「準備はいいか、ミオ?」
「う、うん。大丈夫」
「んじゃあ、行くぞ」
自分が考えた策を手短に伝えると、ミオは不安を残しつつも頷いた。あとは実行あるのみだ。上手くいくかどうかはタイミング次第――だが、奴への対抗策としては悪くない。むしろ、現状で取り得る中では最善に近い。
「解除!」
ミオが張っていた防御魔法を解く。結界が消えた瞬間、外の空気が一気に流れ込んできた。
だが――ホープは動かなかった。
その場に立ったまま、まるでこちらを待っていたかのように。
「よぉ~。作戦会議は終わりか~?」
「……随分余裕そうだな」
ズボンのポケットに片手を突っ込み、気だるげな笑みを浮かべるホープ。その態度からは焦りの欠片も感じられない。こちらが対策を講じていることにも、すでに気づいているはずだ。
それでもなお、この余裕。
やはり、何か奥の手があるのか――。
「はっ! テメーら如き相手、この魔法だけで十分だっての!」
吐き捨てるように言いながら、ホープはナイフを構える。次の瞬間、こちらへ踏み込もうとした。
――さっきと同じ流れか。
同じ手を繰り返すのは悪手のはずだが、それでも来るということは、それだけ自分の魔法に自信があるということだろう。
「はあっ!」
迎え撃つように、こちらも迅雷を上段に構え、一気に振り下ろす。
「【吸引《サクション》】!」
「ッ!?」
刃を振り下ろす寸前、視界の端で黒い球体が生まれた。直径はせいぜいピンポン玉ほど――だが、その一点に向かって強烈な引力が働く。
体が引き寄せられ、バランスが崩れる。
――やはり重力系。
まるで小さなブラックホールのような力だ。対象を引き寄せるだけで、粉砕するほどの威力はないようだが、それでも戦闘においては十分すぎるほど厄介だ。
「ミオ!」
「うん!」
あらかじめ距離を取っていたミオに合図を送る。彼女は即座に両手をこちらへ突き出した。
「押し返せ、逆境の風よ――【
詠唱と同時に、彼女の掌から爆発的な風が噴き出した。トルネードのような渦を伴った突風が、一直線にこちらへと吹きつける。
「なっ?!」
風はホープの魔法に干渉し、その引力を打ち消すかのように上空へと流れを逸らした。さらにその勢いのまま、自分の体を押し返す。
崩れかけていた体勢が、一気に前方へと持ち直される。
「――んどりゃあっ!!」
押し出される勢いをそのまま利用し、迅雷を振り下ろす。さきほどとは比べ物にならない加速が乗った一撃だ。
「ちっ!」
だがホープも反応が速い。咄嗟に後方へ跳び、間一髪で回避した。
――惜しい。
手応えはあったが、決定打には届かない。
「けっ。力技かよ、この野郎」
「ああ。そうかもな」
距離を取ったホープが舌打ち混じりに吐き捨てる。それに対し、自分はあえて薄く笑って肯定した。
確かに今のは力押しだ。だが、それでいい。
それこそが、奴の魔法への対抗手段なのだから。
引き寄せる力に対しては、押し返す力をぶつける。単純だが理にかなっている。しかも威力に関しては、明らかにこちら――ミオの風魔法の方が上だ。
つまり、力の綱引きになれば勝つのはこっちだ。
問題があるとすれば、連携の精度だろう。タイミングがわずかにでもズレれば、さっきのような完璧な形にはならない。即興で組み立てた策ゆえ、身体に馴染むまでは多少時間がかかるはずだ。
だが――問題ない。
こちらの手は、これだけじゃない。
「よし……今度はこっちが反撃する番だ!」