転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー55

 「ぐああああああああああっ!?」

 

 投げつけられた小刀が腹に突き刺さった瞬間、全身に雷撃が奔った。

 

 筋肉が強制的に収縮し、指一本すら動かせない。意識はあるのに、身体がまるで自分のものじゃない。

 

 ――この俺が、二度も同じ手を食らうだと。

 

 「……くそ、が……」

 

 信じられなかった。

 

 あんなガキ共に、負けた。

 

 ドーピングまでして手に入れた力だ。命を削って、外道に堕ちて、それでもなお掴み取った強力な魔法だったはずだ。

 

 なのに――何故だ。

 

 何故、俺が負ける?

 

 「あの野郎……俺の魔法を、攻略したってのか……?」

 

 騎士団ですら、あと一歩のところまでしか辿り着けなかった術だ。それを、あんな未熟そうなガキ二人が、あっさりと打ち破る?

 

 理解が追いつかない。

 

 いや――理解したくなかった。

 

 「これが……才能、ってやつかよ……」

 

 喉の奥から、かすれた笑いが漏れる。

 

 俺がどれだけ足掻こうと、どれだけ汚れようと、最初から持っている奴には敵わない。

 

 そういうことか。

 

 「あ、あぁ……あぁぁっ……」

 

 ふざけるな。

 

 結局この世界は、才能のある奴だけが生き残る仕組みか。

 

 努力も、覚悟も、罪すらも――何一つ意味なんてなかったっていうのか。

 

 「……くそ、が……ぁ……」

 

 視界が揺れる。

 

 小刀から流れ込む雷のせいで、意識が徐々に削り取られていく。

 

 部分魔力強化《パージング》で耐えられたのは、一度きり。

 

 そもそも最初の一撃の時点で、かなり削られていた。二度目を凌ぎ切る余力など、残っているはずがない。

 

 だからこそ、あの手に出た。

 

 ――だが、その策すら破られた。

 

 このザマだ。

 

 「……は、はは……」

 

 笑えない冗談だ。

 

 視界が暗くなる。輪郭が崩れ、世界が遠のいていく。

 

 このまま意識が落ちれば――終わりだ。

 

 奴らに捕まれば、騎士団に引き渡される。

 

 その後は裁判だ。よくて終身刑。悪ければ――死刑。

 

 しかも、この世界の裁判は甘くない。

 

 記憶操作の魔法による尋問。隠し事など一切通用しない。

 

 俺がこれまで積み上げてきた罪のすべてが、白日の下に晒される。

 

 ――人を犯し、殺し、踏み躙ってきた。

 

 数えきれないほどの罪。

 

 どれだけ言い訳を並べようと、許されるはずがない。

 

 ああ、なんで、こうなった。

 

 掠れた声が、虚しく漏れる。

 

 どこで道を間違えた?

 

 いつから、こんな所まで堕ちた?

 

 少し前までは――俺だって魔法学園の、生徒だったはずだろ。

 

 そこで、ふと疑問が浮かぶ。

 

 ――何故、俺は学園に行こうと思った?

 

 誰かに誘われた気がする。

 

 だが、その顔が思い出せない。

 

 闇に沈みかけた意識の中で、記憶が断片的に浮かび上がる。

 

 まるで走馬灯のように。

 

 思い出したくないはずの過去ほど、鮮明に蘇る。

 

 逃げようとしても、逃げられない。

 

 夢の中で何度も繰り返される悪夢のように。

 

 ――そうだ。

 

 きっかけは、三年前。

 

 あの時からだ。

 

 俺の人生が狂い始めたのは。

 

 なぜなら――

 

 三年前。

 

 俺の姉は、魔物に殺された。

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