「う゛っ……!? う゛おぇ゛っ!!」
銀色の籠手の隙間から覗く、生々しい肉片。そして、そこから滴り落ちる鮮やかな赤。
その光景を視界に入れた瞬間、胃の奥が強くひっくり返った。
膝から崩れ落ちるように地面に倒れ込み、そのまま耐えきれず吐き出してしまう。
「あーあーあー……キタねーなぁ、おい」
頭上から、呆れたような声が降ってくる。
「はあ……はあ……はあ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、どうにか意識を繋ぎ止める。
視界の端で、ホープがわずかに不機嫌そうに顔をしかめているのが見えた。
――こいつ、正気じゃない。
籠手越しとはいえ、さっきまで生きていた人間の一部を、まるで落ちている石でも拾うかのように扱う。
常軌を逸している。理解しようとするだけ無駄だ。
「はあ……はあ……あんた……その人を……殺したのか……?」
震える声を絞り出す。
「ん? だから言ったろ。“全員消した”って」
「……つまり……殺したってことか……!?」
「まあ、そうなるな」
軽い口調で返される肯定。
まるで、どうでもいい話でもするかのように。
「本当はさぁ、男だけ始末して、女は遊び用に残すつもりだったんだけどなぁ。けど相手があの騎士団様だろ? さすがに手加減できなくてよ。つい、やりすぎちまった」
「……」
その言葉に、頭の中が真っ白になる。
ふざけている。
命を、なんだと思っている。
怒りが、じわじわと胸の奥から込み上げてくる。
「……お前は……」
ふらつく足で、なんとか立ち上がる。
視界はまだ揺れている。それでも、目の前の男から目を逸らすことはできなかった。
「なんで、そんなにヘラヘラしてられるんだ……?」
「あ゛?」
ホープの表情が、わずかに歪む。
「人の命を……なんだと思ってる!!」
その瞬間、何かが切れた。
頭の中で、理性の糸が音を立てて弾け飛ぶ。
気がつけば、背後に隠していた迅雷を振りかぶり、一直線にホープへと突撃していた。
――止めなければ。
どんな手を使ったのかは分からない。だが、騎士団がいない今、こいつを止められるのは自分たちしかいない。
これ以上、被害を出させるわけにはいかない。
「……【吸引《サクション》】」
振り下ろす直前。
ホープの口から、ぽつりと一言が零れた。
詠唱――いや、ほとんど無詠唱に近い。
「なっ……!?」
次の瞬間。
振り下ろすはずだった右腕が、何かに引き寄せられるように横へと逸らされた。
まるで見えない手に掴まれたかのように、強制的に軌道をずらされる。
「おらっ!」
「がっ!?」
体勢が崩れた隙を、見逃されるはずもなかった。
腹部に強烈な蹴りが叩き込まれ、身体が宙に浮く。
そのまま地面を転がり、数メートル先まで吹き飛ばされた。
「ぐっ……はぁっ……!」
肺の中の空気が一気に押し出され、まともに呼吸ができない。
――今のは、なんだ。
右腕が引っ張られた感覚。
まるで“吸われた”かのような――
あれが、奴の魔法か?
風系統か、それとも重力操作に近い何かか。
「……あのよぉ」
思考を巡らせようとした、その時だった。
気配が、すぐ目の前にあることに気づく。
いつの間にか、ホープが真上に立っていた。
手には、鈍く光るナイフ。
「俺らみたいな連中はさぁ……綺麗事ほざく馬鹿が、死ぬほど嫌いなんだよ」
見下ろしてくるその目には、先ほどまでの軽薄さとは違う、歪んだ愉悦が浮かんでいた。
「そういうの見てるとさぁ……」
ゆっくりと、ナイフが振り上げられる。
「イジメたく、なんだよなぁ!!」
「――ッ!?」
次の瞬間。
鋭い痛みが、右太ももを貫いた。
「がああああっ!!」
ナイフが、深く突き刺さる。