「……? え、っと……何の話ですか?」
あまりにも突拍子のない提案に、俺は思わず聞き返した。
――我が魔法学園?
本気で何を言っているのか分からない。
この人、いったい何者なんだ……。
「ここだけの話なんだが」
リーフは声を潜め、軽く周囲を見渡してから続けた。
「私はソワレル魔法学園で理事を務めていてね。趣味の旅行がてら、見込みのある人材を見つけたら声をかけているんだ」
「そ、ソワレル魔法学園って……あの?!」
思わず声が大きくなる。
この辺境の村に住んでいる俺ですら知っている、有名な魔法学園だ。
「……できれば、もう少し声を落としてくれると助かる」
「あっ……す、すみません」
リーフは苦笑しながら指で口元を示した。
どうやら、自分の素性をあまり知られたくないらしい。
それにしても――
前々から只者ではないとは思っていたが、まさかここまでとは。
こんな辺鄙な場所に、こんな大物が現れるなんて。
世の中、本当に何が起きるか分からない。
「話を戻そうか」
リーフは改めて俺に向き直る。
「どうだろう? 君も学園に入ってみる気はないかい? もちろん、試験は受けてもらう。入学できるかどうかは、最終的には君次第だがね」
「……」
俺は言葉を失った。
突然すぎる話に頭が追いつかない――というのもあるが、それ以上に引っかかることがあった。
「……いいんですか?」
「ん?」
「俺みたいな奴が……試験なんて受けて」
自嘲気味に笑う。
「俺には、魔法の才能なんてありません。できるのは、ちょっと物を引き寄せるくらいで……戦いに使えるような力じゃない」
視線を落とす。
「仮に試験を受けたところで、入学なんて……絶対に無理です」
分かりきっている。
努力しても、何も変わらなかった。
だから諦めた。
冒険者も、騎士団も――全部。
「……君の話を聞いていて、ひとつ思ったことがある」
「……はい?」
リーフは静かに言った。
「君は、自分に自信がないように見える」
「……」
図星だった。
「だからこそ、周囲の目を過剰に気にしてしまう。皆が君を責めないのは、仕方のないことだと理解しているからだよ」
穏やかな口調で続ける。
「人はね、君が思うほど冷たい生き物じゃない。むしろ、多くは善良で、純粋だ。……少し、君が敏感すぎるだけだろう」
「……そう、なんですかね」
自信なく呟く。
「おそらく君は、自分の才能に早々と見切りをつけてしまった。その結果、自分自身を過小評価しているんだ」
リーフはまっすぐ俺を見据えた。
「だが、君はまだ若い。才能がないと決めつけるには、早すぎると思うよ」
「……でも」
思わず反論が口をつく。
「どれだけ努力しても、全然成長しないんです。頑張っても意味がないなら……やるだけ無駄じゃないですか」
「一人での鍛錬には限界がある」
即座に返ってくる言葉。
「だからこそ、学ぶ場所――学園が存在するんだ」
「……」
何も言えない。
「それにね」
リーフは少しだけ表情を和らげた。
「“才能がない”と言われながら、学園を首席で卒業し、その後騎士団長にまで上り詰めた人物を、私は知っている」
「……え?」
思わず顔を上げる。
「もちろん、稀有な例ではある。だが――ゼロじゃない」
静かに、だが確信を込めて言い切る。
「本当の力を発揮できるかどうかは、本人次第だ。……諦めるのは、やれることをすべてやってからでも遅くはないと思わないかい?」
「……」
胸の奥が、わずかに揺れた。
一人での限界。
独学の壁。
そして――可能性。
もしかしたら。
ほんの僅かでも。
俺の力にも、意味があるのかもしれない。
それに――
俺は、他人の目を気にしすぎている。
優しさすら疑ってしまうほどに。
それが、何よりも怖かった。
――もし。
もしも俺が、力を手に入れて。
誰かの役に立てるようになれたなら。
姉の死にも、少しは意味を見出せるのだろうか。
そんな考えが、脳裏をよぎる。
「……分かりました」
ゆっくりと、顔を上げる。
「俺……試験、受けてみます」
自分でも驚くほど、はっきりとした声だった。
もう一度、前を見るために。
そして――
一度は諦めた夢を、取り戻すために。
俺は、その一歩を踏み出すことにした。