転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー32

 「ん~、一体何事でござるか……?」

 

 「マヒロ!?」

 

 必死に打開策を巡らせていたその時、ようやくマヒロが目を覚ました。先ほどまでは完全にグロッキー状態だったが、どうやら意識ははっきりしてきたらしい。まだ状況を把握しきれていない様子で、きょろきょろと周囲を見回している。

 

 だが、今は一から説明している時間などない。

 

 「マヒロ、いきなりで悪いが敵襲だ。いつでも動けるように備えてくれ」

 

 「むむ、敵襲でござるか? しからば――拙者に任せるでござる!」

 

 短く状況を伝えると、彼女は一瞬で表情を引き締めた。先ほどまでの気だるげな様子は消え失せ、鋭い眼差しに変わる。地に落ちていた雷電を素早く拾い上げ、そのまま自然な動作で戦闘態勢へと移行した。

 

 この切り替えの速さ――やはり只者ではない。

 

 「フィー。少し確認したいことがあるんだが……」

 

 『? なに?』

 

 マヒロの戦力は問題ない。となれば、次に重要なのはフィーの結界だ。現状を打開するための要となる以上、曖昧なままにはしておけない。

 

 「結界を一度解除したあと、すぐに張り直すことはできるか?」

 

 『え? う、うん。セットして魔力を流すだけだから、そんなに時間はかからないと思うよ。あんまりやったことはないけど……』

 

 「じゃあ、サイズの調整は? すぐに変えられるか?」

 

 『それもできるけど……そこは私の技量次第かな。いきなり一軒家くらいまで広げろって言われたら厳しいけど、今のサイズを少し変えるくらいなら大丈夫だと思う』

 

 「なるほど……分かった。ありがとう」

 

 必要な情報は揃った。

 

 結界は即座に再展開可能。さらに、ある程度のサイズ調整もできる――ただし大幅な拡張は難しい。

 

 現在の結界は、馬車をぎりぎり包み込む程度の広さしかない。このままでは外に出ることすらできない上、結界を維持したまま移動するのも高度な技術が必要になる。フィーの実力を考えれば、現実的ではないだろう。

 

 かといって、このまま籠城を続けるのは愚策だ。

 

 敵はすでに包囲を完成させつつある。こちらが結界を解除する瞬間を狙っているのは明白だ。時間が経てば経つほど、状況は悪化する。

 

 そして――問題はそれだけではない。

 

 この狭さでは、外で倒れている御者や魔導馬のもとへ近づくことすらできない。窓も顔を出すのがやっとで、人が通れるほどの余裕はない。このまま何もせずにいれば、彼らの命は確実に危険に晒され続けることになる。

 

 つまり、この窮地を誰一人欠けることなく切り抜けるには、時間との戦いになる。

 

 さらに言えば、この騒ぎは集落のすぐ近くで起きている。レルト側でも何か異変が起きている可能性は高い。騎士団の存在もあるはずだが、無事なのかどうかは分からない。

 

 ――状況は、あまりにも不透明で、そして最悪に近い。

 

 「……なら、行くしかねぇか」

 

 思考を巡らせた末、自分は小さく呟いた。

 

 「サダメ?」

 

 不安げに名を呼ぶ声に、はっきりと応える。

 

 「皆、俺に考えがある!」

 

 ここで立ち止まるわけにはいかない。突破し、状況を動かすしかない。

 

 覚悟を決めた自分は、この絶望的な包囲を打ち破るための作戦を、仲間たちに伝え始めた。

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