「はあ……はあ……ミオ、大丈夫か?!」
「う、うん……ありがとう、サダメ……」
なんとか彼女を引き寄せることに成功した。
安堵する暇もなく、再び引き離されないよう、腕に力を込めてミオの身体をしっかりと抱き寄せる。
「サ、サダメ……? ちょっと近すぎるような……」
「ミオ、また引き寄せられないように、もっとしっかり掴まってろ!」
「ッ?! は、はいっ!?」
自分の言葉に慌てた様子で、ミオはコアラのように両腕を回し、ぎゅっとしがみついてくる。
密着した状態は息苦しそうではあるが、先ほどのように引き離されるよりは遥かにましだ。
多少の負担は、この状況では仕方がない。
「けっ、この状況で呑気にいちゃついてんじゃねぇぞ、バカップルが!」
「ば、バカップル!?」
ホープの嘲笑が飛ぶ。
だが、こちらにそんな余裕は一切ない。
「……」
無視して思考を巡らせる。
ミオを救い出したとはいえ、状況は何一つ好転していない。
むしろ、時間の問題であることに変わりはない。
足場を踏ん張ってはいるが、それでも身体は少しずつ引き寄せられている。
体感で、毎秒一センチほど。
黒い球体との距離は、およそ十メートル弱。
このまま耐え続ければ、いずれ確実に飲み込まれる。
かといって、無理に動けばバランスを崩し、その瞬間に終わりだ。
――打開策が必要だ。
「……そういえば……」
そのとき、ふと先ほどの光景が脳裏に蘇る。
ミオが放った風魔法。
あれはほとんどが球体に飲み込まれた。
だが――ほんの一瞬だけ、ホープの髪が後ろへとなびいていた。
「……」
違和感。
球体が吸引している最中、本来なら風はすべてこちら側へ引き寄せられるはずだ。
それなのに、なぜ一部の風だけが奴のもとへ届いたのか。
――完全には吸いきれていない?
いや、それだけでは説明がつかない。
そもそも、あの球体は物質も魔法も区別なく飲み込んでいる。
にもかかわらず――
「……奴だけが、例外になっている」
ぽつりと呟く。
ホープ自身は、あの引力の影響をまるで受けていない。
それどころか、至近距離にいながら微動だにしていない。
あり得ない現象だ。
だが、あり得ないからこそ――そこに“仕組み”がある。
「……まさか」
点と点が繋がる。
完全な確証はない。
だが、もしこの仮説が正しければ――
この状況を打破する糸口になる。
「ミオ、そのまま聞いてくれ!」
「えっ?! なにか……方法、思いついたの?」
不安と期待が入り混じった声。
その視線を真正面から受け止める。
「ああ。確証はないが……上手くいけば、奴の魔法を止められる」
「ほんとに……?」
「だから、これから言う指示に従ってくれ」
本当なら、もっと安心させる言葉をかけるべきなのかもしれない。
だが――嘘はつけない。
この状況で、無責任な希望を語ることはできなかった。
成功する保証など、どこにもないのだから。
それでも――
「うん、わかった!」
即答だった。
「私、サダメのこと信じてるから!」
「ッ……ミオ……」
迷いのない瞳。
そこには一切の疑念がなかった。
その真っ直ぐさに、思わず言葉を失う。
――自分は、何を迷っていたんだ。
彼女は最初から、自分を信じてくれていたのに。
「……ありがとう、ミオ」
短く、それでもはっきりと礼を告げる。
ならば――応えるしかない。
この信頼に。
この状況で出来る、最善の一手で。
自分は息を整え、状況を見極めながら、作戦の要点を簡潔に伝え始めた。