転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー50

 あれは魔道具……なのか?

 

 一見すると、ただの白い棒にしか見えない。装飾も刻印もなく、あまりにも無機質だ。

 

 ――あんなもので、一体何をするつもりだ?

 

 警戒を強めながら様子を窺っていると、ホープがゆっくりと口を開いた。

 

 「なあ、なんで俺たちがタリスターの花を狙ってるか、分かるか?」

 

 「……魔薬《マラック》だからだろ?」

 

 「そうだ。だがな、魔薬ってのは――ただの薬じゃねぇんだよ」

 

 その言い方に、わずかな違和感を覚える。

 

 「依存性があるだけじゃないのか? ドラッグみたいに、多幸感を与える類のものだろう?」

 

 そう返すと、ホープは鼻で笑った。

 

 「ははっ。どうやら学園じゃ、まともな“薬の使い道”は教えてくれねぇみてぇだな」

 

 「……何?」

 

 挑発するような口ぶりに、眉をひそめる。

 

 だが、それ以上に――嫌な予感が強まっていく。

 

 この状況でなお余裕を崩さない態度。追い詰められているはずなのに、どこか確信めいたものを感じさせる。

 

 ――何かある。

 

 そう直感しながらも、思わず言葉を続けてしまう。

 

 「……だったら、何なんだ?」

 

 本来なら、今すぐにでも追撃を入れて気絶させ、拘束するべき場面だ。

 

 それなのに――

 

 なぜか、奴の言葉の続きを聞かずにはいられなかった。

 

 「魔薬はなぁ……快楽を与えるだけの代物じゃねぇ」

 

 ホープは、手にした白い棒をひらひらと揺らしながら言う。

 

 「こいつを直接、体に打ち込むことで――一時的に魔力量が増える。ついでに魔法の威力も底上げされるんだよ。こういう風になぁ!」

 

 「ッ?!」

 

 言うが早いか、ホープはその白い棒――注射器のようなそれを、自身の首元へと押し当てた。

 

 やはり、あれは投与用の器具か。

 

 ――まずい。

 

 止めなければ、と身体が動くより先に、

 

 「こいつの中身は、タリスターの花から抽出した成分を液体化したもんだ。一発キメりゃあ、才能のねぇ俺らでもよ……馬鹿みてぇに強くなれるんだぜぇ!」

 

 狂気じみた笑みとともに、針が皮膚へと突き刺さる。

 

 「最高だろぉ!?」

 

 「くっ……!」

 

 止める間もなかった。

 

 薬液が体内へと送り込まれた瞬間、ホープの身体がびくりと震える。

 

 次の瞬間――

 

 「はぁ……はぁ……!」

 

 倒れていたはずの身体が、ゆっくりと起き上がる。

 

 その様子は、まるで別人のようだった。

 

 「……魔力が……増えてる?」

 

 肌で感じる圧が、明らかに先ほどまでとは違う。

 

 嫌な予感が、確信へと変わる。

 

 「はぁ……これ、使うと後で頭痛がひでぇんだよなぁ。本当は一日に二回も使いたくねぇんだが……」

 

 「二回……? まさか――騎士団や集落の人たちを襲った時に、もう一度使っていたのか?」

 

 問いかけると、ホープは口元を歪めた。

 

 「ああ、そうだよ。相手が精鋭の騎士団様だったからな。出し惜しみなんてしてられなかったんだよ」

 

 その言葉に、背筋が冷える。

 

 「それに比べりゃあ、お前らみてぇな学園のガキは……使わなくてもどうにかなると思ってたんだがな」

 

 「……」

 

 完全に見誤っていた、というわけか。

 

 「だが――考えが甘かった」

 

 ホープの目が、明確な殺意を帯びる。

 

 先ほどまでの“遊び”とは違う。

 

 今度は、本気で殺しに来る。

 

 「今度は本気だ。跡形もなく消してやるよ……!」

 

 空気が変わる。

 

 重く、圧し潰されるような殺気が、場を満たした。

 

 「深淵の虚空で、万物を喰らい尽くせ――」

 

 ホープが低く呟き、手をかざす。

 

 「【漆黒の追放球(ブラック・バニッシュ)】!」

 

 「「ッ?!」」

 

 次の瞬間、目の前の空間が歪む。

 

 そして――現れたのは、先ほどの黒球とは比べものにならないほど巨大な球体だった。

 

 直径は、これまでの十倍以上。

 

 闇そのものを凝縮したかのような、圧倒的な存在感。

 

 それはただそこにあるだけで、周囲の空間を歪め、すべてを呑み込もうとするかのように蠢いていた。

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