「うっ、うぅ……」
「大丈夫ですか!?」
御者から微かに呻き声が漏れた。どうやら息はあるようだが、このまま放置すれば危険な状態に陥るかもしれない。焦りが胸を締め付ける。
「う゛っ、うー……いったぁい……」
「ミオ!? 大丈夫か!?」
どうすべきか判断に迷っていると、背後から聞き慣れた声がした。振り向けば、ミオがゆっくりと上体を起こしている。痛みに顔を歪めてはいるものの、致命的な怪我はなさそうだ。その様子にわずかに安堵する。
「う、うん……ちょっと痛かったけど、大丈夫。傷も特にはないよ。それより、何があったの?」
状況を説明しようにも、自分自身まだ把握しきれていない。だが、今はそんなことに時間を割いている余裕はない。目の前には明らかな負傷者がいるのだから。
「よく分からないが、御者と魔導馬がやられてる。悪いけど、すぐに治療してくれないか?」
「えっ!? う、うん……分かった、今行く」
ミオは困惑した表情を浮かべながらも、事の重大さは理解したらしい。すぐに馬車の外へ出ようと動き出す。
「ッ!? サダメ!? 周りに人が……」
「はあっ!?」
慌てた声に違和感を覚え、急いで外へ目を向ける。
「……嘘だろ……」
そこには、いつの間にか草むらのあちこちから現れた、ガラの悪そうな男たちの姿があった。ざっと見ただけでも十人以上。完全に包囲されている。
まさか――あの金髪の男の仲間か。
何が起きたのか、未だに全貌は掴めない。しかし一つだけ確かなことがある。この状況が、極めて危険だということだ。
「へへへへへ……」
下卑た笑みを浮かべながら、男たちはじりじりと距離を詰めてくる。その異様な圧に、ミオは恐怖を隠せず、自分の腕にしがみついてきた。
「……サダメ……」
「……ああ」
無理もない。この数に囲まれれば、誰だって恐怖する。幸いにも、フィーが展開していた結界はまだかろうじて機能している。だが、このままでは時間の問題だ。完全に包囲され、逃げ場を失うのも遠くない。
どうする――。
『う、うーん……みんな、大丈夫ー?』
「フィー! 無事だったか!」
『サダメにミオ、二人とも無事みたいだね』
「今のところはな。でも、このままだとまずい。動けるか?」
『あー……ごめん。さっき転んだときに、足をちょっと捻っちゃったみたい。痛みは大したことないけど、まともに動くのは厳しいかも……』
「ッ!? フィーちゃん、本当に大丈夫なの!?」
『うん、我慢できるくらいだから、とりあえずは平気だよ』
「駄目だよ、無理しちゃ! 今すぐ治療するからね!」
『ありがとう、ミオー』
フィーもどうにか起き上がったものの、左足を庇うようにしている。軽い捻挫とはいえ、この状況では致命的な足かせになりかねない。
ミオはすぐにフィーのもとへ駆け寄り、治癒魔法の詠唱に入る。その光景を横目に、自分は改めて周囲の敵を見渡した。
じりじりと迫る敵。動けない仲間。負傷した御者と魔導馬。そして、限界が見え始めている結界。
状況は、最悪に近い。
――さて、この窮地をどう切り抜けるか。