「とにかく、奴らを甘く見るなよって話がしたかっただけだ。特にマヒロ。お前みたいな戦闘狂は、特に気を付けろよ?」
コールスタッシュ先生はため息混じりにそう言いながら、マヒロを指差した。
「むむ。師範、拙者を見くびるでない。一戦交える相手を見くびったりはしないでござる!」
マヒロは胸を張り、自信満々に言い返す。
「戦う前提で話進めんな。あと、俺はいつからお前の師匠になったんだよ?」
先生が呆れたように眉をひそめる。
「拙者、教えを乞う相手は師範として敬う所存!」
「……あっそ」
マヒロの勢いに、先生は完全に面倒くさくなったようだった。
賊を甘く見るなと何度も念を押したあと、さらにマヒロに向けて厳重注意を促したのだが、「師範」という呼ばれ方もどうやら気に入らなかったらしい。とはいえ、マヒロの妙な熱意に押されたのか、それ以上は追及せず話を切り上げた。
滅茶苦茶言いたいことがありそうな顔はしていたが、きっと面倒くささの方が勝ったのだろう。
「
「なぬ!? それでよいのでござるか? 任務に協力してくれるのは二人だけなのでござろう?」
『たしかに。向こうが仮に倍以上の数で襲ってきたら大変だよ?』
先生の話はまだ続いていた。万が一賊と遭遇した場合には、レルトの人々を避難させたうえで撤退しろという提言だった。
それに対してマヒロとフィーがすぐに反論する。
しかし、二人の言っていることは決して的外れではない。
もし相手側に頭の切れる指揮役がいるのだとすれば、二、三人で行動するより、もっと多い人数で動く可能性の方が高いだろう。
そうなると、騎士団の二人だけに対応を任せるのは少々酷ではないだろうか。
その間にこちらががら空きになり、自分たちが襲われる可能性だってある。
そんな疑問が頭をよぎった。
「ふー……。あのなぁ」
先生は深く息を吐き、少し呆れたように言った。
「賊を甘く見る前に、頼もしい味方まで軽んじんなよ。騎士団の半数以上は、この学園の卒業生だ」
腕を組みながら、先生は淡々と続ける。
「中には学園出身じゃない奴もいるが、どいつも厳しい訓練と試験を乗り越えてきた連中だ。いわば猛者どもの巣窟ってわけだな」
そして、ちらりとこちらを見て、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。
「はっきり言って、お前らみたいに運よく受かった連中とは違う。入学できたくせにすぐ音を上げて辞めていく軟弱共ともな。実力も経験も段違いだ」
……さらっとディスられた。
「要するにだ。お前らなんかに心配されるほど、あいつらはか弱くねぇってことだ。相手が大勢現れようが、多少策を弄されようが、簡単にやられるような連中じゃない」
先生はそこで一度言葉を区切った。
「新人の中にも優秀な奴は多い。問題はねぇよ」
そして最後に、少しだけ声のトーンを落として付け加える。
「あるとするなら――お前らが余計なことして、先輩方の足を引っ張ることくらいだ」
「……」
その言葉に、誰も何も言い返せなかった。
先生は皮肉を交えながら騎士団の実力を説明してくれたが、内容自体は至極真っ当だったからだ。
正直、ところどころでディスられたのは少し癪ではある。
だが、反論する材料がないのも事実だった。
実際、リーヴ村での出来事を思い出してみる。
あの時はリーフさんが一人で事件を解決してしまったため、自分たちは賊を連行するだけで済んだ。
だが、その後の騎士団の動きは見事だった。
都市から離れた場所まで来ていたにもかかわらず、誰一人として動きを乱すことなく、整然と村を後にしていったのだ。
しかも彼らは、あんな重そうな鎧を身につけていた。
普通の体力では、とても長時間動けるような装備ではない。
それでも、まるで何事もないかのように行動していた。
……そう考えると。
先生の言っていることは、決して誇張ではないのかもしれない。