転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー35

 「はあっ!」

 

 「ぐわっ!?」

 

 「うへっ?!」

 

 「ぐえぇっ!?」

 

 馬車の上から飛び降りた自分は、その勢いのまま三人の敵へと斬り込んだ。迅雷を振るい、確実に意識を刈り取る。どうにか全員を無力化することには成功した。

 

 だが――

 

 「……やっぱり、速ぇな」

 

 思わず小さく呟く。

 

 同じ三人を相手にしても、マヒロのように“一瞬”で終わらせることはできなかった。小刀という武器の差もあるだろうが、それ以上に彼女の太刀筋は異常なほどに速い。

 

 まるで比較にならない。天と地ほどの差があることを、嫌でも思い知らされる。

 

 ――まだまだ、未熟だ。

 

 彼女の剣を目の当たりにするたび、己の力量の足りなさが浮き彫りになる。胸の奥に悔しさが燻るが、それを押し殺す。

 

 今は反省している場合じゃない。

 

 「こっちの三人は引き離した! そっちはどうだ、マヒロ!?」

 

 声を張り上げると、すぐに返答が返ってきた。

 

 「無論、こちらも馬車に近づいていた者はすべて退けたでござる! 今が好機でござるよ、フィー殿!」

 

 『ありがとう二人とも! それじゃあ――結界、再展開!』

 

 フィーの声と同時に、再び結界が張られる。

 

 淡い光が広がり、先ほどよりも一回り大きな領域を包み込んだ。これなら馬車の周囲にも余裕が生まれ、ミオが外に出て治療を行うことも可能だろう。

 

 「よし……! そっちは任せたぞ、マヒロ!」

 

 「うむ! サダメの方も頼んだでござるよ!」

 

 「ああ、じゃあまた後で!」

 

 『いってらっしゃーい!』

 

 「気をつけてよ、サダメー!」

 

 「おう!」

 

 仲間たちの声を背に受けながら、自分はその場を離脱する。

 

 背後に倒れ伏す敵たちは、しばらくは動けそうにない。追撃の心配はないだろう。

 

 ――今は、とにかく急ぐ。

 

 レルトの方角へと、全力で駆け出した。

 

 「はあ……はあ……はあ……」

 

 走り続けて数分。息が上がり、肺が焼けるように痛む。

 

 やがて、遠目に見えていた煙の発生源へと近づいてきた。

 

 だが、この辺りは草木が生い茂っており、まだ全体の状況を視認することができない。

 

 「……くそっ、どうなってやがる……」

 

 苛立ちが口をつく。

 

 先ほど襲ってきた連中――あの風体からして、無関係とは到底思えない。むしろ、今回の騒動の一端を担っている可能性は高い。

 

 となれば、あれが例の賊なのか。

 

 服装、態度、目つき――どれを取っても、いかにも“それらしい”。疑う余地はほとんどない。

 

 そして、もしそうだとすれば――

 

 「……集落も、やられてる可能性がある、か……」

 

 最悪の想像が脳裏をよぎる。

 

 騎士団がいるはずだが、あの煙を見る限り、すでに戦闘は始まっている可能性が高い。あれも攻撃魔法によるものだと考えれば辻褄は合う。

 

 ――なら、自分はどう動く?

 

 レルトに到着したあと、何を優先するべきか。

 

 騎士団が応戦しているなら、戦力として加わるべきか――いや。

 

 「……いや、違う」

 

 頭を振る。

 

 先生に言われていたはずだ。自分たちの役目は戦闘ではなく、“住民の安全確保”だと。

 

 軽率に前線へ出れば、足手まといになる可能性の方が高い。

 

 だが――

 

 「それでも……」

 

 一人でも多く助けられるなら。

 

 そう思わずにはいられない。

 

 葛藤を抱えたまま、足を止めることなく走り続ける。

 

 そして――

 

 「ッ!? な、んだ……この状況は……?」

 

 草木を抜け、視界が開けた瞬間。

 

 目の前に広がった光景に、自分は言葉を失った。

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