『はっ! 食い止めてみせるだぁ?! やれるもんならやってみろやぁ!!』
「くっ!?」
怒りに任せた男が、真正面から再び錘を投げつけてくる。咄嗟に刀で受け流し、どうにか軌道を逸らすことには成功したが――
――重い。
腕に残る衝撃に、思わず歯を食いしばる。
あの武器は流星錘。鎖の先に重りを付けた、扱いを誤れば自らをも傷つけかねぬ危険な武具でござる。だが、その分破壊力は絶大。下手をすれば頭蓋骨すら砕かれる。
現に拙者も、先ほどの一撃で肋骨を数本持っていかれている。
――何度も受けられる攻撃ではない。
刃物や銃とはまた違う厄介さを持つ、極めて危険な武器でござるな。
『ははははは! 俺が身につけてるこのマントはなぁ、魔力感知すらすり抜けるほど完璧に気配を消せるんだよ! そんな俺の攻撃、捉えられるわけねぇだろ!』
「……」
男の高笑いが響く。
気配を消す魔道具――やはりそういうことか。
姿が見えぬだけでなく、感知すらできぬとなれば、どこから攻撃が来るか分からない。まさに暗殺向きの能力でござる。
――非常にまずい状況でござるな。
しかも今、拙者の手にあるのは魔妖ではなく、この雷電。ゆえに魔法の行使も満足にはできぬ。
魔妖さえあれば、この状況も――
『刀は所詮、借り物の力に過ぎぬ』
「ッ!?」
その瞬間、脳裏に過ったのは、かつての師範の声であった。
厳しく、冷徹で、それでいて揺るぎない信念を持ったお方。
剣術を教わった日々の記憶が、鮮明によみがえる。
師範はあの言葉のあと、こう続けた。
――刃物で心臓を突き刺すだけなら、剣を知らぬ幼子でもできる。
――真の強さとは、鈍《なまくら》の刀であっても岩を断つことができる技にこそ宿る。
その言葉が、今になって胸に突き刺さる。
「……そうでござるな」
思わず、小さく呟いた。
拙者はこれまで、魔妖の力に頼りすぎていたのかもしれぬ。あの魔剣の力を、いつしか自分の力であるかのように錯覚していた。
だが、それでは足りぬ。
より強き者と対峙したとき――師範をも超えようとするならば、その程度では到底及ばぬ。
「……ふぅ」
ゆっくりと息を吐き、目を閉じる。
痛みも、焦りも、一度すべて脇へ置く。
今、拙者の手にあるのは魔剣ではない。ただの刀――雷電。
だが、それでよい。
この刀で、魔剣にも劣らぬ力を示せばよいのだ。
それができてこそ、己の真の強さが証明される。
『おいおいおい! どうしたどうした、目なんか瞑っちまってよぉ!? どっから飛んでくるか分からなくて怖気づいたかぁ?! はっはっは! 所詮はガキだなぁ! 俺たちを止めるだなんだ言っておいて、結局口だけかよ! だからガキは嫌いなんだよ!』
「……」
男の嘲笑が、四方八方から響く。
耳を澄ませても、位置は特定できない。声が反響しているのか、それともあちこちに拡声器を仕込んでいるのか――いずれにせよ、聴覚に頼るのは無意味でござる。
嗅覚も同様。血の匂い、汗、そして爆発の残り香が混ざり合い、個別の匂いを識別することは困難。
視覚に至っては論外。わずかな物陰の揺れすら見当たらぬ。
――あやつ、相当の手練れでござるな。
今のあやつは、まさしく透明人間。忍びの者であっても、ここまで徹底されれば容易には見破れまい。
五感が通じぬ以上――頼れるものは一つ。
「……見えずとも、感じるのみ」
静かに呟き、意識を研ぎ澄ます。
空気の流れ。地面を伝う振動。わずかな気配の歪み。
それらすべてを統合し、一瞬の違和を捉える。
その刹那を逃さず――
「この雷電で、貴様の武器ごと断ち切ってみせるでござる」
拙者は静かに構えを取り、見えぬ敵を迎え撃つ覚悟を固めた。