転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

218 / 219
第6章ー27

 「……ダメ、サダメ?」

 

 「ッ!? あれ? 俺、ひょっとして寝てた?」

 

 耳元で名前を呼ばれ、はっとして目を開ける。視界に入ってきたのは、こちらを覗き込むミオの顔だった。

 

 「うん。後ろにもたれてたら、急にうたた寝してたよ」

 

 「マジか。わりぃ」

 

 慌てて姿勢を正しながら頭をかく。どうやら自分は、知らないうちに眠ってしまっていたらしい。

 

 『着く手前だったから大丈夫だよ。マヒロちゃんが見張りしててくれたみたいだし』

 

 横からフィーがフォローを入れてくれる。

 

 「そっか。ありがとう、マヒロ」

 

 礼を言うと、マヒロはいつもの落ち着いた様子で軽く頷いた。

 

 「気にせぬで良い。サダメは他の者たちの倍は頑張っていたようでござるし、無理せずもう少し休まれよ」

 

 「いや、もう大丈夫。あんま寝すぎると、いざって時に体が動かなくなるしな」

 

 そう言って肩を回す。眠気はもうほとんど残っていない。

 

 『……そんなことお構いなしに寝てる人いるけどね』

 

 「……こいつ……」

 

 フィーの言葉に視線を向けると、そこには見事に眠りこけている男子二人の姿があった。

 

 そのうちの一人――ギリスケに至っては、座席に横になって完全に熟睡している。しかも気持ちよさそうに寝息まで立てていた。

 

 ……自分が言うのもなんだが、よくこの状況でそんなにぐっすり眠れるものだ。もうすぐ任務だというのに。

 

 呆れてため息をつきかけた、その時だった。

 

 「あ、あのー……もう少しでレルトに着くんですけどー……」

 

 馬車の側面にある小窓から、御者の人が恐る恐る声をかけてきた。

 

 「? どうかしたんですか?」

 

 ミオが首をかしげて尋ねる。

 

 しかし御者の人は、どこか困ったような表情を浮かべていた。

 

 「いえー、その……集落の方から、何やら煙が立っておりまして……」

 

 「?? こんな時間帯に?」

 

 「はい。向こうの方を見てください」

 

 そう言って御者の人は、遠くを指さした。

 

 つられて視線を向ける。

 

 すると確かに、遠くの空に黒い煙がゆっくりと立ち上っているのが見えた。

 

 モクモクと、空へ向かって広がっている。

 

 おかしい。

 

 今はまだ昼頃のはずだ。こんな時間から大きな火を使うような作業をするとは思えない。仮に鍛冶屋でもあるなら別だが、それでも煙の量が明らかに多すぎる。

 

 それに――

 

 鼻をかすめる、かすかな焦げ臭さ。

 

 煙の匂いが、風に乗ってこちらまで届いてきている気がした。

 

 「……」

 

 胸の奥に、嫌な感覚が広がる。

 

 嫌な予感だ。

 

 煙突から上がる煙なんて量じゃない。これはもっと……大きな何かが燃えているような煙だ。

 

 「……サダメ?」

 

 ミオの声が聞こえる。

 

 だが、頭の中では別の思考がぐるぐると回っていた。

 

 どうする。

 

 集落まではもうすぐだ。

 

 しかし今のところ、賊らしき人影は一人も見えていない。

 

 こういう場合でも、応援を呼んでいいのだろうか。

 

 まだ早いかもしれない。

 もう少し様子を見るべきか?

 

 それとも――

 

 「サダメ!?」

 

 「ッ!?」

 

 突然、耳元で大きな声が響いた。

 

 ミオがこちらを心配そうに見ている。

 

 その声で、ようやく思考の渦から引き戻された。

 

 ……危なかった。

 

 このまま悩み続けていたら、判断が遅れていたかもしれない。そうなれば、取り返しのつかない事態になっていた可能性だってある。

 

 今は迷っている場合じゃない。

 

 もし判断ミスだったとしても――その責任は自分が取ればいい。

 

 「皆、よく聞いてくれ」

 

 胸ポケットに手を入れる。

 

 先生から渡された魔道具――応援用のブザーを取り出した。

 

 「今からこのブザーで応援を――」

 

 「もーらいー!」

 

 「なっ!?」

 

 その瞬間だった。

 

 自分の手の中にあったはずのブザーが、ふわりと宙に浮いた。

 

 まるで見えない手に引っ張られたかのように、ゆっくりと馬車の出入り口の方へ移動していく。

 

 しかも――

 

 今、誰か喋らなかったか?

 

 一体どういうことだ?

 

 頭に疑問符が浮かんでいると、馬車の出入り口のところに一人の男が立っているのが見えた。

 

 いつの間にそこにいたのか分からない。

 

 だが、男の手には――

 

 先ほどまで自分が持っていたはずのブザーが握られていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。