「おらっ、シャキッと働け!」
翌日も、魔族の怒声が村に響き渡る。
自分たちは怯えながらも、黙々と作業を続けていた。
もう見慣れた光景だ。
いや――見慣れてしまった光景だ。
慣れすぎたせいで、余計なことを考えないように手だけを動かす。
下手をすれば殴られる。
だから感情を殺し、ただ淡々と作業をこなす。
自分たちに課せられた主な仕事は、
【魔造種《マド・シード》】の生産だった。
深緑の植物に実る、林檎のような果実。
その中に収まった、一粒の異様に大きな種。
大きさも異様だが、もっと異常なのは――
そこから滲み出す禍々しい魔力だった。
この世界では、人や魔族だけでなく、草木や土といった自然物にも微かな魔力が宿る。
父はかつて、魔力が尽きた際に土や草を食べて補給したことがあると言っていた。
だが回復量は雀の涙ほどで、下手をすれば体調を崩す。
苦肉の策だったらしい。
だが、この魔造種は違う。
果実を割った瞬間、吐き気を催すほどの邪悪な魔力が溢れ出す。
初めて見たとき、胃の中がひっくり返るような感覚に襲われた。
それほどまでに、生理的嫌悪を覚える代物だ。
それを――
自分たちは毎日、育てている。
汚水のような水。
得体の知れない肥料。
日の光すらまともに届かない村。
普通の植物なら即座に枯れる環境。
だが魔造種は、むしろここでしか育たないかのように増殖していく。
「おい、お前。これ運べ」
「……はい……」
魔物に命じられ、魔造種の入った木箱を運ぶ。
今日の監視役は、昨日のような暴力狂ではなく、比較的仕事に忠実な連中だった。
……とはいえ、油断すれば怒声が飛ぶ。
命令に従う以外の選択肢はない。
「はあ……はあ……」
木箱は一つなら大した重さではない。
だが数十個詰め込まれた箱は、確実に腰に来る。
感覚的には二十キロ前後。
かつてスーパーでビールケースを運んでいた頃を思い出す。
――いや、今の方が数百倍キツい。
相手は人間じゃない。
ブラック企業どころの話ではない地獄職場だ。
運び先の建物が見えてくる。
かつて誰かが住んでいた家。
だが一年以上経った今、誰の家だったかも思い出せない。
今は魔造種の貯蔵庫。
中には木箱が山のように積まれている。
そのせいか、家の内部にはおびただしい魔力が渦巻いていた。
少し足を踏み入れるだけで、頭がくらつく。
吐き気すら込み上げる。
しかも、魔力に混じるように漂う腐臭めいた空気。
息を止めたくなるほど不快だ。
「……よい、しょっと」
さっさと箱を置き、長居せず外へ出る。
この建物にも見張りはいる。
よくこんな場所で平然と立っていられるものだ。
……いや、魔族にとっては、この環境こそが「快適」なのかもしれない。
「おい、ボケっとすんな!
まだ一往復だろ!?
今日の分が終わらなきゃ連帯責任で全員飯抜きだぞ!」
「……すみません。今行きます」
背筋が冷える。
これは脅しではなく、現実に起こり得る罰だ。
急いで作業へ戻る。
一日の収穫量は木箱で約二十個。
一度に二箱運べば、十往復で終わる計算だ。
だが――
絶対に落としてはいけない。
以前、パワハラ連中に絡まれて箱を落としたことがある。
そのあと待っていたのは、骨が軋むほどの暴行だった。
あの痛みは、今でも身体が覚えている。
だから慎重に、慎重に運ぶ。
二十往復は正直きつい。
だが――
「……少しは体力ついたかもな」
ほんのわずか、無理やり前向きに考える。
そうでもしなければ、心が擦り切れてしまうから。