転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー37

 「ん? 俺か? そうだなぁ……」

 

 男は自分の問いに対し、わざとらしく顎に手を当て、考え込む素振りを見せる。

 

 「……」

 

 沈黙の中で、じっと相手を見据える。

 

 どう考えても怪しい。いや、“怪しい”などというレベルではない。この状況、この場所において、こんな余裕を見せている時点で異常だ。

 

 ――こいつ、間違いなく関係者だ。

 

 先ほど馬車を襲ってきた連中と繋がっていると見て、ほぼ間違いないだろう。

 

 「俺はホープ。この集落の――生き残りだ」

 

 そう名乗る男は、相変わらず薄ら笑いを浮かべていた。

 

 生き残り。

 

 その言葉と、この場の惨状が、どうしても結びつかない。

 

 血の臭いが立ち込める中で、こんな態度を取れる人間が“被害者”であるはずがない。

 

 「あんた……あいつらの仲間か?」

 

 「“あいつら”? 何のことだ?」

 

 「とぼけるな。俺たちの馬車を襲った連中だ。目的はなんだ?」

 

 一歩も引かず、問い詰める。

 

 すると、ホープは一瞬だけ目を細め――

 

 「……はは。やっぱりバレてるか」

 

 あっさりと白状した。

 

 「……」

 

 あまりにもあっけない肯定に、逆に警戒心が強まる。

 

 この余裕――ただの強がりではない。明らかに、何かを確信している態度だ。

 

 油断しているのか。それとも、自分より“上”だとでも思っているのか。

 

 ――どちらにせよ、好都合だ。

 

 隙を見て、迅雷で一気に無力化する。

 

 先生からは戦闘を避けるよう言われていたが、この状況ではそうも言っていられない。騎士団の姿もない以上、ここで止めるしかない。

 

 「その制服……魔法学園の生徒か。なるほどな」

 

 「ッ!?」

 

 背後に構えた迅雷に気づかれないよう注意していたが、ホープはそれとは別のところに目を向けていた。

 

 制服。

 

 確かに見れば分かるだろう。だが――

 

 「そういえば、この時期は任務で外に出てる頃だったな」

 

 「……なんで、それを知ってる」

 

 思わず、低く問い返す。

 

 目の前の男は、どう見ても十代後半か、せいぜい二十代前半。そんな若造が、学園の事情を把握しているのは不自然だ。

 

 ――情報源がある?

 

 脳裏に、あの金髪の男の姿がよぎる。

 

 「ああ。任務でここに来た。タリスターの花を処分するためにな。あんたらみたいな連中に利用される前に」

 

 隠しても意味はないと判断し、あえて正直に答える。

 

 同時に、相手の意識を会話へと引きつける。狙いは、ほんの一瞬の隙だ。

 

 「ほぉ?」

 

 ホープは興味深そうに眉を上げる。

 

 ――いい、食いついている。

 

 「それで……この集落にいた人たちはどうした? 騎士団の人間も二人いたはずだ」

 

 「ああ、いたなぁ。呑気に暮らしてた連中も、やたらと屈強な騎士様も」

 

 「だから――どうしたって聞いてんだ! どこにやった!?」

 

 気づけば、声が荒くなっていた。

 

 焦りと緊張が、理性を削っていく。

 

 「おいおい、そんな怒鳴らなくても聞こえてるっての」

 

 軽く肩をすくめるホープ。

 

 その態度が、さらに神経を逆撫でする。

 

 ――落ち着け。

 

 ここで感情に任せて動けば、仕留め損ねる。

 

 歯を食いしばり、どうにか冷静さを保つ。

 

 「あー……そうだな。結論から言えば、俺の魔法で全員“消した”」

 

 「ッ!? 消した、だと……?」

 

 「跡形もなく、な」

 

 その一言で、背筋に冷たいものが走る。

 

 消した――つまり、殺したということか。

 

 だが、“跡形もなく”という表現が引っかかる。

 

 人間だけでなく、建物すらこの有様だ。まるで存在そのものを削り取ったかのような――

 

 「どんな魔法を……」

 

 言葉が途切れる。

 

 理解が追いつかない。

 

 「あ、でもな――」

 

 ホープが、ふと思い出したように足元へ視線を落とす。

 

 「これだけは、残ってたぜ」

 

 「ッ!?」

 

 軽い調子で拾い上げられた“それ”を見た瞬間、全身に寒気が走った。

 

 それは――

 

 騎士団の装備である籠手を装着した、“腕の一部”。

 

 切断されたそれは、まだ新しく、乾ききっていない血がこびりついている。

 

 現実離れした惨状の中で、それだけが妙に生々しく――

 

 確かに“人がここにいた”証として、そこに存在していた。

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