転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー36

 そこにあったのは、あまりにも凄惨な光景だった。

 

 いくつも建っていたはずの家々は無残に崩れ、原形を留めていない。つい先ほどまで、穏やかな日常が営まれていたであろう場所――レルトの人々の姿は、どこにも見当たらなかった。

 

 学園からの依頼で、この集落の護衛に当たっていたはずの騎士団の姿すらない。

 

 目に映るのは、焦げつくような黒煙と、辺り一面に散乱した建物の残骸だけ。

 

 まるで、この一帯だけが災害にでも襲われたかのように、徹底的に破壊し尽くされていた。

 

 「……なんだよ、これ……」

 

 思わず言葉が漏れる。

 

 人が暮らすには十分すぎるほど開けた土地。周囲には、魔物対策として植えられているタリスターの花が点在している。地図で確認した限り、近隣に他の集落はない。

 

 ――ならば、ここがレルトであることは、ほぼ間違いない。

 

 それにしても、あまりにも酷い。

 

 胸の奥がざわつき、吐き気にも似た不快感が込み上げてくる。視界に入るすべてが異様で、現実感が薄れていく。

 

 見渡しても、人の気配は一切ない。

 

 その代わりに、どこからともなく漂ってくる――血の臭い。

 

 「……っ」

 

 思わず息を詰める。

 

 住民たちはどこかへ避難したのか。それとも――

 

 最悪の想像を振り払うように、頭を振る。

 

 「……あのー! 誰かいませんかー!!」

 

 声を張り上げ、周囲に呼びかける。

 

 返事は、ない。

 

 それでも諦めず、瓦礫の間や建物の残骸の影を確認しながら、周囲の捜索を続ける。

 

 「すみませーん! ソワレル魔法学園から依頼を受けて来ました! どなたか怪我をされている方はいませんかー!!」

 

 自分が敵ではないと示すため、あえて所属を明かす。

 

 だが――

 

 やはり、反応はない。

 

 「……おかしい」

 

 小さく呟く。

 

 念のため魔力感知を行うが、引っかかる気配は一つもない。完全な無人。いや、それ以上に“何も残っていない”ような違和感。

 

 たとえ警戒して隠れていたとしても、魔力の気配まで完全に遮断するなど、一般人にできる芸当ではない。

 

 胸の奥に、不穏な感覚が広がっていく。

 

 その違和感を確かめるように、草むらへと足を踏み入れた、その時だった。

 

 「……?」

 

 足裏に、妙な感触が伝わる。

 

 ぬめりを帯びた、不快な感触。

 

 水たまりか――それとも泥か。

 

 いや、違う。

 

 嫌な予感に突き動かされるように、ゆっくりと足元へ視線を落とす。

 

 「ッ!?」

 

 そこにあったのは――血だまりだった。

 

 広がり方は水たまりのようだが、その色は紛れもなく深い赤。しかも、その量は明らかに異常だった。

 

 軽傷どころの話ではない。重傷ですら説明がつかないほどの出血量。

 

 これだけの血を失えば、人は動くことすらできない。

 

 ――いや、そもそも生きていられない。

 

 「う゛っ……!?」

 

 瞬間、胃の奥が強く反応した。

 

 視界が揺れ、吐き気が一気に込み上げてくる。

 

 「っ、ふー……ふー……」

 

 咄嗟に口元を押さえ、必死にそれを堪える。呼吸を整えようとしても、うまくいかない。

 

 これほどの血を見るのは、久しぶりだった。

 

 ――脳裏に蘇る、あの光景。

 

 ドレーカ村が襲われた、あの日。

 

 焼けた匂い、血の臭い、崩れた家々――

 

 「……っ、違う……!」

 

 首を振り、無理やり思考を切り替える。

 

 今はあの時とは違う。ここで取り乱している場合じゃない。冷静になれ。状況を見極めろ。

 

 「アレー? キミー、ここになにか用かな?」

 

 「ッ!?」

 

 不意に、背後から声がかけられた。

 

 全身に緊張が走る。

 

 ――人の声?

 

 だが、おかしい。

 

 ついさっきまで、周囲には気配など一切なかったはずだ。魔力感知にも、何も引っかからなかった。

 

 ――いつから、そこにいた?

 

 「……ふー……」

 

 荒れた呼吸をなんとか整えながら、ゆっくりと振り返る。

 

 「……あんた、何者だ?」

 

 視線の先に立っていたのは、茶髪の男。

 

 どこか余裕を感じさせる立ち姿で、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 その存在だけが、この異様な空間の中で、妙に“浮いて”見えた。

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