「お前らのすべきことは三つある。一つ、集落の人たちをなるべく遠くに避難させること。二つ、このブザーを鳴らして応援を呼ぶこと。三つ、それまでの間、死なないよう努力することだ。……もう一つ付け足すなら、戦闘は極力避けろ。もし賊のようなガラの悪い連中を先に見かけた場合でも、迷わず鳴らしておけ。その方がこっちも素早く助けに行ける」
先生は淡々とそう言った。
「あの、それってなんですか?」
するとミオが、先生の手元を指さしながら質問を投げかけた。
「あ? ああ、そういえば説明してなかったな」
先生は懐から、小さな道具を取り出した。見た目はどこにでもありそうな防犯ブザーのような形をしている。
ミオだけでなく、その場にいた全員が興味深そうにそれを見つめた。
というのも、先生はまるで当然のように話していたが、それが何なのかを誰も知らなかったからだ。かく言う自分も、防犯ブザーにしか見えないというだけで、それが何なのかまでは分かっていなかった。
「これは遠方から学園に応援を要請できる魔道具だ。これを鳴らせば職員室にアラーム音が流れる仕組みになっている。そして鳴らした場所を教師陣が特定して、すぐに応援を向かわせられるようになっている」
そう説明すると、先生はその魔道具をこちらに差し出してきた。
「各班の代表に一個ずつ渡してある。お前が持っとけ」
「は、はい」
言われるまま受け取る。
「言っとくが、それは貴重なもんだ。失くしたり盗られたりするようなヘマはするなよ?」
先生の目が鋭くなる。
「仮に盗まれて変に悪用でもされたら、学園としては大迷惑だからな。分かったな?」
「……は、はい……」
ものすごい圧だった。
自分の手に魔道具を握らせたまま、先生はじっとこちらを睨みつけている。
……なんで自分が、こんな貴重そうな物を預からなきゃいけないんだ。
内心、思わず舌打ちしたくなる。
「さて、これで任務の詳細については大体話せたはずだ。何か質問がある奴はいるか?」
先生はそう言って周囲を見回した。
「……」
しかし、誰も口を開かない。
こちらとしては大体のことは説明を聞いたし、今さら聞くことも特に思いつかなかった。どうやら他の面々も同じだったようで、数秒ほど沈黙が流れる。
「よし。んじゃあ、これでミーティングは終了だ」
先生は手を叩き、話を締めようとした。
「……最後に俺から一つだけ言いたいことがある」
「言いたいこと?」
思わず聞き返す。
何か重要な注意事項でもあるのだろうか。
「今回の任務は本来、騎士団や冒険者がやるべきレベルの内容だ。それを、入って間もない尻の青いガキ共に任せる理事長の気が知れん」
「……」
……と思ったら、ただの愚痴だった。
何故自分たちが他人の愚痴を聞かなければならないのかは分からないが、ここで茶々を入れると先生が本気でキレそうな気がする。
なので全員、大人しく聞くことにした。
「……だが」
先生は一度言葉を区切った。
「やるからには、しっかりこなしてこい。この任務を乗り越えれば、お前らも一皮剥けるはずだ」
そして、少しだけ表情を緩めて続ける。
「要するに――頑張ってこいってことだ」
「……先生……」
どうやら先生は、最後に激励の言葉を送りたかったらしい。
改めて思うが、この人は口こそ悪いものの、ちゃんと生徒のことを考えているのだろう。
「……拙者、青くないでござる……」
「「……は?」」
先生の言葉にしんみりしていたその時だった。
突然、マヒロが席を立った。
いきなりの行動に、全員の視線が彼女に集まる。しかし、彼女が何を言い出したのか、誰も理解できていなかった。
「拙者、尻は青くないでござるよ!? なんなら確認してみるでござるか!?」
「ッ!? ちょっとマヒロ?! 何しようとしてるの?!」
ミオが慌てて声を上げる。
「師範は見てもいないのに、拙者たちの尻が青いと申したのだぞ?! ならば、拙者の尻が青くないことを証明せねば!」
「いや、それは比喩っていうか……って、ここで脱いじゃ駄目だってー?!」
『女の子がそんなはしたないことしちゃ駄目だよー!?』
マヒロは本気でスカートに手をかけようとしていた。
それをミオとフィーが必死で止める。
「おおっ!? それなら俺が確認してやろう゛う゛う゛っ!?」
「アンタは黙ってて!!」
調子に乗って名乗り出たギリスケの腹に、ミオの鉄拳がめり込んだ。
その場は一瞬、完全なカオス状態になる。
「……ハァ。やっぱこいつらには無理な気がしてきた」
先生は額を押さえ、心底呆れたようにため息を吐いた。
「……は、ははははは……」
自分はというと、乾いた笑いしか出てこない。
どうやらマヒロは「尻が青い」という比喩表現を、文字通りの意味で受け取ってしまったらしい。
青くないことを証明するために、本気で脱ごうとしていたのだ。
それを必死で止めるミオとフィー。
調子に乗って殴られるギリスケ。
呆れ返る先生。
……はたして。
本当にこの面子で、初任務を無事にこなすことができるのだろうか。