第2章ー1
魔物の襲撃を受けてから、約一年が経った。
かつて小さくも温かみのあった村は、今や跡形もない。廃村――いや、墓場と呼ぶ方が正しい惨状だった。
空気は澱み、常に薄暗い。
昼なのか夜なのかすら分からず、陽の光が本当に存在するのか疑いたくなるほどだ。
さらに魔障結界が村を覆い、外の様子を覗くことすらできない。
建物は苔と錆に侵され、道という道には雑草が伸び放題。
手入れする者など、もういない。
村の男と老人はすべて殺された。
女性たちはいくつかの建物へ隔離され、夜になると呻き声や悲鳴が村中に響く。
何をされているのかは知らない。だが、酷い目に遭わされているのは疑いようがなかった。
――母も、あの中にいる。
そう考えるだけで胸が潰れそうになり、俺は耳を塞がずにはいられなかった。
そして、子供である俺たちは――
「おい! 何サボってやがんだ!? クソが!!」
「ぐっ?!」
奴隷のように扱われ、殴られ蹴られるのが日常になっていた。
「ううっ……」
「下等な人間風情がよ。とっとと起きろってんだ!」
背中を棍棒で打たれ、痛みに耐えながら立ち上がろうとする。
だが腹を蹴られ、再び地面に転がった。
「ゲホッ、ゲホッ……」
「ケハハハハ! 蹴ったら起きれねぇじゃん!」
「起きねぇこいつが悪いんだろ? 自業自得だ、ヒハハハハ!」
魔物たちは、悶える俺を見て笑い転げる。
彼らにとって俺たちは、生きた玩具でしかない。
「おら、いい加減作業に戻れよ!」
「ぶっ!?」
再び蹴られる。
起き上がろうとすれば、また殴られる。
終わりはない。
魔物は人間より遥かに力が強い。
一撃で骨が折れることもある。
実際、殴られただけで吐血し、そのまま動かなくなった子もいた。
だから俺は――耐えた。
鍛えていた身体が、皮肉にも役に立ってしまった。
そのせいで、いつの間にか俺は「サンドバッグ役」にされていた。
他の子が殺されずに済んでいるのは救いだ。
だがその分、俺の身体と心には傷が増えていく。
――この生活は、いつまで続く?
――その前に、俺は壊れないか?
そんな不安を、毎日胸の奥で噛み殺していた。
夜。
作業を終えた俺たちは、古びた教会へ押し込まれる。
かつて祈りが捧げられていた場所は、今や囚人の寝床だった。
割れた窓から冷たい風が吹き込み、毛布も布団もない。
外で眠るのと大差ない寒さだ。
「サダメ、すまない。火を頼む」
「分かってる。今つけるよ」
俺は風で集めた小枝を一か所に寄せ、火の魔法を灯す。
イメージするだけで炎は生まれる。
簡素な焚き火が、数分で出来上がった。
「はぁ……あったけぇ……」
皆で炎を囲み、かすかな温もりに身を寄せ合う。
弱い火だが、ないよりはずっといい。
「サダメ。怪我は大丈夫か?」
ラエルが心配そうに俺を見る。
俺が殴られ役になっているのは、皆が知っていた。
「うん。もう慣れたから、大丈夫」
嘘だった。
だが弱音は吐けない。
ここで折れれば、次は他の誰かが犠牲になる。
だから俺は笑った。
虚勢で、誤魔化した。
――壊れる前に、この状況を終わらせなければならない。
だが、その方法はまだ見えない。
「ミオー! ちょっと来てくれ!」
「はーい! 今行く!」
ラエルに呼ばれ、食料を抱えた少女が駆け寄ってくる。
焚き火の炎だけが、静かに揺れていた。