転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー31

 「うっ、うぅ……」

 

 「大丈夫ですか!?」

 

 御者から微かに呻き声が漏れた。どうやら息はあるようだが、このまま放置すれば危険な状態に陥るかもしれない。焦りが胸を締め付ける。

 

 「う゛っ、うー……いったぁい……」

 

 「ミオ!? 大丈夫か!?」

 

 どうすべきか判断に迷っていると、背後から聞き慣れた声がした。振り向けば、ミオがゆっくりと上体を起こしている。痛みに顔を歪めてはいるものの、致命的な怪我はなさそうだ。その様子にわずかに安堵する。

 

 「う、うん……ちょっと痛かったけど、大丈夫。傷も特にはないよ。それより、何があったの?」

 

 状況を説明しようにも、自分自身まだ把握しきれていない。だが、今はそんなことに時間を割いている余裕はない。目の前には明らかな負傷者がいるのだから。

 

 「よく分からないが、御者と魔導馬がやられてる。悪いけど、すぐに治療してくれないか?」

 

 「えっ!? う、うん……分かった、今行く」

 

 ミオは困惑した表情を浮かべながらも、事の重大さは理解したらしい。すぐに馬車の外へ出ようと動き出す。

 

 「ッ!? サダメ!? 周りに人が……」

 

 「はあっ!?」

 

 慌てた声に違和感を覚え、急いで外へ目を向ける。

 

 「……嘘だろ……」

 

 そこには、いつの間にか草むらのあちこちから現れた、ガラの悪そうな男たちの姿があった。ざっと見ただけでも十人以上。完全に包囲されている。

 

 まさか――あの金髪の男の仲間か。

 

 何が起きたのか、未だに全貌は掴めない。しかし一つだけ確かなことがある。この状況が、極めて危険だということだ。

 

 「へへへへへ……」

 

 下卑た笑みを浮かべながら、男たちはじりじりと距離を詰めてくる。その異様な圧に、ミオは恐怖を隠せず、自分の腕にしがみついてきた。

 

 「……サダメ……」

 

 「……ああ」

 

 無理もない。この数に囲まれれば、誰だって恐怖する。幸いにも、フィーが展開していた結界はまだかろうじて機能している。だが、このままでは時間の問題だ。完全に包囲され、逃げ場を失うのも遠くない。

 

 どうする――。

 

 『う、うーん……みんな、大丈夫ー?』

 

 「フィー! 無事だったか!」

 

 『サダメにミオ、二人とも無事みたいだね』

 

 「今のところはな。でも、このままだとまずい。動けるか?」

 

 『あー……ごめん。さっき転んだときに、足をちょっと捻っちゃったみたい。痛みは大したことないけど、まともに動くのは厳しいかも……』

 

 「ッ!? フィーちゃん、本当に大丈夫なの!?」

 

 『うん、我慢できるくらいだから、とりあえずは平気だよ』

 

 「駄目だよ、無理しちゃ! 今すぐ治療するからね!」

 

 『ありがとう、ミオー』

 

 フィーもどうにか起き上がったものの、左足を庇うようにしている。軽い捻挫とはいえ、この状況では致命的な足かせになりかねない。

 

 ミオはすぐにフィーのもとへ駆け寄り、治癒魔法の詠唱に入る。その光景を横目に、自分は改めて周囲の敵を見渡した。

 

 じりじりと迫る敵。動けない仲間。負傷した御者と魔導馬。そして、限界が見え始めている結界。

 

 状況は、最悪に近い。

 

 ――さて、この窮地をどう切り抜けるか。

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