転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー38

 「う゛っ……!? う゛おぇ゛っ!!」

 

 銀色の籠手の隙間から覗く、生々しい肉片。そして、そこから滴り落ちる鮮やかな赤。

 

 その光景を視界に入れた瞬間、胃の奥が強くひっくり返った。

 

 膝から崩れ落ちるように地面に倒れ込み、そのまま耐えきれず吐き出してしまう。

 

 「あーあーあー……キタねーなぁ、おい」

 

 頭上から、呆れたような声が降ってくる。

 

 「はあ……はあ……はあ……」

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、どうにか意識を繋ぎ止める。

 

 視界の端で、ホープがわずかに不機嫌そうに顔をしかめているのが見えた。

 

 ――こいつ、正気じゃない。

 

 籠手越しとはいえ、さっきまで生きていた人間の一部を、まるで落ちている石でも拾うかのように扱う。

 

 常軌を逸している。理解しようとするだけ無駄だ。

 

 「はあ……はあ……あんた……その人を……殺したのか……?」

 

 震える声を絞り出す。

 

 「ん? だから言ったろ。“全員消した”って」

 

 「……つまり……殺したってことか……!?」

 

 「まあ、そうなるな」

 

 軽い口調で返される肯定。

 

 まるで、どうでもいい話でもするかのように。

 

 「本当はさぁ、男だけ始末して、女は遊び用に残すつもりだったんだけどなぁ。けど相手があの騎士団様だろ? さすがに手加減できなくてよ。つい、やりすぎちまった」

 

 「……」

 

 その言葉に、頭の中が真っ白になる。

 

 ふざけている。

 

 命を、なんだと思っている。

 

 怒りが、じわじわと胸の奥から込み上げてくる。

 

 「……お前は……」

 

 ふらつく足で、なんとか立ち上がる。

 

 視界はまだ揺れている。それでも、目の前の男から目を逸らすことはできなかった。

 

 「なんで、そんなにヘラヘラしてられるんだ……?」

 

 「あ゛?」

 

 ホープの表情が、わずかに歪む。

 

 「人の命を……なんだと思ってる!!」

 

 その瞬間、何かが切れた。

 

 頭の中で、理性の糸が音を立てて弾け飛ぶ。

 

 気がつけば、背後に隠していた迅雷を振りかぶり、一直線にホープへと突撃していた。

 

 ――止めなければ。

 

 どんな手を使ったのかは分からない。だが、騎士団がいない今、こいつを止められるのは自分たちしかいない。

 

 これ以上、被害を出させるわけにはいかない。

 

 「……【吸引《サクション》】」

 

 振り下ろす直前。

 

 ホープの口から、ぽつりと一言が零れた。

 

 詠唱――いや、ほとんど無詠唱に近い。

 

 「なっ……!?」

 

 次の瞬間。

 

 振り下ろすはずだった右腕が、何かに引き寄せられるように横へと逸らされた。

 

 まるで見えない手に掴まれたかのように、強制的に軌道をずらされる。

 

 「おらっ!」

 

 「がっ!?」

 

 体勢が崩れた隙を、見逃されるはずもなかった。

 

 腹部に強烈な蹴りが叩き込まれ、身体が宙に浮く。

 

 そのまま地面を転がり、数メートル先まで吹き飛ばされた。

 

 「ぐっ……はぁっ……!」

 

 肺の中の空気が一気に押し出され、まともに呼吸ができない。

 

 ――今のは、なんだ。

 

 右腕が引っ張られた感覚。

 

 まるで“吸われた”かのような――

 

 あれが、奴の魔法か?

 

 風系統か、それとも重力操作に近い何かか。

 

 「……あのよぉ」

 

 思考を巡らせようとした、その時だった。

 

 気配が、すぐ目の前にあることに気づく。

 

 いつの間にか、ホープが真上に立っていた。

 

 手には、鈍く光るナイフ。

 

 「俺らみたいな連中はさぁ……綺麗事ほざく馬鹿が、死ぬほど嫌いなんだよ」

 

 見下ろしてくるその目には、先ほどまでの軽薄さとは違う、歪んだ愉悦が浮かんでいた。

 

 「そういうの見てるとさぁ……」

 

 ゆっくりと、ナイフが振り上げられる。

 

 「イジメたく、なんだよなぁ!!」

 

 「――ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 鋭い痛みが、右太ももを貫いた。

 

 「がああああっ!!」

 

 ナイフが、深く突き刺さる。

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