転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー40

 「ッ!? サダメ、その怪我は!?」

 

 「……ああ、ちょっと……しくじった……」

 

 ミオはホープを吹き飛ばすや否や、血にまみれた自分の姿を見て顔色を変えた。すぐさま駆け寄り、ためらいもなく治癒魔法の準備に入る。

 

 「今すぐ治すから! じっとしてて!」

 

 有無を言わせぬ声音だった。

 

 色々と聞きたいことはある。どうしてここに来たのか、フィーやマヒロは無事なのか――だが、今の自分にはそれを考える余裕すらなかった。

 

 助けに来てくれた。それだけで十分だった。

 

 「いってて……なにしやがった、クソガキ……」

 

 「ッ!?」

 

 その時だった。

 

 吹き飛ばされたはずのホープが、ゆっくりと起き上がる。

 

 先ほどまでの余裕は消え、明らかな怒りを滲ませた表情でこちらを睨みつけていた。

 

 ――まずい。

 

 このままでは、治療が終わる前に再び襲われる。

 

 「ミ、ミオ……一旦離れ――」

 

 「吹き荒れろ、嵐の防壁よ――【乱気流の城壁《タービュ・ランパート》】!」

 

 自分の言葉を遮るように、ミオが詠唱を完成させる。

 

 次の瞬間、激しい風が渦を巻き、自分たちの周囲を覆うようにドーム状の壁を形成した。

 

 「うおっ!?」

 

 突進しようとしていたホープが、その風圧に弾かれる。

 

 ――防御魔法。

 

 しかも、かなりの強度だ。

 

 「よし……これで、治療に集中できる」

 

 安堵の息をつきながら、ミオは再びこちらへ向き直る。

 

 「……すげぇな、ミオ。いつの間にそんな魔法覚えたんだ?」

 

 思わず本音が漏れる。

 

 かつての彼女は、ただ魔力を放出するだけの単純な使い方しかできなかったはずだ。それが今では、攻撃と防御を的確に使い分けている。

 

 「学校の図書館で勉強したの。……って言っても、まだ初級くらいだけど」

 

 少し照れたように答えるミオ。

 

 「ははっ……それでも十分すごいよ」

 

 素直に称賛を送る。

 

 あの厳しい指摘を受けてから、ほんの数日。そこからここまで成長するとは、正直予想していなかった。

 

 ――努力してたんだな。

 

 そう思うと、自然と胸が温かくなる。

 

 「聖なる風の精よ、傷を負いし者に癒しの加護を――【風精霊の恩寵《ウィンリットグレース》】」

 

 詠唱とともに、柔らかな光が生まれる。

 

 ミオは自分の太ももに直接触れないよう、わずかに距離を取って両手をかざした。

 

 すると、淡い緑色のスライム状の塊が現れ、傷口の周囲を包み込むように広がる。

 

 「……っ!?」

 

 触れた瞬間、温かな風がじんわりと傷口を撫でた。

 

 最初はわずかな痛みを伴ったが、すぐにそれは和らぎ、代わりに心地よい温もりへと変わっていく。

 

 まるで、内側から修復されていくような感覚。

 

 「もう少しで終わるから、ちょっとだけ我慢してね」

 

 「ああ……それにしても……すげぇな……」

 

 目を見開く。

 

 さっきまで血が溢れ出ていたはずの傷が、みるみるうちに塞がっていく。

 

 肉が再生し、出血も止まり、痛みすら急速に引いていく。

 

 以前なら、かすり傷一つ治すにも時間がかかっていたはずだ。それが今では、この回復速度。

 

 「よし……これで大丈夫!」

 

 ミオが手を引くと、そこにはもう深い傷の痕はほとんど残っていなかった。

 

 「……ありがとう、ミオ。本当に助かった」

 

 心からの言葉だった。

 

 「ふぅ……間に合ってよかったぁ」

 

 ミオも安堵したように胸をなで下ろす。

 

 恐らく、この魔法もぶっつけ本番に近かったのだろう。それでも成功させたのは、彼女の努力と覚悟の賜物だ。

 

 ――命を救われた。

 

 その事実が、今さらのように実感として押し寄せてくる。

 

 「……ふぅ」

 

 ゆっくりと息を吐き、身体の調子を確かめる。

 

 痛みはほとんどない。動くことも問題なさそうだ。

 

 「とりあえず……命の危機は脱したな」

 

 そう呟きながら、視線を前へ向ける。

 

 「……けど」

 

 風の壁の向こう。

 

 まだそこにいるはずの敵の存在を思い出す。

 

 「問題は、ここからだ」

 

 治療は終わった。

 

 だが、戦いはまだ終わっていない。

 

 ホープ――そして、この惨状を生み出した“賊”を、ここで止めなければならない。

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