転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー47

 「……」

 

 目を閉じ、意識を一点へと収束させる。

 

 両手で握る雷電――その刃に、全神経を注ぎ込む。五感が頼れぬ以上、残されているのはただ一つ、第六感のみ。

 

 先ほど、ほんの一瞬ではあったが、確かに感じ取れた殺気。あれを捉えたからこそ、一度は攻撃を防ぐことができた。

 

 だが、それだけでは足りぬ。

 

 あやつは再び姿を消し、隙を突いて攻撃してくるに違いない。ならば――こちらから誘い出す。

 

 攻撃を誘発し、その軌道を封じる。そして、その一瞬の隙を突いて位置を特定し、接近して討つ。

 

 それが、この状況で取り得る唯一の策。

 

 「……スー……ハー……」

 

 ゆっくりと呼吸を整える。

 

 機会は、おそらく一度きり。見破られれば、次はどう動くか分からぬ。失敗は許されない。

 

 策は立てた。だが、成功の保証などどこにもない。

 

 殺気を察知し、攻撃の方向と速度を瞬時に見極め、その上で確実に斬り落とす。

 

 ――しかも、この刀で。

 

 これほどの緊張は、生まれて初めてでござる。

 

 証拠に、雷電を握る両手だけが妙に熱い。手のひらには汗が滲み、柄がわずかに滑る。

 

 これこそが、死闘――。

 

 『はっ! 目を閉じて棒切れ構えて、達人気取りかよ?! 確かにこの人数を一人で倒したのは大したもんだが、所詮はガキだ! そんな真似事で俺の攻撃が防げると思うなよ!』

 

 「……」

 

 嘲笑が響く。

 

 だが、その言葉の終わり際――わずかに呼吸が乱れた。

 

 ――今だ。

 

 武器を振るった直後、あるいは投擲の瞬間に生じる僅かな息の乱れ。それが示すのは一つ。

 

 流星錘が、放たれた。

 

 来る。

 

 速さは――どの程度か。

 

 距離は。角度は。

 

 あの刹那に感じた殺気を、今度は逃さぬ。

 

 すべてを一瞬で見極める。

 

 「……そこ」

 

 投擲から、ほんの数瞬。

 

 九時の方向――横合いから、殺気が走る。

 

 ――今!

 

 「はあっ!!」

 

 一歩、後方へと退く。

 

 同時に、上段に構えていた雷電を、正面へと振り下ろした。

 

 左へ向き直っていては間に合わぬ。ならば、軌道上に身を置き、通過の瞬間に合わせて叩き落とす。

 

 狙いは頭部――そのための上段。

 

 振るうタイミングは、わずかに遅らせる。

 

 『何い゛っ?!』

 

 刃が閃き、次の瞬間――

 

 甲高い音とともに、流星錘の軌道が断たれた。

 

 目を開けば、横合いから飛来していた鎖付きの錘が、地面へと無残に落ちている。

 

 繋ぎ目が、斬り落とされていた。

 

 ――読み通りでござる。

 

 全力で鈍刀を振るっても、岩は斬れぬ。無理に斬ろうとすれば、刀の方が折れるであろう。

 

 だが――。

 

 師範の教えは、そこではない。

 

 岩そのものではなく、“斬れる箇所”を見抜くこと。

 

 いかなる岩であろうと、風雨に晒されれば綻びが生じる。その一点を捉えれば、どんな刀であろうと断つことができる。

 

 この流星錘も同じ。

 

 斬るべきは、最も脆い部分――鎖と錘を繋ぐ接合部。

 

 そこさえ捉えれば、断てぬ道理はない。

 

 そして――。

 

 「まだでござる」

 

 雷電にわずかに魔力を流し、刀身に雷を帯びさせる。

 

 断たれた鎖を通じて、電流が持ち主へと走る。

 

 『ぐわあぁぁぁっ!?』

 

 悲鳴が上がる。

 

 雷の伝導――その向きは、すでに把握している。

 

 「そこにおるでござるな!」

 

 『ッ!?』

 

 迷いはない。

 

 拙者は一気に踏み込み、電流の先――気配の在り処へと駆ける。

 

 痺れにより、すぐには動けぬはず。

 

 「覚悟なされよ!!」

 

 『ひぃっ?! や、やめ――』

 

 「成敗!!!」

 

 振り下ろされた一閃は、草木を薙ぎ払いながら、正確に標的を捉えた。

 

 鈍い衝撃とともに、確かな手応え。

 

 『ぐれぇぇぇぇぇっ!?』

 

 男の断末魔が、森の中に響き渡る。

 

 それを最後に、周囲は再び静寂に包まれたのでござった。

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