「ん~、一体何事でござるか……?」
「マヒロ!?」
必死に打開策を巡らせていたその時、ようやくマヒロが目を覚ました。先ほどまでは完全にグロッキー状態だったが、どうやら意識ははっきりしてきたらしい。まだ状況を把握しきれていない様子で、きょろきょろと周囲を見回している。
だが、今は一から説明している時間などない。
「マヒロ、いきなりで悪いが敵襲だ。いつでも動けるように備えてくれ」
「むむ、敵襲でござるか? しからば――拙者に任せるでござる!」
短く状況を伝えると、彼女は一瞬で表情を引き締めた。先ほどまでの気だるげな様子は消え失せ、鋭い眼差しに変わる。地に落ちていた雷電を素早く拾い上げ、そのまま自然な動作で戦闘態勢へと移行した。
この切り替えの速さ――やはり只者ではない。
「フィー。少し確認したいことがあるんだが……」
『? なに?』
マヒロの戦力は問題ない。となれば、次に重要なのはフィーの結界だ。現状を打開するための要となる以上、曖昧なままにはしておけない。
「結界を一度解除したあと、すぐに張り直すことはできるか?」
『え? う、うん。セットして魔力を流すだけだから、そんなに時間はかからないと思うよ。あんまりやったことはないけど……』
「じゃあ、サイズの調整は? すぐに変えられるか?」
『それもできるけど……そこは私の技量次第かな。いきなり一軒家くらいまで広げろって言われたら厳しいけど、今のサイズを少し変えるくらいなら大丈夫だと思う』
「なるほど……分かった。ありがとう」
必要な情報は揃った。
結界は即座に再展開可能。さらに、ある程度のサイズ調整もできる――ただし大幅な拡張は難しい。
現在の結界は、馬車をぎりぎり包み込む程度の広さしかない。このままでは外に出ることすらできない上、結界を維持したまま移動するのも高度な技術が必要になる。フィーの実力を考えれば、現実的ではないだろう。
かといって、このまま籠城を続けるのは愚策だ。
敵はすでに包囲を完成させつつある。こちらが結界を解除する瞬間を狙っているのは明白だ。時間が経てば経つほど、状況は悪化する。
そして――問題はそれだけではない。
この狭さでは、外で倒れている御者や魔導馬のもとへ近づくことすらできない。窓も顔を出すのがやっとで、人が通れるほどの余裕はない。このまま何もせずにいれば、彼らの命は確実に危険に晒され続けることになる。
つまり、この窮地を誰一人欠けることなく切り抜けるには、時間との戦いになる。
さらに言えば、この騒ぎは集落のすぐ近くで起きている。レルト側でも何か異変が起きている可能性は高い。騎士団の存在もあるはずだが、無事なのかどうかは分からない。
――状況は、あまりにも不透明で、そして最悪に近い。
「……なら、行くしかねぇか」
思考を巡らせた末、自分は小さく呟いた。
「サダメ?」
不安げに名を呼ぶ声に、はっきりと応える。
「皆、俺に考えがある!」
ここで立ち止まるわけにはいかない。突破し、状況を動かすしかない。
覚悟を決めた自分は、この絶望的な包囲を打ち破るための作戦を、仲間たちに伝え始めた。