転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第2章ー3

 「ほら、もう少しだから我慢して」

 

 「うっ、ううっ……」

 

 しばらく意識を失っていたらしい。

 気がつくと、自分はミオの膝枕の上で治療を受けていた。

 

 周囲を見渡すと、他の皆はすでに眠りについている。

 ミオの声がはっきり聞こえるほど、空気は静まり返っていた。

 

 ……そういえば、膝枕なんていつぶりだろう。

 母に耳かきをしてもらっていた頃は、よくこうして膝に頭を乗せていた。

 母の膝は柔らかくて温かかった。

 ミオの膝は小さいのに、妙にフィットして心地いい。

 

 ――いや、本音を言えば。

 どうせ膝枕されるなら、二十代のセクシーなお姉さんが最高なんだが。

 ……命の危機に瀕している少年が考えることではないが、現実逃避にはちょうどいい。

 

 「……ねえ、サダメ」

 

 「ん?」

 

 ミオが、少し弱った声で話しかけてくる。

 さっきまで強気だった彼女の表情は、どこか寂しげだった。

 

 「私たち……いつまで、こんな生活続けるのかな?」

 

 「……」

 

 言葉が、すぐには出なかった。

 彼女の不安は痛いほどわかる。

 

 こんな地獄みたいな奴隷生活。

 今すぐ逃げ出したいのは、自分も、ミオも、ここにいる全員同じだ。

 

 だが――現実はあまりに厳しい。

 

 夜になれば、奴が生み出したゴーレムが見張りとして配置される。

 見つかれば即処刑。

 

 実際、以前ひとりの勇敢な少年が脱出を試みた。

 だがゴーレムに発見され、あっさり殺された。

 あの日の悲鳴。

 翌朝、無残な遺体を見たときの衝撃。

 それは皆の記憶に焼き付いて離れない。

 

 さらに、村全体を覆う魔障結界。

 結界から漏れる魔障は体力を削り、気力すら奪っていく。

 逃げる以前に、立ち上がる元気すら奪われる。

 

 ――薄々、皆わかっている。

 自分たちは、助からないかもしれない。

 

 それでも。

 唯一、希望だけは残っていた。

 

 「……大丈夫。きっと勇者が助けに来てくれる」

 

 勇者。

 魔王を討つために選ばれた特別な存在。

 魔王軍に脅かされる人々を救うのも使命だと、父から聞いたことがある。

 噂では、十死怪と互角以上に戦える実力者だとか。

 

 もしそれが本当なら――

 父を殺したあの化け物も、きっと倒してくれる。

 

 今の自分たちにとって、

 まだ見ぬ勇者だけが、唯一の光だった。

 

 ……もっとも、

 本当に来てくれるのかは半信半疑だが。

 

 それでも縋らずにはいられない。

 誰も死にたいわけじゃない。

 救いがあると信じなければ、生き延びる意味すら見失う。

 

 それほどまでに、今の状況は過酷だった。

 

 「……うん、そうだよね……」

 

 ミオは頷いた。

 だが、膝の上に添えられた彼女の手が、わずかに震えている。

 

 彼女も不安なのだ。

 明日、生きていられる保証などどこにもない。

 

 だからこそ――

 ここで希望を失わせるわけにはいかない。

 

 一人が諦めれば、それは連鎖する。

 皆、生きる気力を失ってしまう。

 

 誰も「死にたい」と口にしない。

 喉元まで上がった言葉を、必死で飲み込んでいるのだ。

 

 「そ、そろそろいいだろ。明日も早いし、寝ようぜ」

 

 「……うん、そうだね」

 

 少し気まずくなりかけた空気を、自分が無理やり切り替える。

 ミオもそれを察し、治療を止めた。

 

 痛みはかなり引いている。

 今夜は、久しぶりに眠れそうだった。

 

 「それじゃ、おやすみ。ミオ」

 

 「うん。おやすみなさい、サダメ」

 

 挨拶を交わし、目を閉じる。

 

 ミオの治療のおかげか、いつもより寝つきがいい。

 気づけば、あっという間に深い眠りに落ちていた。

 

 まるで、柔らかなベッドに包まれているかのような心地よさ。

 こんな安らかな眠りは、いつぶりだろう。

 

 心の中で、そっと彼女に感謝しながら――

 その温かな闇に身を委ねた。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り7804日。

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