転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

245 / 323
第6章ー54

 「なっ?!」

 

 投擲された迅雷の柄が、わずかに燃えている。先ほど纏わせた火球の魔力が引火したのだろう。

 

 ――だが、好都合だ。

 

 このまま火が消えずにいてくれれば、雷を纏った状態のまま奴の元へ届く。あとは、あの球体を突破できるかどうかにかかっている。

 

 これはあくまで推測に過ぎない。だが――もし球体を抜けることができれば、この一撃は必ず当たる。

 

 そう確信できる理由が、二つあった。

 

 まず一つ目。

 

 それが、この魔法の最大のカラクリだ。

 

 ――奴自身も、あの球体と同じ“引力”を放っている。

 

 一見すると、あの魔法はブラックホールのような球体を生成しているだけに見える。だが実際には違う。あれは“二重発動”だ。

 

 一つは球体そのもの。そしてもう一つは、奴の身体、あるいはその周囲に同質の引力場を展開している。

 

 そう考えれば辻褄は合う。奴があの場から微動だにしなかった理由も、ミオの風が奴の元まで届いた理由も――すべて説明がつく。

 

 おそらく、球体と奴の間には“引力が相殺される空間”が存在している。

 

 そこに――迅雷を通せれば。

 

 「いっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 叫びが弾ける。

 

 その瞬間にはすでに、迅雷は炎と風の力を受け、球体へと突入していた。

 

 吸い込まれるかと思われた刹那――

 

 突破。

 

 迅雷は、俺の予測通り相殺空間へと滑り込む。

 

 ――通った!

 

 「ッ?!」

 

 次の瞬間、軌道が変わる。

 

 今度は逆に、奴の引力圏へと引き寄せられ、凄まじい加速でホープへと一直線に突き進む。

 

 風はすでに球体に吸われ、炎も消えかけている。だが――まだ足りる。

 

 この勢いなら、届く。

 

 そして、確実に当たる理由はもう一つ。

 

 引力を相殺している以上、奴は迂闊に動けない。

 

 もし動けば、バランスが崩れ、周囲のあらゆるものを無秩序に引き寄せてしまう危険がある。下手をすれば、自分自身すら巻き込むだろう。

 

 だから奴は、動けない。

 

 いや――動かなかった。

 

 その選択が、今この瞬間、致命的な隙となる。

 

 「ぐああああああああああっ!?」

 

 雷を纏った迅雷の刃が、ホープの腹部に突き刺さる。

 

 直後、激しい電流が走り、奴の身体が大きく弾け飛んだ。

 

 「うおっ?!」

 

 「きゃっ?!」

 

 ホープが倒れ込むと同時に、黒い球体は音もなく消失する。

 

 支えを失った俺たちは、その反動のままミオを抱えた状態で尻餅をついた。彼女も巻き込まれる形で、俺の腕の中へと倒れ込む。

 

 「はあ……はあ……」

 

 その瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほどけた。

 

 全身から力が抜け、呼吸が荒くなる。汗が止まらず、視界もわずかに揺れる。

 

 だが――まだ終わっていない。

 

 「はあ……はあ……あ、アイツは……どう、なった……?」

 

 本当は、このまま倒れていたい。だが油断はできない。

 

 なんとか首だけを持ち上げ、ホープの方へ視線を向ける。もしまだ意識が残っていれば、再び立ち上がってくる可能性がある。

 

 その時、今の俺たちに抗う術はない。

 

 「……あ、あぁぁぁ……」

 

 だが、視界に映ったのは――

 

 白目を剥き、全身を痙攣させながら地面に倒れ伏すホープの姿だった。

 

 微かに呻き声を漏らしてはいるものの、立ち上がる気配はない。

 

 その様子を確認した瞬間、ようやく胸の奥に溜まっていた息を吐き出した。

 

 ――終わった。

 

 こうして俺たちは、ホープとの戦いに終止符を打った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。