「……」
目を閉じ、意識を一点へと収束させる。
両手で握る雷電――その刃に、全神経を注ぎ込む。五感が頼れぬ以上、残されているのはただ一つ、第六感のみ。
先ほど、ほんの一瞬ではあったが、確かに感じ取れた殺気。あれを捉えたからこそ、一度は攻撃を防ぐことができた。
だが、それだけでは足りぬ。
あやつは再び姿を消し、隙を突いて攻撃してくるに違いない。ならば――こちらから誘い出す。
攻撃を誘発し、その軌道を封じる。そして、その一瞬の隙を突いて位置を特定し、接近して討つ。
それが、この状況で取り得る唯一の策。
「……スー……ハー……」
ゆっくりと呼吸を整える。
機会は、おそらく一度きり。見破られれば、次はどう動くか分からぬ。失敗は許されない。
策は立てた。だが、成功の保証などどこにもない。
殺気を察知し、攻撃の方向と速度を瞬時に見極め、その上で確実に斬り落とす。
――しかも、この刀で。
これほどの緊張は、生まれて初めてでござる。
証拠に、雷電を握る両手だけが妙に熱い。手のひらには汗が滲み、柄がわずかに滑る。
これこそが、死闘――。
『はっ! 目を閉じて棒切れ構えて、達人気取りかよ?! 確かにこの人数を一人で倒したのは大したもんだが、所詮はガキだ! そんな真似事で俺の攻撃が防げると思うなよ!』
「……」
嘲笑が響く。
だが、その言葉の終わり際――わずかに呼吸が乱れた。
――今だ。
武器を振るった直後、あるいは投擲の瞬間に生じる僅かな息の乱れ。それが示すのは一つ。
流星錘が、放たれた。
来る。
速さは――どの程度か。
距離は。角度は。
あの刹那に感じた殺気を、今度は逃さぬ。
すべてを一瞬で見極める。
「……そこ」
投擲から、ほんの数瞬。
九時の方向――横合いから、殺気が走る。
――今!
「はあっ!!」
一歩、後方へと退く。
同時に、上段に構えていた雷電を、正面へと振り下ろした。
左へ向き直っていては間に合わぬ。ならば、軌道上に身を置き、通過の瞬間に合わせて叩き落とす。
狙いは頭部――そのための上段。
振るうタイミングは、わずかに遅らせる。
『何い゛っ?!』
刃が閃き、次の瞬間――
甲高い音とともに、流星錘の軌道が断たれた。
目を開けば、横合いから飛来していた鎖付きの錘が、地面へと無残に落ちている。
繋ぎ目が、斬り落とされていた。
――読み通りでござる。
全力で鈍刀を振るっても、岩は斬れぬ。無理に斬ろうとすれば、刀の方が折れるであろう。
だが――。
師範の教えは、そこではない。
岩そのものではなく、“斬れる箇所”を見抜くこと。
いかなる岩であろうと、風雨に晒されれば綻びが生じる。その一点を捉えれば、どんな刀であろうと断つことができる。
この流星錘も同じ。
斬るべきは、最も脆い部分――鎖と錘を繋ぐ接合部。
そこさえ捉えれば、断てぬ道理はない。
そして――。
「まだでござる」
雷電にわずかに魔力を流し、刀身に雷を帯びさせる。
断たれた鎖を通じて、電流が持ち主へと走る。
『ぐわあぁぁぁっ!?』
悲鳴が上がる。
雷の伝導――その向きは、すでに把握している。
「そこにおるでござるな!」
『ッ!?』
迷いはない。
拙者は一気に踏み込み、電流の先――気配の在り処へと駆ける。
痺れにより、すぐには動けぬはず。
「覚悟なされよ!!」
『ひぃっ?! や、やめ――』
「成敗!!!」
振り下ろされた一閃は、草木を薙ぎ払いながら、正確に標的を捉えた。
鈍い衝撃とともに、確かな手応え。
『ぐれぇぇぇぇぇっ!?』
男の断末魔が、森の中に響き渡る。
それを最後に、周囲は再び静寂に包まれたのでござった。