「ん? 俺か? そうだなぁ……」
男は自分の問いに対し、わざとらしく顎に手を当て、考え込む素振りを見せる。
「……」
沈黙の中で、じっと相手を見据える。
どう考えても怪しい。いや、“怪しい”などというレベルではない。この状況、この場所において、こんな余裕を見せている時点で異常だ。
――こいつ、間違いなく関係者だ。
先ほど馬車を襲ってきた連中と繋がっていると見て、ほぼ間違いないだろう。
「俺はホープ。この集落の――生き残りだ」
そう名乗る男は、相変わらず薄ら笑いを浮かべていた。
生き残り。
その言葉と、この場の惨状が、どうしても結びつかない。
血の臭いが立ち込める中で、こんな態度を取れる人間が“被害者”であるはずがない。
「あんた……あいつらの仲間か?」
「“あいつら”? 何のことだ?」
「とぼけるな。俺たちの馬車を襲った連中だ。目的はなんだ?」
一歩も引かず、問い詰める。
すると、ホープは一瞬だけ目を細め――
「……はは。やっぱりバレてるか」
あっさりと白状した。
「……」
あまりにもあっけない肯定に、逆に警戒心が強まる。
この余裕――ただの強がりではない。明らかに、何かを確信している態度だ。
油断しているのか。それとも、自分より“上”だとでも思っているのか。
――どちらにせよ、好都合だ。
隙を見て、迅雷で一気に無力化する。
先生からは戦闘を避けるよう言われていたが、この状況ではそうも言っていられない。騎士団の姿もない以上、ここで止めるしかない。
「その制服……魔法学園の生徒か。なるほどな」
「ッ!?」
背後に構えた迅雷に気づかれないよう注意していたが、ホープはそれとは別のところに目を向けていた。
制服。
確かに見れば分かるだろう。だが――
「そういえば、この時期は任務で外に出てる頃だったな」
「……なんで、それを知ってる」
思わず、低く問い返す。
目の前の男は、どう見ても十代後半か、せいぜい二十代前半。そんな若造が、学園の事情を把握しているのは不自然だ。
――情報源がある?
脳裏に、あの金髪の男の姿がよぎる。
「ああ。任務でここに来た。タリスターの花を処分するためにな。あんたらみたいな連中に利用される前に」
隠しても意味はないと判断し、あえて正直に答える。
同時に、相手の意識を会話へと引きつける。狙いは、ほんの一瞬の隙だ。
「ほぉ?」
ホープは興味深そうに眉を上げる。
――いい、食いついている。
「それで……この集落にいた人たちはどうした? 騎士団の人間も二人いたはずだ」
「ああ、いたなぁ。呑気に暮らしてた連中も、やたらと屈強な騎士様も」
「だから――どうしたって聞いてんだ! どこにやった!?」
気づけば、声が荒くなっていた。
焦りと緊張が、理性を削っていく。
「おいおい、そんな怒鳴らなくても聞こえてるっての」
軽く肩をすくめるホープ。
その態度が、さらに神経を逆撫でする。
――落ち着け。
ここで感情に任せて動けば、仕留め損ねる。
歯を食いしばり、どうにか冷静さを保つ。
「あー……そうだな。結論から言えば、俺の魔法で全員“消した”」
「ッ!? 消した、だと……?」
「跡形もなく、な」
その一言で、背筋に冷たいものが走る。
消した――つまり、殺したということか。
だが、“跡形もなく”という表現が引っかかる。
人間だけでなく、建物すらこの有様だ。まるで存在そのものを削り取ったかのような――
「どんな魔法を……」
言葉が途切れる。
理解が追いつかない。
「あ、でもな――」
ホープが、ふと思い出したように足元へ視線を落とす。
「これだけは、残ってたぜ」
「ッ!?」
軽い調子で拾い上げられた“それ”を見た瞬間、全身に寒気が走った。
それは――
騎士団の装備である籠手を装着した、“腕の一部”。
切断されたそれは、まだ新しく、乾ききっていない血がこびりついている。
現実離れした惨状の中で、それだけが妙に生々しく――
確かに“人がここにいた”証として、そこに存在していた。