「ッ!? サダメ、その怪我は!?」
「……ああ、ちょっと……しくじった……」
ミオはホープを吹き飛ばすや否や、血にまみれた自分の姿を見て顔色を変えた。すぐさま駆け寄り、ためらいもなく治癒魔法の準備に入る。
「今すぐ治すから! じっとしてて!」
有無を言わせぬ声音だった。
色々と聞きたいことはある。どうしてここに来たのか、フィーやマヒロは無事なのか――だが、今の自分にはそれを考える余裕すらなかった。
助けに来てくれた。それだけで十分だった。
「いってて……なにしやがった、クソガキ……」
「ッ!?」
その時だった。
吹き飛ばされたはずのホープが、ゆっくりと起き上がる。
先ほどまでの余裕は消え、明らかな怒りを滲ませた表情でこちらを睨みつけていた。
――まずい。
このままでは、治療が終わる前に再び襲われる。
「ミ、ミオ……一旦離れ――」
「吹き荒れろ、嵐の防壁よ――【乱気流の城壁《タービュ・ランパート》】!」
自分の言葉を遮るように、ミオが詠唱を完成させる。
次の瞬間、激しい風が渦を巻き、自分たちの周囲を覆うようにドーム状の壁を形成した。
「うおっ!?」
突進しようとしていたホープが、その風圧に弾かれる。
――防御魔法。
しかも、かなりの強度だ。
「よし……これで、治療に集中できる」
安堵の息をつきながら、ミオは再びこちらへ向き直る。
「……すげぇな、ミオ。いつの間にそんな魔法覚えたんだ?」
思わず本音が漏れる。
かつての彼女は、ただ魔力を放出するだけの単純な使い方しかできなかったはずだ。それが今では、攻撃と防御を的確に使い分けている。
「学校の図書館で勉強したの。……って言っても、まだ初級くらいだけど」
少し照れたように答えるミオ。
「ははっ……それでも十分すごいよ」
素直に称賛を送る。
あの厳しい指摘を受けてから、ほんの数日。そこからここまで成長するとは、正直予想していなかった。
――努力してたんだな。
そう思うと、自然と胸が温かくなる。
「聖なる風の精よ、傷を負いし者に癒しの加護を――【風精霊の恩寵《ウィンリットグレース》】」
詠唱とともに、柔らかな光が生まれる。
ミオは自分の太ももに直接触れないよう、わずかに距離を取って両手をかざした。
すると、淡い緑色のスライム状の塊が現れ、傷口の周囲を包み込むように広がる。
「……っ!?」
触れた瞬間、温かな風がじんわりと傷口を撫でた。
最初はわずかな痛みを伴ったが、すぐにそれは和らぎ、代わりに心地よい温もりへと変わっていく。
まるで、内側から修復されていくような感覚。
「もう少しで終わるから、ちょっとだけ我慢してね」
「ああ……それにしても……すげぇな……」
目を見開く。
さっきまで血が溢れ出ていたはずの傷が、みるみるうちに塞がっていく。
肉が再生し、出血も止まり、痛みすら急速に引いていく。
以前なら、かすり傷一つ治すにも時間がかかっていたはずだ。それが今では、この回復速度。
「よし……これで大丈夫!」
ミオが手を引くと、そこにはもう深い傷の痕はほとんど残っていなかった。
「……ありがとう、ミオ。本当に助かった」
心からの言葉だった。
「ふぅ……間に合ってよかったぁ」
ミオも安堵したように胸をなで下ろす。
恐らく、この魔法もぶっつけ本番に近かったのだろう。それでも成功させたのは、彼女の努力と覚悟の賜物だ。
――命を救われた。
その事実が、今さらのように実感として押し寄せてくる。
「……ふぅ」
ゆっくりと息を吐き、身体の調子を確かめる。
痛みはほとんどない。動くことも問題なさそうだ。
「とりあえず……命の危機は脱したな」
そう呟きながら、視線を前へ向ける。
「……けど」
風の壁の向こう。
まだそこにいるはずの敵の存在を思い出す。
「問題は、ここからだ」
治療は終わった。
だが、戦いはまだ終わっていない。
ホープ――そして、この惨状を生み出した“賊”を、ここで止めなければならない。