――ちっ。
やられた。
あまりにも興奮しすぎて、不意打ちに気づけなかった。挙げ句の果てに、防御魔法まで張りやがるとはな。
おかげで、俺は何もできずにその場で立ち尽くす羽目になった。
「……クソが」
舌打ちが漏れる。
想定外だったのは、もう一人がこのタイミングで現れたことだ。いや、増援が来る可能性自体は織り込み済みだった。問題は“来方”だ。
普通は二人同時に来るだろうが。
時間差で来るとか、地味に一番めんどくせぇパターンじゃねぇか。
「ホープさん」
「ああん?」
考えを巡らせていると、不意に後ろから声がかかった。
振り向かずとも分かる。ルーフェスだ。
……ったく、気配を一切感じなかったな。
どうやら【気配殺し《サイン・キラー》】のマントに加えて、【完全沈黙《パーフェレンス》】のブーツまで使ってやがるらしい。
あの装備は全員に持たせているが、ここまで自然に使いこなせるのはこいつくらいだ。
だからこそ、情報収集みたいな面倒な仕事は全部こいつに押し付けている。
今回、この集落にタリスターの花があるって情報も、こいつが拾ってきたもんだ。
……使える駒が一人いるだけで、だいぶ楽になるもんだな。
「さっき報告した馬車の件ですが……少々厄介な状況になりまして」
「……何?」
眉をひそめる。
「腕の立つ女が一人いまして。そいつに、こちらが苦戦を強いられているようです。いかがなさいますか?」
「……はぁ?」
思わずため息が出た。
「女一人相手に、何やってんだあいつらは」
苛立ちが増す。
「お前が行って片付けてこい。俺はこっち終わらせてから合流する」
「っ!? お、俺がですか!?」
素っ頓狂な声を上げやがった。
「当たり前だろうが」
低く吐き捨てる。
「その魔道具、一番まともに使えてんのはお前だろ? だから特別に他のも渡してやってんだよ。頭使ってなんとかしろ」
一歩、間を詰める。
「……今、虫の居所が悪いんだ。これ以上ごちゃごちゃ抜かすなら――殺すぞ?」
「ひ、ひぃっ……! は、はい!」
顔を青ざめさせて頷くルーフェス。
「分かったらさっさと行け」
「は、はいぃ!!」
怒鳴りつけると、奴は慌ててその場を離脱した。
……もちろん、気配ごと綺麗に消してな。
「……ったく」
肩を鳴らす。
魔道具の扱いは一流だが、判断力は三流。
使えなくはねぇが、いちいち指示を仰いでくるのが鬱陶しい。
全部俺に丸投げしてんじゃねぇよ。
「……はぁ」
軽く息を吐き、視線を前へ戻す。
目の前には、あの女が張った風のドーム。
荒れ狂う気流が壁となって、こちらの侵入を阻んでいる。
「風魔法、か……」
舌打ち。
俺の魔法と相性が悪いわけじゃねぇ。
だが、妙にやりづらい。
吸引も軌道操作も、風に干渉されると微妙に狂いやがる。
正直、面倒な相手だ。
「……ま、いいか」
口元が歪む。
俺には“奥の手”がある。
あれを使えば、こんな小細工ごとき関係ねぇ。
騎士団の連中だって、それでまとめて消してやったんだ。
同じことをやるだけだ。
問題は――
「……気づけるか、どうかだな」
ぽつりと呟く。
奴らが“それ”に気づけなければ、その時点で勝負は決まる。
「――おい、偽善者ども」
風の壁の向こうへ向けて、声を張る。
「いつまで引きこもってんだ?」
嗤いがこぼれる。
「さっさと出てこいよ」
ゆっくりと、一歩踏み出す。
「――テメェらの命、俺が直々に奪ってやる」