それはさておき、まずは今の状況を整理しなければならない。
レルトへ向かう道中、進行方向の先に不自然な煙を確認。嫌な予感がして、自分はブザーを鳴らして応援を呼ぼうとした。
――その瞬間だった。
おそらくかなり前から馬車に潜んでいた金髪の男が突如現れ、ブザーを強奪。そのまま馬車から離脱し、姿を消した。
そして直後。
魔導馬が何かを察知したかのように暴れ出し――次の瞬間、地面が爆発。
フィーの結界のおかげで、なんとか全滅は免れた。
「……」
改めて整理してみても、異常な出来事の連続だ。
現在、自分たちがいるのは爆発地点から数メートルほど先。爆風で前方へ吹き飛ばされたのだろう。
振り返って爆心地を見ると、そこは大きく抉れ、まるでクレーターのように地面が陥没していた。黒煙が立ち上り、まだくすぶる火がちらほらと見える。
……あの爆発に直撃していたら、間違いなく全員即死だった。
背筋に冷たいものが走る。
それにしても――
あの爆発は一体何だったのか。
魔法か? それとも魔道具によるものか?
そもそも、なぜこんな何の変哲もない街道で爆発が起きた?
偶然とは思えない。
やはり、あの金髪の男が関与している可能性が高い。
男が口にしていた「“あの場所”に着きそうだ」という言葉。
おそらく、それはこの爆発地点を指していたのだろう。
となると――目的は何だ?
自分たちを殺すことか?
だが、それには前提として、自分たちがこの時間にここを通ると知っている必要がある。
あの男は馬車に潜入していたとはいえ、仲間と連絡を取っていた様子はなかった。この狭い空間で気配を消しながら通信など、いくらなんでも無理がある。
姿や足音を消せても、物音や不自然な動きまでは完全に消せないはずだ。そんなリスクを負うとは思えない。
ならば、狙いは別にあったのか?
それとも、無差別に人を襲うつもりだったのか?
……いや、それもおかしい。
無差別なら、わざわざ自分たちの馬車に潜入する必要がない。
やはり、標的は自分たちだった可能性が高い。
だとすると――
いつから狙われていた?
男の発言から察するに、少なくとも馬車内で作戦会議をしていた時点では、すでに潜んでいたはずだ。
つまり、ソワレルを出て間もない頃には侵入されていたことになる。
あの時点で、すでに狙われていたのか?
それとも、進行方向が同じだったために様子見で乗り込み、そのまま機を窺っていたのか。
可能性はいくつもあるが、決定打がない。
「……」
考えれば考えるほど、答えは遠のく。
嫌な汗がじわりと滲んだ。
『サダメ! サダメ!?』
「ッ!? ご、ごめん――どうしどぅわっ!?」
フィーに呼ばれて我に返った、その瞬間だった。
「きゃっ!?」
ガタンッ!!
再び、馬車が大きく揺れた。
今度はただの揺れではない。
車体が前方へ滑るように傾き、そのまま勢いよく横転した。
視界がぐるりと回転し、衝撃とともに体が叩きつけられる。
数秒後。
ようやく動きが止まり、馬車は横倒しのまま静止した。
……何が起きた?
「いててて……」
身体を起こしながら、状況を確認する。
「あ、あの! 大丈夫ですか?! 今度は何があったん――」
自分の擦り傷などどうでもいい。
まずは御者の安否だ。
そう思い、慌てて窓の方へと身を寄せる。
横転した馬車の隙間から、外の様子を覗き込んだ。
「ッ!? これは……」
息が詰まる。
そこにあったのは――
脚から血を流し、地面に倒れ込んでいる魔導馬。
そして。
頭部から血を流し、ぐったりと動かない御者の姿だった。