転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー29

 「……?」

 

 凄まじい爆発が起こった瞬間、自分たちは死んだのではないか――そんな考えが一瞬頭をよぎった。

 

 だが、不思議なことに意識はまだある。

 

 それどころか、身体がどこかふわりと浮いているような感覚があった。

 

 おかしい。

 

 もし本当に死んでしまったのなら、こんな感覚があるはずがない。いや、そもそも感覚そのものが残っているのも妙だ。

 

 疑問を抱きながら、自分は恐る恐る瞑っていた目を開いた。

 

 「ッ!? これは……?」

 

 視界が開けた瞬間、思わず声が漏れた。

 

 自分たちは――馬車に乗ったまま、宙を飛んでいた。

 

 地面から完全に離れ、空中に浮いている。

 

 一体、何が起きたというのか。

 

 どうして空を飛んでいる?

 

 そもそも、自分たちは本当に生きているのか?

 

 理解が追いつかず、再び思考が固まりかける。

 

 だが、その直前。

 

 『ふー……ギリギリセーフ』

 

 背後から聞こえた声で、思考停止は免れた。

 

 「ッ?! フィー?! これ、お前がやったのか!?」

 

 振り向くと、そこにはフィーの姿があった。

 

 今の言い方からすると、この状況は彼女が何かした結果らしい。だが、あの一瞬で一体何をしたというのだろうか。

 

 『うん。馬が暴れて危なかったから、一応結界を張っておいたの』

 

 フィーは軽い調子で答える。

 

 『まさか地面が爆発して、そのまま空を飛ぶことになるとは思わなかったけどね』

 

 「結界を? あの一瞬でよくそんなことが出来たな」

 

 思わず感心してしまう。

 

 爆発が起きる直前、ほんのわずかな時間しかなかったはずだ。

 

 『【代弁者マスク(スピーク)】はね、あらかじめ魔法を唱えられるように詠唱とか魔法名を裏側に記録しておけるの』

 

 フィーは自分の装備を指で軽く叩きながら説明する。

 

 『それをセットした状態で魔力を込めれば、すぐに魔法が発動できる仕組みなんだよ』

 

 「つまり……実質、無詠唱で魔法を発動できるってことか?」

 

 『まあね。ただしストックできるのは五つまでだし、切り替えにはちょっとコツがいるの。慣れてないと無駄に時間がかかって、普通に詠唱した方が早いってこともあるけど』

 

 「いや、それでも十分便利な魔道具だろ」

 

 実際、今回みたいな緊急事態では圧倒的に有利だ。

 

 周囲を見渡すと、自分たちは薄く光る壁のようなものに包まれていた。ガラスの箱のような透明な結界が、馬車ごと守っている。

 

 簡易結界とはいえ、あの爆発を防げるほどの強度があるのだ。しかもそれを瞬時に展開したというのだから、魔道具も凄いが、それを使いこなしたフィーも相当なものだ。

 

 もし彼女がいなければ――

 

 今頃、自分たちは確実に全滅していた。

 

 『それはそうと』

 

 フィーがふと声色を変える。

 

 『衝撃に備えた方がいいよ』

 

 「え?」

 

 その直後だった。

 

 『おうっと』

 

 ドンッ!!

 

 「ぐっ!?」

 

 宙を舞っていた馬車が、勢いよく地面へ叩きつけられた。

 

 着地の衝撃で車体が大きく跳ね上がる。

 

 全身に強い衝撃が走ったが、それでもなんとか馬車の中に踏みとどまることができた。

 

 数秒後。

 

 ようやく揺れが収まり、自分たちは地上に戻ってきたことを実感した。

 

 「はあ……助かった」

 

 思わず大きく息を吐く。

 

 「ありがとう、フィー。おかげで命拾いした」

 

 『ふっふっふ』

 

 フィーは胸を張り、得意げに笑った。

 

 『もっと私を褒め称えてもいいんだよ? ……って言いたいところだけど』

 

 すぐに表情を引き締め、周囲を見回す。

 

 『みんな大丈夫?』

 

 「う、うん……私はなんとか」

 

 ミオが少しふらつきながら答える。

 

 「おろー……? なんか奇妙な感覚で目が回ったでござるぅ」

 

 マヒロは頭を押さえながらぐらぐらと揺れていた。突然宙へ放り出されるような状況だったのだ。無理もない。

 

 「んっ……んん……」

 

 そして、最後の一人。

 

 視線を向けると――

 

 ギリスケが座席にもたれたまま、小さく寝息を立てていた。

 

 ……まだ寝ている。

 

 あれだけの爆発があって、空を飛んで、さらに激突したというのに。

 

 「……」

 

 なぜ今ので起きないのか。

 

 まったく理解できなかった。

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