転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー51

 「ぐっ!?」

 

 「うぅっ!?」

 

 出現した黒い球体は、凄まじい吸引力で自分たちの身体を引き寄せていた。

 

 先ほどの小型のものとは比べものにならない。威力が桁違いだ。

 

 このまま引き寄せられれば、磁石に吸い付く鉄片のように、身動きすら取れなくなる――そう思った。

 

 だが。

 

 「ッ!?」

 

 その認識は、あまりにも甘かった。

 

 吸い寄せられているのは自分たちだけではない。周囲に散乱していた建物の残骸、草木、土砂――ありとあらゆるものが巻き込まれている。

 

 そして何より――

 

 球体に触れたそれらが、次々と“消えている”。

 

 砕けるでもなく、弾かれるでもなく、ただ飲み込まれるようにして。

 

 「はっはっはっ! そいつに飲み込まれたが最後、跡形もなく消えちまう! まさにブラックホールだろ!?」

 

 「な、んだって?!」

 

 ホープの狂気じみた声が響く。

 

 ブラックホール――すべてを呑み込む重力の塊。

 

 その言葉が誇張ではないことを、目の前の光景が証明していた。

 

 「くっ……!」

 

 踏ん張るが、引力はあまりにも強い。

 

 足が地面を削りながら、じわじわと前へ引きずられていく。

 

 このままでは――飲み込まれる。

 

 「きゃあっ!?」

 

 「ミオッ?!」

 

 その時だった。

 

 背後にいたミオが足を滑らせ、抵抗もできぬまま一気に球体へと引き寄せられていく。

 

 ――まずい!

 

 「ミオ、掴まれ!!」

 

 「んっ!?」

 

 咄嗟に足へ部分魔力強化《パージング》を施し、地面に踏ん張りながら手を伸ばす。

 

 ミオは自分の横を通り過ぎる寸前で、その手を必死に掴んだ。

 

 「ふんぐぐぐっ!」

 

 「いっ……つぅ……!」

 

 全力で引き寄せようとするが、引力が強すぎる。

 

 無理に引けば、彼女の身体が裂けてしまいかねない。

 

 それどころか、自分の身体すら徐々に前へと引きずられている。

 

 ――このままでは、二人とも終わる。

 

 「ははははは! どうだ、俺の本気の魔法は!? 手も足も出ねぇだろ!!」

 

 ホープの狂笑が耳に刺さる。

 

 「くっ……!」

 

 歯を食いしばる。

 

 ――というか、なぜあいつは無事なんだ?

 

 あの引力の中心に最も近いはずなのに、まるで影響を受けていない。

 

 「……」

 

 違和感が頭をよぎる。

 

 自分の魔法だから無効――そんな単純な話ではないはずだ。

 

 授業でも習った。自身を対象外にできる魔法は、治癒魔法のような回復系統に限られると。

 

 実際、ミオも勇者も、自分自身に魔法をかけることはできなかった。

 

 それなのに――。

 

 ――何か、カラクリがある。

 

 そう考えた矢先、

 

 「サ……ダメ……」

 

 「ッ?! ミオ!」

 

 ミオの声が、限界を訴えるように震えていた。

 

 このままでは持たない。

 

 考えている時間はない。

 

 「……ミオ! 思いっきり向こうに向かって風魔法を撃て! 詠唱はいらない、全力だ!」

 

 「うっ……う゛んっ!!」

 

 即座に判断する。

 

 引き寄せられるなら、その逆の力を利用するしかない。

 

 たとえ完全には抗えなくとも、わずかな反発でもいい。その勢いを利用して引き寄せる。

 

 「っはああああああああああ!!」

 

 ミオは自由な左手をホープの方向へと向け、全力で風魔法を放った。

 

 轟音とともに吹き荒れる暴風。

 

 だが――

 

 「ぐっ?!」

 

 そのすべてを、黒い球体が容赦なく吸い込んでいく。

 

 やはり魔法すら例外ではない。

 

 それでも――

 

 完全に無意味ではなかった。

 

 風を放つ手元、その反作用によって、ミオの身体がわずかにこちらへと引き寄せられる。

 

 ――来る!

 

 「……!」

 

 少しずつ、確実に距離が縮まる。

 

 あと少し。

 

 あと一歩分――!

 

 「よしっ!」

 

 タイミングを見計らい、空いている左手を前へ突き出す。

 

 「きゃっ!?」

 

 そして――

 

 勢いよく、ミオの身体を抱き寄せた。

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