「なっ?!」
投擲された迅雷の柄が、わずかに燃えている。先ほど纏わせた火球の魔力が引火したのだろう。
――だが、好都合だ。
このまま火が消えずにいてくれれば、雷を纏った状態のまま奴の元へ届く。あとは、あの球体を突破できるかどうかにかかっている。
これはあくまで推測に過ぎない。だが――もし球体を抜けることができれば、この一撃は必ず当たる。
そう確信できる理由が、二つあった。
まず一つ目。
それが、この魔法の最大のカラクリだ。
――奴自身も、あの球体と同じ“引力”を放っている。
一見すると、あの魔法はブラックホールのような球体を生成しているだけに見える。だが実際には違う。あれは“二重発動”だ。
一つは球体そのもの。そしてもう一つは、奴の身体、あるいはその周囲に同質の引力場を展開している。
そう考えれば辻褄は合う。奴があの場から微動だにしなかった理由も、ミオの風が奴の元まで届いた理由も――すべて説明がつく。
おそらく、球体と奴の間には“引力が相殺される空間”が存在している。
そこに――迅雷を通せれば。
「いっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
叫びが弾ける。
その瞬間にはすでに、迅雷は炎と風の力を受け、球体へと突入していた。
吸い込まれるかと思われた刹那――
突破。
迅雷は、俺の予測通り相殺空間へと滑り込む。
――通った!
「ッ?!」
次の瞬間、軌道が変わる。
今度は逆に、奴の引力圏へと引き寄せられ、凄まじい加速でホープへと一直線に突き進む。
風はすでに球体に吸われ、炎も消えかけている。だが――まだ足りる。
この勢いなら、届く。
そして、確実に当たる理由はもう一つ。
引力を相殺している以上、奴は迂闊に動けない。
もし動けば、バランスが崩れ、周囲のあらゆるものを無秩序に引き寄せてしまう危険がある。下手をすれば、自分自身すら巻き込むだろう。
だから奴は、動けない。
いや――動かなかった。
その選択が、今この瞬間、致命的な隙となる。
「ぐああああああああああっ!?」
雷を纏った迅雷の刃が、ホープの腹部に突き刺さる。
直後、激しい電流が走り、奴の身体が大きく弾け飛んだ。
「うおっ?!」
「きゃっ?!」
ホープが倒れ込むと同時に、黒い球体は音もなく消失する。
支えを失った俺たちは、その反動のままミオを抱えた状態で尻餅をついた。彼女も巻き込まれる形で、俺の腕の中へと倒れ込む。
「はあ……はあ……」
その瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほどけた。
全身から力が抜け、呼吸が荒くなる。汗が止まらず、視界もわずかに揺れる。
だが――まだ終わっていない。
「はあ……はあ……あ、アイツは……どう、なった……?」
本当は、このまま倒れていたい。だが油断はできない。
なんとか首だけを持ち上げ、ホープの方へ視線を向ける。もしまだ意識が残っていれば、再び立ち上がってくる可能性がある。
その時、今の俺たちに抗う術はない。
「……あ、あぁぁぁ……」
だが、視界に映ったのは――
白目を剥き、全身を痙攣させながら地面に倒れ伏すホープの姿だった。
微かに呻き声を漏らしてはいるものの、立ち上がる気配はない。
その様子を確認した瞬間、ようやく胸の奥に溜まっていた息を吐き出した。
――終わった。
こうして俺たちは、ホープとの戦いに終止符を打った。