転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー59

 姉の死から数日が経った。

 

 それでも、俺の中であの日は終わっていなかった。

 

 あの時の光景も、感情も、何一つ整理できないまま、ただ引きずり続けている。

 

 ――本当なら。

 

 誰か一人くらい、俺を責めてくれてもいいはずだった。

 

 「どうしてお前だけ生きてるんだ」とか、「お前がしっかりしていれば」とか。

 

 そういう言葉を、ぶつけられるものだと思っていた。

 

 だが現実は違った。

 

 誰も、何も言わない。

 

 苦言を呈する者は一人もいない。

 

 まるで全員が口裏を合わせているかのように、俺に優しく接してくる。

 

 ――気持ち悪い。

 

 そう感じてしまう自分が、また嫌だった。

 

 俺が気にしすぎているだけなのかもしれない。

 

 それでも。

 

 ほんの僅かに、距離を置かれているような空気だけは、はっきりと感じ取れていた。

 

 「やあ、ホープ君。今日もいい天気だね」

 

 「……リーフさん」

 

 そんな中で。

 

 ただ一人だけ、違う空気を纏っている男がいた。

 

 リーフ・エンドレッド。

 

 彼はここ数日、村に滞在し続けていた。

 

 山に魔物が現れた原因を調査し、村を守るための結界まで施してくれている。

 

 それだけでも十分すぎるほどの恩人だ。

 

 だが――

 

 俺にとって彼が特別だった理由は、そこじゃない。

 

 彼だけが、俺に“普通に”接してくれた。

 

 気を遣いすぎるでもなく、距離を取るでもなく、ただ自然に。

 

 その距離感が、不思議と心地よかった。

 

 気がつけば俺は、彼にだけは胸の内を打ち明けられるようになっていた。

 

 理由は分からない。

 

 説教されたわけでも、同情されたわけでもない。

 

 ただ――

 

 彼の言葉には、どこか嘘がなかった。

 

 

 

 「……なるほど。それで、いつも俯いていたのか」

 

 村の飯処で、昼食を取りながら。

 

 俺は、自分でも驚くほど素直に、胸の内を吐き出していた。

 

 どうやら、悩みは顔に出ていたらしい。

 

 彼の方から声をかけてきたのだ。

 

 ……そんなに分かりやすかったのか、俺は。

 

 ひょっとすると、村の連中も気付いていたのかもしれない。

 

 それでも何も言わなかったのだとしたら――やはり、あの空気は間違いじゃない。

 

 「……姉ちゃんは、みんなに好かれてた」

 

 ぽつりと、言葉が零れる。

 

 「なのに俺だけ生き残って……本当は、ガッカリしてるに決まってるのに……誰も、そんな顔しないんだ」

 

 視線を落とす。

 

 握ったままの樽ジョッキに、無意識に力が入る。

 

 「それが……余計に、苦しくて……」

 

 言葉にした途端、胸の奥が締め付けられる。

 

 息が詰まりそうになる。

 

 「……せめて、俺にもっと力があれば」

 

 絞り出すように続ける。

 

 「姉ちゃんも、助けられたかもしれないのに……それが、一番悔しくて……」

 

 ――無力だった。

 

 結局、それがすべてだ。

 

 俺の魔法は、引力を“少し引き寄せる”だけ。

 

 戦闘ではほとんど役に立たない。

 

 ゴミみたいな力だ。

 

 本当は――

 

 子供の頃は、憧れていた。

 

 冒険者や騎士団の連中みたいに、強い魔法で魔物と戦って、人を助ける存在に。

 

 だが現実は違った。

 

 いくら努力しても、成長の兆しは見えない。

 

 気付いてしまった。

 

 ――ああいう人間は、“最初から違う”んだと。

 

 才能があるから、あそこに立てる。

 

 俺みたいな人間が、どれだけ足掻いても届く場所じゃない。

 

 だから――

 

 諦めた。

 

 まだ子供と呼ばれる年齢で、夢を捨てた。

 

 「……そうか」

 

 リーフが静かに頷く。

 

 しばらく考えるように視線を落とし――

 

 やがて、俺をまっすぐ見た。

 

 「それで、君は強くなりたいのかい?」

 

 「……えっ?」

 

 予想していなかった言葉に、思わず顔を上げる。

 

 強くなりたいか、だって?

 

 そんなもの――

 

 「……なりたいに、決まってるじゃないですか」

 

 気付けば、そう答えていた。

 

 諦めたはずの言葉が、口をついて出ていた。

 

 リーフは、その返答を聞いて、わずかに微笑む。

 

 「なら――」

 

 一拍置いて。

 

 「我が魔法学園に、入ってみないかい?」

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