姉の死から数日が経った。
それでも、俺の中であの日は終わっていなかった。
あの時の光景も、感情も、何一つ整理できないまま、ただ引きずり続けている。
――本当なら。
誰か一人くらい、俺を責めてくれてもいいはずだった。
「どうしてお前だけ生きてるんだ」とか、「お前がしっかりしていれば」とか。
そういう言葉を、ぶつけられるものだと思っていた。
だが現実は違った。
誰も、何も言わない。
苦言を呈する者は一人もいない。
まるで全員が口裏を合わせているかのように、俺に優しく接してくる。
――気持ち悪い。
そう感じてしまう自分が、また嫌だった。
俺が気にしすぎているだけなのかもしれない。
それでも。
ほんの僅かに、距離を置かれているような空気だけは、はっきりと感じ取れていた。
「やあ、ホープ君。今日もいい天気だね」
「……リーフさん」
そんな中で。
ただ一人だけ、違う空気を纏っている男がいた。
リーフ・エンドレッド。
彼はここ数日、村に滞在し続けていた。
山に魔物が現れた原因を調査し、村を守るための結界まで施してくれている。
それだけでも十分すぎるほどの恩人だ。
だが――
俺にとって彼が特別だった理由は、そこじゃない。
彼だけが、俺に“普通に”接してくれた。
気を遣いすぎるでもなく、距離を取るでもなく、ただ自然に。
その距離感が、不思議と心地よかった。
気がつけば俺は、彼にだけは胸の内を打ち明けられるようになっていた。
理由は分からない。
説教されたわけでも、同情されたわけでもない。
ただ――
彼の言葉には、どこか嘘がなかった。
「……なるほど。それで、いつも俯いていたのか」
村の飯処で、昼食を取りながら。
俺は、自分でも驚くほど素直に、胸の内を吐き出していた。
どうやら、悩みは顔に出ていたらしい。
彼の方から声をかけてきたのだ。
……そんなに分かりやすかったのか、俺は。
ひょっとすると、村の連中も気付いていたのかもしれない。
それでも何も言わなかったのだとしたら――やはり、あの空気は間違いじゃない。
「……姉ちゃんは、みんなに好かれてた」
ぽつりと、言葉が零れる。
「なのに俺だけ生き残って……本当は、ガッカリしてるに決まってるのに……誰も、そんな顔しないんだ」
視線を落とす。
握ったままの樽ジョッキに、無意識に力が入る。
「それが……余計に、苦しくて……」
言葉にした途端、胸の奥が締め付けられる。
息が詰まりそうになる。
「……せめて、俺にもっと力があれば」
絞り出すように続ける。
「姉ちゃんも、助けられたかもしれないのに……それが、一番悔しくて……」
――無力だった。
結局、それがすべてだ。
俺の魔法は、引力を“少し引き寄せる”だけ。
戦闘ではほとんど役に立たない。
ゴミみたいな力だ。
本当は――
子供の頃は、憧れていた。
冒険者や騎士団の連中みたいに、強い魔法で魔物と戦って、人を助ける存在に。
だが現実は違った。
いくら努力しても、成長の兆しは見えない。
気付いてしまった。
――ああいう人間は、“最初から違う”んだと。
才能があるから、あそこに立てる。
俺みたいな人間が、どれだけ足掻いても届く場所じゃない。
だから――
諦めた。
まだ子供と呼ばれる年齢で、夢を捨てた。
「……そうか」
リーフが静かに頷く。
しばらく考えるように視線を落とし――
やがて、俺をまっすぐ見た。
「それで、君は強くなりたいのかい?」
「……えっ?」
予想していなかった言葉に、思わず顔を上げる。
強くなりたいか、だって?
そんなもの――
「……なりたいに、決まってるじゃないですか」
気付けば、そう答えていた。
諦めたはずの言葉が、口をついて出ていた。
リーフは、その返答を聞いて、わずかに微笑む。
「なら――」
一拍置いて。
「我が魔法学園に、入ってみないかい?」