転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー52

 「はあ……はあ……ミオ、大丈夫か?!」

 

 「う、うん……ありがとう、サダメ……」

 

 なんとか彼女を引き寄せることに成功した。

 

 安堵する暇もなく、再び引き離されないよう、腕に力を込めてミオの身体をしっかりと抱き寄せる。

 

 「サ、サダメ……? ちょっと近すぎるような……」

 

 「ミオ、また引き寄せられないように、もっとしっかり掴まってろ!」

 

 「ッ?! は、はいっ!?」

 

 自分の言葉に慌てた様子で、ミオはコアラのように両腕を回し、ぎゅっとしがみついてくる。

 

 密着した状態は息苦しそうではあるが、先ほどのように引き離されるよりは遥かにましだ。

 

 多少の負担は、この状況では仕方がない。

 

 「けっ、この状況で呑気にいちゃついてんじゃねぇぞ、バカップルが!」

 

 「ば、バカップル!?」

 

 ホープの嘲笑が飛ぶ。

 

 だが、こちらにそんな余裕は一切ない。

 

 「……」

 

 無視して思考を巡らせる。

 

 ミオを救い出したとはいえ、状況は何一つ好転していない。

 

 むしろ、時間の問題であることに変わりはない。

 

 足場を踏ん張ってはいるが、それでも身体は少しずつ引き寄せられている。

 

 体感で、毎秒一センチほど。

 

 黒い球体との距離は、およそ十メートル弱。

 

 このまま耐え続ければ、いずれ確実に飲み込まれる。

 

 かといって、無理に動けばバランスを崩し、その瞬間に終わりだ。

 

 ――打開策が必要だ。

 

 「……そういえば……」

 

 そのとき、ふと先ほどの光景が脳裏に蘇る。

 

 ミオが放った風魔法。

 

 あれはほとんどが球体に飲み込まれた。

 

 だが――ほんの一瞬だけ、ホープの髪が後ろへとなびいていた。

 

 「……」

 

 違和感。

 

 球体が吸引している最中、本来なら風はすべてこちら側へ引き寄せられるはずだ。

 

 それなのに、なぜ一部の風だけが奴のもとへ届いたのか。

 

 ――完全には吸いきれていない?

 

 いや、それだけでは説明がつかない。

 

 そもそも、あの球体は物質も魔法も区別なく飲み込んでいる。

 

 にもかかわらず――

 

 「……奴だけが、例外になっている」

 

 ぽつりと呟く。

 

 ホープ自身は、あの引力の影響をまるで受けていない。

 

 それどころか、至近距離にいながら微動だにしていない。

 

 あり得ない現象だ。

 

 だが、あり得ないからこそ――そこに“仕組み”がある。

 

 「……まさか」

 

 点と点が繋がる。

 

 完全な確証はない。

 

 だが、もしこの仮説が正しければ――

 

 この状況を打破する糸口になる。

 

 「ミオ、そのまま聞いてくれ!」

 

 「えっ?! なにか……方法、思いついたの?」

 

 不安と期待が入り混じった声。

 

 その視線を真正面から受け止める。

 

 「ああ。確証はないが……上手くいけば、奴の魔法を止められる」

 

 「ほんとに……?」

 

 「だから、これから言う指示に従ってくれ」

 

 本当なら、もっと安心させる言葉をかけるべきなのかもしれない。

 

 だが――嘘はつけない。

 

 この状況で、無責任な希望を語ることはできなかった。

 

 成功する保証など、どこにもないのだから。

 

 それでも――

 

 「うん、わかった!」

 

 即答だった。

 

 「私、サダメのこと信じてるから!」

 

 「ッ……ミオ……」

 

 迷いのない瞳。

 

 そこには一切の疑念がなかった。

 

 その真っ直ぐさに、思わず言葉を失う。

 

 ――自分は、何を迷っていたんだ。

 

 彼女は最初から、自分を信じてくれていたのに。

 

 「……ありがとう、ミオ」

 

 短く、それでもはっきりと礼を告げる。

 

 ならば――応えるしかない。

 

 この信頼に。

 

 この状況で出来る、最善の一手で。

 

 自分は息を整え、状況を見極めながら、作戦の要点を簡潔に伝え始めた。

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