それから約一年後。
俺は一から鍛錬を積み直し、ついにソワレル魔法学園の入学試験を受けるところまで辿り着いた。
あの日、リーフから聞いた助言は今でもはっきり覚えている。
――「魔法の基礎は、まず体力づくりから。それと、君の魔法は近接戦に向いている。体術や剣術も身につけておいた方がいい」
その言葉を信じ、俺はひたすら身体を鍛え続けた。
走り込み、筋力トレーニング、そして素振り。
最初は走るだけで限界だった。息はすぐに上がり、足はもつれ、何度も倒れそうになった。
それでも――
一日も欠かさず続けた。
雨の日も、体調が優れない日も、やめなかった。
やめたら、そこで終わる気がしたからだ。
その成果は、確実に現れた。
半年ほど経った頃には、すべてのメニューを終えてもまだ余力が残るようになっていた。トレーニングの後、そのまま山へ山菜を採りに行けるほどの体力が身についていた。
正直、自分でも驚いた。
――人は、ここまで変われるのかと。
同時に、思い知らされた。
たった一ヶ月で「無理だ」と諦めていた、過去の自分の甘さを。
情けないとすら思った。
だが――
魔法だけは、どうにもならなかった。
俺の引力魔法は、他の属性とは性質が違う。
詠唱の参考にしようにも、村にある本には重力や引力に関する記述は一切なかった。
学園に行けば、もしかしたら見つかるかもしれない。
だが、それまでは独学でやるしかない。
試しに自分なりに詠唱を組み立ててみたこともある。
だが――結果は散々だった。
何も起きないか、制御できずに失敗するかのどちらか。
やはり俺には、魔法の才能はないのだと、嫌でも実感させられた。
それでも。
身体を鍛えたことで、戦い方は変わった。
剣術と体術。
そして、わずかながら扱える引力魔法を組み合わせることで、以前とは比べものにならないほど戦えるようになっていた。
その成果は、試験で証明された。
仮想魔物との戦闘試験。
決して強敵ではなかったが、それでも以前の俺なら太刀打ちできなかったはずの相手だ。
それを、俺は突破した。
泥臭くても、格好悪くても――
勝ちは、勝ちだ。
「……よし」
試験に合格した後、説明会の最中。
俺は一人、胸の内で静かに拳を握っていた。
――俺は、やっとここまで来たんだ。
「ここからだ……」
心の中で、言葉を紡ぐ。
もっと強くなる。
魔法も学ぶ。
この学園を卒業して――
いつか、冒険者か騎士団員になって、人を助ける。
困っている誰かのために、力を使える人間になる。
そうすれば。
姉の死も、無駄じゃなかったと思えるかもしれない。
たくさんの人を救えたなら、その分だけ――
少しは報われる気がした。
それに。
成功すれば、金も手に入る。
両親にも楽をさせてやれる。
そして――
俺を救ってくれた姉と、リーフへの恩返しにもなる。
「……やってやる」
小さく、だが確かにそう呟いた。
魔法の才能がなくてもいい。
人一倍努力すればいい。
リーフも言っていた。
例外は、ゼロじゃないと。
なら――
その例外に、俺がなってやる。
そう心に誓い、俺は学園の門をくぐった。
――だが。
その時の俺は、まだ知らなかった。
この選択が。
この場所が。
そして、これから出会う“何か”が――
自分の人生を、奈落へと突き落とすことになるなど。