「はあっ!!」
「ぐへっ!!!」
最後の一撃が決まり、敵は力なく崩れ落ちた。
「ふぅ……これで最後でござるな」
戦闘開始から十数分。ついに最後の一人を打ち倒した。
周囲を見渡せば、地面には気を失った敵が幾人も転がっている。恐らくこの場にいる者は、全員戦闘不能に陥っているであろう。
数こそ多かったが、いずれも拙者の剣術を捌ききれず、あっさりと倒れていった。正直なところ、少々歯ごたえに欠ける相手でござったな。
「フィー殿ー、無事でござるかー?」
馬車の方へ向かって声を張る。
『うん。こっちは大丈夫だよー。ありがとう、マヒロちゃーん』
結界越しに、フィー殿の明るい声が返ってきた。その調子からして、怪我はなさそうでひと安心でござる。
「うむ。それは何よりでござる。して、この者たちはどうするでござる? このまま放置しても、しばらくは目を覚まさぬであろうが……いつ目覚めるとも限らぬ。なにか縛るものがあればよいのだが」
『それなら、ちょうど拘束用の縄をいくつか持ってきてるよ。さすがに人数分はないから、どこかの木にまとめて縛っておくといいと思う』
「おお、それは助かるでござる!」
『ちょっと待ってて。今、持っていくねー』
敵の無力化を終えた拙者は、後方で結界を維持してくれていたフィー殿に感謝しつつ、指示を仰ぐ。
彼女は終始、馬車を守るために結界を張り続けてくれていた。そのおかげで、拙者は後ろを気にすることなく戦いに集中できたのでござる。
それだけではない。先の爆発からも身を守ってくれた上、こうして拘束用の縄まで用意してくれている。
一時はどうなることかと思ったが――フィー殿がいてくれたからこそ、この窮地を乗り越えられたと言っても過言ではないでござるな。
『あったあった。マヒロちゃーん、あったよー……』
「ッ!?」
その時でござった。
縄を受け取りに向かおうとした矢先、背後から鋭い殺気を感じ取る。
――まだ敵がいたでござるか!
「がっ?!」
『ッ?! マヒロちゃん!?』
振り返りざまに雷電を構えようとした瞬間、何か重いものが高速で飛来し、腹部に直撃した。
鈍い衝撃が内臓を揺さぶり、息が詰まる。
「ぐっ……!」
口の中に鉄の味が広がる。思わず血を吐き、数歩よろめいた末、結界にもたれかかるようにして体勢を保つ。
『ちっ……一発で仕留め損なったか』
「な、何者でござるか……!」
声のした方へ視線を向けるが、姿は見えない。
『状況見りゃ分かるだろ? こいつらの仲間に決まってんじゃん』
どこからともなく、拡声器越しのような歪んだ声が響く。
姿は見えぬが、この感覚――間違いない。気配を消す魔道具か何かを使っているのであろう。
そして、この声。
「……貴様、あの時の……!」
馬車に潜り込んでいた、あの金髪の男。拙者の記憶が正しければ、奴でござる。
あの時と同じく、隙を窺い、最も効果的な瞬間を狙っていたのだろう。
なんとも卑劣な手口でござる。
『テメーらのせいで作戦がグダグダだよ。ホープさんにも叱られちまうしよ。本当は無力化したあと、テメーの身体で遊んでやろうかと思ってたんだが……もうそういう気分じゃねぇ』
声には苛立ちと歪んだ愉悦が混じっている。
『確実にテメーを殺す。それで終わりだ。ついでに結界の中の奴らも殺して、あそこに行った二人も……全部、俺が殺してやるよ!』
「ッ……!」
逆恨みにも等しい言葉を並べ立てる男。
しかも、サダメ殿たちが別行動を取っていることまで把握している様子だ。どこかで監視していたのか――いずれにせよ、看過できる相手ではない。
今、あの二人が何をしているのかは分からぬ。だが、この男を放置すれば、更なる被害が出るのは明白でござる。
それに――。
悪逆を働きながら、うまくいかぬことを他人のせいにする。
そのような愚行、見過ごすわけにはいかぬ。
拙者は痛みを押し殺し、ゆっくりと構えを取る。
「……ならば、掛かって来るがよい!」
視えぬ敵に向け、声を張り上げる。
「このマヒロ・トーエン――お主らの蛮行、ここで食い止めてみせようぞ!!」