転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー60

 「……? え、っと……何の話ですか?」

 

 あまりにも突拍子のない提案に、俺は思わず聞き返した。

 

 ――我が魔法学園?

 

 本気で何を言っているのか分からない。

 

 この人、いったい何者なんだ……。

 

 「ここだけの話なんだが」

 

 リーフは声を潜め、軽く周囲を見渡してから続けた。

 

 「私はソワレル魔法学園で理事を務めていてね。趣味の旅行がてら、見込みのある人材を見つけたら声をかけているんだ」

 

 「そ、ソワレル魔法学園って……あの?!」

 

 思わず声が大きくなる。

 

 この辺境の村に住んでいる俺ですら知っている、有名な魔法学園だ。

 

 「……できれば、もう少し声を落としてくれると助かる」

 

 「あっ……す、すみません」

 

 リーフは苦笑しながら指で口元を示した。

 

 どうやら、自分の素性をあまり知られたくないらしい。

 

 それにしても――

 

 前々から只者ではないとは思っていたが、まさかここまでとは。

 

 こんな辺鄙な場所に、こんな大物が現れるなんて。

 

 世の中、本当に何が起きるか分からない。

 

 「話を戻そうか」

 

 リーフは改めて俺に向き直る。

 

 「どうだろう? 君も学園に入ってみる気はないかい? もちろん、試験は受けてもらう。入学できるかどうかは、最終的には君次第だがね」

 

 「……」

 

 俺は言葉を失った。

 

 突然すぎる話に頭が追いつかない――というのもあるが、それ以上に引っかかることがあった。

 

 「……いいんですか?」

 

 「ん?」

 

 「俺みたいな奴が……試験なんて受けて」

 

 自嘲気味に笑う。

 

 「俺には、魔法の才能なんてありません。できるのは、ちょっと物を引き寄せるくらいで……戦いに使えるような力じゃない」

 

 視線を落とす。

 

 「仮に試験を受けたところで、入学なんて……絶対に無理です」

 

 分かりきっている。

 

 努力しても、何も変わらなかった。

 

 だから諦めた。

 

 冒険者も、騎士団も――全部。

 

 「……君の話を聞いていて、ひとつ思ったことがある」

 

 「……はい?」

 

 リーフは静かに言った。

 

 「君は、自分に自信がないように見える」

 

 「……」

 

 図星だった。

 

 「だからこそ、周囲の目を過剰に気にしてしまう。皆が君を責めないのは、仕方のないことだと理解しているからだよ」

 

 穏やかな口調で続ける。

 

 「人はね、君が思うほど冷たい生き物じゃない。むしろ、多くは善良で、純粋だ。……少し、君が敏感すぎるだけだろう」

 

 「……そう、なんですかね」

 

 自信なく呟く。

 

 「おそらく君は、自分の才能に早々と見切りをつけてしまった。その結果、自分自身を過小評価しているんだ」

 

 リーフはまっすぐ俺を見据えた。

 

 「だが、君はまだ若い。才能がないと決めつけるには、早すぎると思うよ」

 

 「……でも」

 

 思わず反論が口をつく。

 

 「どれだけ努力しても、全然成長しないんです。頑張っても意味がないなら……やるだけ無駄じゃないですか」

 

 「一人での鍛錬には限界がある」

 

 即座に返ってくる言葉。

 

 「だからこそ、学ぶ場所――学園が存在するんだ」

 

 「……」

 

 何も言えない。

 

 「それにね」

 

 リーフは少しだけ表情を和らげた。

 

 「“才能がない”と言われながら、学園を首席で卒業し、その後騎士団長にまで上り詰めた人物を、私は知っている」

 

 「……え?」

 

 思わず顔を上げる。

 

 「もちろん、稀有な例ではある。だが――ゼロじゃない」

 

 静かに、だが確信を込めて言い切る。

 

 「本当の力を発揮できるかどうかは、本人次第だ。……諦めるのは、やれることをすべてやってからでも遅くはないと思わないかい?」

 

 「……」

 

 胸の奥が、わずかに揺れた。

 

 一人での限界。

 

 独学の壁。

 

 そして――可能性。

 

 もしかしたら。

 

 ほんの僅かでも。

 

 俺の力にも、意味があるのかもしれない。

 

 それに――

 

 俺は、他人の目を気にしすぎている。

 

 優しさすら疑ってしまうほどに。

 

 それが、何よりも怖かった。

 

 ――もし。

 

 もしも俺が、力を手に入れて。

 

 誰かの役に立てるようになれたなら。

 

 姉の死にも、少しは意味を見出せるのだろうか。

 

 そんな考えが、脳裏をよぎる。

 

 「……分かりました」

 

 ゆっくりと、顔を上げる。

 

 「俺……試験、受けてみます」

 

 自分でも驚くほど、はっきりとした声だった。

 

 もう一度、前を見るために。

 

 そして――

 

 一度は諦めた夢を、取り戻すために。

 

 俺は、その一歩を踏み出すことにした。

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