「ぐっ!?」
「うぅっ!?」
出現した黒い球体は、凄まじい吸引力で自分たちの身体を引き寄せていた。
先ほどの小型のものとは比べものにならない。威力が桁違いだ。
このまま引き寄せられれば、磁石に吸い付く鉄片のように、身動きすら取れなくなる――そう思った。
だが。
「ッ!?」
その認識は、あまりにも甘かった。
吸い寄せられているのは自分たちだけではない。周囲に散乱していた建物の残骸、草木、土砂――ありとあらゆるものが巻き込まれている。
そして何より――
球体に触れたそれらが、次々と“消えている”。
砕けるでもなく、弾かれるでもなく、ただ飲み込まれるようにして。
「はっはっはっ! そいつに飲み込まれたが最後、跡形もなく消えちまう! まさにブラックホールだろ!?」
「な、んだって?!」
ホープの狂気じみた声が響く。
ブラックホール――すべてを呑み込む重力の塊。
その言葉が誇張ではないことを、目の前の光景が証明していた。
「くっ……!」
踏ん張るが、引力はあまりにも強い。
足が地面を削りながら、じわじわと前へ引きずられていく。
このままでは――飲み込まれる。
「きゃあっ!?」
「ミオッ?!」
その時だった。
背後にいたミオが足を滑らせ、抵抗もできぬまま一気に球体へと引き寄せられていく。
――まずい!
「ミオ、掴まれ!!」
「んっ!?」
咄嗟に足へ部分魔力強化《パージング》を施し、地面に踏ん張りながら手を伸ばす。
ミオは自分の横を通り過ぎる寸前で、その手を必死に掴んだ。
「ふんぐぐぐっ!」
「いっ……つぅ……!」
全力で引き寄せようとするが、引力が強すぎる。
無理に引けば、彼女の身体が裂けてしまいかねない。
それどころか、自分の身体すら徐々に前へと引きずられている。
――このままでは、二人とも終わる。
「ははははは! どうだ、俺の本気の魔法は!? 手も足も出ねぇだろ!!」
ホープの狂笑が耳に刺さる。
「くっ……!」
歯を食いしばる。
――というか、なぜあいつは無事なんだ?
あの引力の中心に最も近いはずなのに、まるで影響を受けていない。
「……」
違和感が頭をよぎる。
自分の魔法だから無効――そんな単純な話ではないはずだ。
授業でも習った。自身を対象外にできる魔法は、治癒魔法のような回復系統に限られると。
実際、ミオも勇者も、自分自身に魔法をかけることはできなかった。
それなのに――。
――何か、カラクリがある。
そう考えた矢先、
「サ……ダメ……」
「ッ?! ミオ!」
ミオの声が、限界を訴えるように震えていた。
このままでは持たない。
考えている時間はない。
「……ミオ! 思いっきり向こうに向かって風魔法を撃て! 詠唱はいらない、全力だ!」
「うっ……う゛んっ!!」
即座に判断する。
引き寄せられるなら、その逆の力を利用するしかない。
たとえ完全には抗えなくとも、わずかな反発でもいい。その勢いを利用して引き寄せる。
「っはああああああああああ!!」
ミオは自由な左手をホープの方向へと向け、全力で風魔法を放った。
轟音とともに吹き荒れる暴風。
だが――
「ぐっ?!」
そのすべてを、黒い球体が容赦なく吸い込んでいく。
やはり魔法すら例外ではない。
それでも――
完全に無意味ではなかった。
風を放つ手元、その反作用によって、ミオの身体がわずかにこちらへと引き寄せられる。
――来る!
「……!」
少しずつ、確実に距離が縮まる。
あと少し。
あと一歩分――!
「よしっ!」
タイミングを見計らい、空いている左手を前へ突き出す。
「きゃっ!?」
そして――
勢いよく、ミオの身体を抱き寄せた。