「……?」
凄まじい爆発が起こった瞬間、自分たちは死んだのではないか――そんな考えが一瞬頭をよぎった。
だが、不思議なことに意識はまだある。
それどころか、身体がどこかふわりと浮いているような感覚があった。
おかしい。
もし本当に死んでしまったのなら、こんな感覚があるはずがない。いや、そもそも感覚そのものが残っているのも妙だ。
疑問を抱きながら、自分は恐る恐る瞑っていた目を開いた。
「ッ!? これは……?」
視界が開けた瞬間、思わず声が漏れた。
自分たちは――馬車に乗ったまま、宙を飛んでいた。
地面から完全に離れ、空中に浮いている。
一体、何が起きたというのか。
どうして空を飛んでいる?
そもそも、自分たちは本当に生きているのか?
理解が追いつかず、再び思考が固まりかける。
だが、その直前。
『ふー……ギリギリセーフ』
背後から聞こえた声で、思考停止は免れた。
「ッ?! フィー?! これ、お前がやったのか!?」
振り向くと、そこにはフィーの姿があった。
今の言い方からすると、この状況は彼女が何かした結果らしい。だが、あの一瞬で一体何をしたというのだろうか。
『うん。馬が暴れて危なかったから、一応結界を張っておいたの』
フィーは軽い調子で答える。
『まさか地面が爆発して、そのまま空を飛ぶことになるとは思わなかったけどね』
「結界を? あの一瞬でよくそんなことが出来たな」
思わず感心してしまう。
爆発が起きる直前、ほんのわずかな時間しかなかったはずだ。
『【
フィーは自分の装備を指で軽く叩きながら説明する。
『それをセットした状態で魔力を込めれば、すぐに魔法が発動できる仕組みなんだよ』
「つまり……実質、無詠唱で魔法を発動できるってことか?」
『まあね。ただしストックできるのは五つまでだし、切り替えにはちょっとコツがいるの。慣れてないと無駄に時間がかかって、普通に詠唱した方が早いってこともあるけど』
「いや、それでも十分便利な魔道具だろ」
実際、今回みたいな緊急事態では圧倒的に有利だ。
周囲を見渡すと、自分たちは薄く光る壁のようなものに包まれていた。ガラスの箱のような透明な結界が、馬車ごと守っている。
簡易結界とはいえ、あの爆発を防げるほどの強度があるのだ。しかもそれを瞬時に展開したというのだから、魔道具も凄いが、それを使いこなしたフィーも相当なものだ。
もし彼女がいなければ――
今頃、自分たちは確実に全滅していた。
『それはそうと』
フィーがふと声色を変える。
『衝撃に備えた方がいいよ』
「え?」
その直後だった。
『おうっと』
ドンッ!!
「ぐっ!?」
宙を舞っていた馬車が、勢いよく地面へ叩きつけられた。
着地の衝撃で車体が大きく跳ね上がる。
全身に強い衝撃が走ったが、それでもなんとか馬車の中に踏みとどまることができた。
数秒後。
ようやく揺れが収まり、自分たちは地上に戻ってきたことを実感した。
「はあ……助かった」
思わず大きく息を吐く。
「ありがとう、フィー。おかげで命拾いした」
『ふっふっふ』
フィーは胸を張り、得意げに笑った。
『もっと私を褒め称えてもいいんだよ? ……って言いたいところだけど』
すぐに表情を引き締め、周囲を見回す。
『みんな大丈夫?』
「う、うん……私はなんとか」
ミオが少しふらつきながら答える。
「おろー……? なんか奇妙な感覚で目が回ったでござるぅ」
マヒロは頭を押さえながらぐらぐらと揺れていた。突然宙へ放り出されるような状況だったのだ。無理もない。
「んっ……んん……」
そして、最後の一人。
視線を向けると――
ギリスケが座席にもたれたまま、小さく寝息を立てていた。
……まだ寝ている。
あれだけの爆発があって、空を飛んで、さらに激突したというのに。
「……」
なぜ今ので起きないのか。
まったく理解できなかった。