「っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
太ももを貫いた刃の感触が、瞬時に全身へと広がった。
焼けつくような激痛が神経を駆け上がり、思考を容赦なく破壊する。
まるで、冷たい鉄の塊を無理やり肉にねじ込まれたかのような異物感と圧迫感。そのすべてが混ざり合い、耐えがたい苦痛となって襲いかかってくる。
痛い――そんな単純な言葉では足りない。
殴られるなど比較にならないほどの痛みが、理性を削り取っていく。
「ぎゃははははは! いい悲鳴じゃねーか! やっぱこれがあるからやめられねぇんだよなぁ!」
耳障りな笑い声が響く。
涙で滲む視界の中、ホープが心底愉しそうにこちらを見下ろしていた。
「ぐぅっ……!」
歯を食いしばるが、声は抑えきれない。
――こいつ、本当に狂ってる。
「なぁ、お前さっき言ってたよな? “人の命をなんだと思ってる”ってよ」
「があっ!?」
言葉と同時に、突き刺さっていたナイフが引き抜かれる。
次の瞬間、間髪入れず――
再び、同じ場所へと深く突き立てられた。
「っ――あああああっ!!」
先ほど以上の激痛が走る。
一度傷ついた箇所を、さらに抉るような攻撃。神経が悲鳴を上げ、意識が揺らぐ。
まともに会話をする余裕など、もう残っていない。
「答え、教えてやるよ」
ホープは楽しげに口角を吊り上げた。
「そんなもん――なんとも思ってねぇよ」
「なっ……!」
辛うじて、その言葉だけが耳に届く。
「俺たちだけじゃねぇ。世の中の大半はそんなもんだろ。誰が死のうが関係ねぇ。数日もすりゃ忘れる。所詮、その程度なんだよ」
「……ふざける、な……」
かすれた声が漏れる。
そんなはずがない。
そんなこと、認められるわけがない。
「いいか? 世の中ってのはな、綺麗事だらけなんだよ。“命は大事”だの“死んだら悲しい”だの、全部建前だ。本音じゃ誰も気にしちゃいねぇ。自分が善人に見られたいだけなんだよ」
「ぐああっ!?」
言葉の途中で、三度目の刺突。
肉を裂く感触が、より鮮明に伝わってくる。
視界がぐらりと歪む。
――まずい。
このままじゃ、本当に死ぬ。
出血がひどい。意識も、徐々に遠のいていく。
だが、反撃の手段がない。
最初の一撃で、手にしていた迅雷を手放してしまった。今はもう手の届かない場所に転がっている。
魔法を使う余裕もない。
完全な、劣勢。
――しくじった。
一人で来るべきじゃなかった。
後悔が、遅れて胸に刺さる。
「そうだろ? どうせ皆、死ぬんだ。だったらいちいち気にする方が馬鹿なんだよ。泣いたフリして、同情したフリして……見てて気持ち悪くてしょうがねぇ」
ホープの言葉は止まらない。
興奮しているのか、どんどん饒舌になっていく。
「だったらさぁ――いっそ正直に笑ってやった方がマシじゃねぇか? 死体蹴って、嘲笑ってよぉ!」
「あ゛あ゛っ!! ぐっ……!! う゛……!!」
ナイフが、何度も同じ場所に突き立てられる。
痛みが限界を超え、逆に感覚が鈍り始めていた。
視界が霞む。
意識が、落ちる。
――このままじゃ……
「飛ばせ、暴風の片鱗よ――【飛暴の小嵐《フラーム・ストーム》】!!」
「ぐわっ!?」
突如、風の塊が炸裂した。
ホープの身体が、強引に弾き飛ばされる。
「ッ……!?」
何が起きたのか理解する前に、圧力だけがその場を駆け抜けた。
――風魔法?
まさか――
「大丈夫!? サダメ!」
聞き慣れた声が、耳に届く。
「……ミオ……」
かすむ視界の先。
そこには、必死な表情でこちらへ駆け寄ってくるミオの姿があった。