を吐き出させただけだ。まあ、根絶まではいかなかった。今でもどこかでコソコソ取引しているだろうがな」
「そ、そうだったんですか……」
どうやら先生は任務の中で、闇取引の情報を知ったらしい。
だが、今の光景を見ていると――
裏社会の連中をボコボコにして、無理やり情報を吐かせている先生の姿が容易に想像できてしまう。
……それはそれで、かなりヤバい気もするが。
前から思っていたことだが――
よくこの人、学園の教師になれたよな。
改めてそう思わずにはいられなかった。