「はあっ!」
「ぐわっ!?」
「うへっ?!」
「ぐえぇっ!?」
馬車の上から飛び降りた自分は、その勢いのまま三人の敵へと斬り込んだ。迅雷を振るい、確実に意識を刈り取る。どうにか全員を無力化することには成功した。
だが――
「……やっぱり、速ぇな」
思わず小さく呟く。
同じ三人を相手にしても、マヒロのように“一瞬”で終わらせることはできなかった。小刀という武器の差もあるだろうが、それ以上に彼女の太刀筋は異常なほどに速い。
まるで比較にならない。天と地ほどの差があることを、嫌でも思い知らされる。
――まだまだ、未熟だ。
彼女の剣を目の当たりにするたび、己の力量の足りなさが浮き彫りになる。胸の奥に悔しさが燻るが、それを押し殺す。
今は反省している場合じゃない。
「こっちの三人は引き離した! そっちはどうだ、マヒロ!?」
声を張り上げると、すぐに返答が返ってきた。
「無論、こちらも馬車に近づいていた者はすべて退けたでござる! 今が好機でござるよ、フィー殿!」
『ありがとう二人とも! それじゃあ――結界、再展開!』
フィーの声と同時に、再び結界が張られる。
淡い光が広がり、先ほどよりも一回り大きな領域を包み込んだ。これなら馬車の周囲にも余裕が生まれ、ミオが外に出て治療を行うことも可能だろう。
「よし……! そっちは任せたぞ、マヒロ!」
「うむ! サダメの方も頼んだでござるよ!」
「ああ、じゃあまた後で!」
『いってらっしゃーい!』
「気をつけてよ、サダメー!」
「おう!」
仲間たちの声を背に受けながら、自分はその場を離脱する。
背後に倒れ伏す敵たちは、しばらくは動けそうにない。追撃の心配はないだろう。
――今は、とにかく急ぐ。
レルトの方角へと、全力で駆け出した。
「はあ……はあ……はあ……」
走り続けて数分。息が上がり、肺が焼けるように痛む。
やがて、遠目に見えていた煙の発生源へと近づいてきた。
だが、この辺りは草木が生い茂っており、まだ全体の状況を視認することができない。
「……くそっ、どうなってやがる……」
苛立ちが口をつく。
先ほど襲ってきた連中――あの風体からして、無関係とは到底思えない。むしろ、今回の騒動の一端を担っている可能性は高い。
となれば、あれが例の賊なのか。
服装、態度、目つき――どれを取っても、いかにも“それらしい”。疑う余地はほとんどない。
そして、もしそうだとすれば――
「……集落も、やられてる可能性がある、か……」
最悪の想像が脳裏をよぎる。
騎士団がいるはずだが、あの煙を見る限り、すでに戦闘は始まっている可能性が高い。あれも攻撃魔法によるものだと考えれば辻褄は合う。
――なら、自分はどう動く?
レルトに到着したあと、何を優先するべきか。
騎士団が応戦しているなら、戦力として加わるべきか――いや。
「……いや、違う」
頭を振る。
先生に言われていたはずだ。自分たちの役目は戦闘ではなく、“住民の安全確保”だと。
軽率に前線へ出れば、足手まといになる可能性の方が高い。
だが――
「それでも……」
一人でも多く助けられるなら。
そう思わずにはいられない。
葛藤を抱えたまま、足を止めることなく走り続ける。
そして――
「ッ!? な、んだ……この状況は……?」
草木を抜け、視界が開けた瞬間。
目の前に広がった光景に、自分は言葉を失った。