その後、男を他の者たちの元へと担いで運び、近くの木々にまとめて縛り上げたでござる。念のため、全員の衣服を剥ぎ取り、武器や魔道具といった危険物はすべて回収しておいた。
ついでに、サダメ殿が奪われていた応援要請用の魔道具も取り返すことに成功。フィー殿の指示に従い、即座に応援の要請を送信したでござる。
「これでよし……っと」
ひと通りの作業を終え、小さく息を吐く。
『マヒロちゃん、怪我してるんだから私に任せておけばよかったのに』
振り返ると、フィー殿が心配そうな表情でこちらを見ていた。
「怪我のことなら問題ござらん。痛みにもだいぶ慣れてきたでござるし、多少動く程度なら支障はないでござるよ」
軽く肩をすくめて答えるが、フィー殿は納得していない様子で首を横に振る。
『いやいや、怪我が悪化したら大変だから! やっぱり私がやるよ。マヒロちゃんは馬車の方で休んでて!』
その口調には、有無を言わせぬ強さがあった。
「うーむ……そこまで申されるのであれば、従うほかあるまいでござるな」
苦笑しつつも、素直に引き下がることにする。
実際のところ、あの一撃で受けた損傷は決して軽くはない。痛みに慣れてきたとはいえ、無理をすれば折れた肋骨が内臓に刺さる可能性もある。
それは流石に洒落にならぬでござるな。
そう判断し、拙者はフィー殿の言葉に甘えることにした。
馬車へと戻り、ゆっくりと身体を横たえる。仰向けになった途端、張り詰めていた緊張がふっと緩んだ。
座って待つよりも、こうして少しでも身体を休めておく方が良いであろう。
『あー……こうなるなら、もう少しミオを待たせておくべきだったかなぁ……』
「……」
フィー殿がぽつりと呟く。
どうやら、ミオ殿を先に向かわせてしまったことを、少し後悔しているようでござる。
しかし、そればかりは致し方あるまい。
御者の男と魔導馬の治癒を終えた後、ミオ殿は「サダメ殿の手伝いに行く」と言い残し、この場を離れた。
命に別状はないとはいえ、御者も魔導馬もすぐに動ける状態ではなく、馬車での移動は困難。ゆえに、ミオ殿は単身でレルトへ向かったのでござる。
彼女は治癒魔法の使い手。もし集落に負傷者がいれば、必要不可欠な存在となる。
その判断は極めて理にかなっており、拙者もフィー殿も異を唱えることはなかった。
結果として、役割はこう分かれた。
フィー殿は結界を維持し、馬車を守る役。
拙者は近づく敵を排除する役。
そして――ギリスケ殿は……就寝中でござったゆえ、同行は不可能と判断されたのでござる。
「……ミオ殿とサダメ殿は、大丈夫でござろうか」
天井を見上げながら、ぽつりと呟く。
二人だけで集落の人々を避難させるのは、やはり負担が大きいはずだ。現地の状況も分からぬ以上、不安が募るのも無理はない。
本来であれば、拙者も駆けつけたいところでござるが――
この身体では、足手まといになる可能性が高い。
それに、無理に動いてミオ殿の負担を増やすのも本意ではない。
「……ここは、応援に任せるしかあるまいでござるな」
そう自分に言い聞かせるように呟く。
既に応援要請は送ってある。あとは、それを信じるほかない。
「二人とも……あとは任せたでござる……よ……」
言葉の終わりとともに、意識がゆっくりと沈んでいく。
戦闘の疲労と安心感が一気に押し寄せ、抗う間もなく、深い眠りへと引きずり込まれていったのでござった。