転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー64

 あれから、幾月もの時間が流れていた。

 

 あの日以降、俺は一度も学園に通っていない。

 

 それどころか、ソワレルの街にすら足を踏み入れていなかった。

 

 行く当てもないまま、拠点を転々としながら彷徨い続けている。

 

 ――とはいっても、まともな拠点などない。

 

 ほとんどは野宿だ。

 

 

 

 実家にも、帰れていない。

 

 村には一度も戻っていなかった。

 

 おそらく、俺が学園を辞めたことを、村の人間はまだ誰も知らないだろう。

 

 合格した時は、村全体で盛大に祝ってくれた。

 

 あの光景が、今でも脳裏に焼き付いている。

 

 だからこそ――帰れなかった。

 

 どんな顔をして会えばいいのか分からない。

 

 中退したことを話した時、どんな反応をされるのか。

 

 それを想像するだけで、足がすくんだ。

 

 せっかく、あそこまで辿り着いたのに。

 

 結局、何も成し遂げられなかった自分を、どう受け止めればいいのか分からなかった。

 

 

 

 「……はあ……」

 

 自然と、ため息が漏れる。

 

 

 

 試験に向けて鍛錬していた頃。

 

 あの時は、不思議と前向きになれていた。

 

 努力すれば変われると、本気で信じていた。

 

 だが――

 

 あの一件で、すべてが崩れた。

 

 身体だけじゃない。

 

 心まで、壊された。

 

 ようやく薄れていたはずのネガティブな思考が、ここ最近になってまた顔を出してきていた。

 

 いや、顔を出したどころではない。

 

 今では、頭の中の大半を占めている。

 

 

 

 俺は今、目的もなくさまよっている。

 

 日中は、適当に狩りをして腹を満たし。

 

 夜になれば、町の裏路地に潜り込み、貧民たちに紛れて眠る。

 

 そんな生活を、ただ繰り返しているだけだった。

 

 

 

 手元に残った金は、まだ底を尽きてはいない。

 

 だが、使う気にはなれなかった。

 

 先の見えない状況で、それを消費するのは愚策だと分かっている。

 

 これは、最後の保険だ。

 

 ――本当にどうしようもなくなった時のための。

 

 

 

 学園を辞めた直後、一度は考えた。

 

 どこかで働いて、金を稼ごうと。

 

 だが、それもすぐに諦めた。

 

 今の俺には、あまりにも問題が多すぎた。

 

 

 

 冒険者のように依頼を受けるにしても、身分証明が必要になる。

 

 かつての学生証は、もう使えない。

 

 仮に誤魔化して依頼を受けたとしても、記録は学園へ報告される。

 

 不正が発覚すれば、懲戒処分は免れない。

 

 最悪、騎士団に連行される可能性すらある。

 

 ――そうなれば、本当に終わりだ。

 

 

 

 かといって、一般の仕事に就くのも難しい。

 

 身元の分からない人間を雇う物好きなど、そうそういない。

 

 俺にできることといえば、家事と山菜採りくらいのものだ。

 

 それに――

 

 「……無理、だろ」

 

 小さく呟く。

 

 

 

 あの出来事以来、人と関わること自体が怖くなっていた。

 

 誰かと目を合わせることすら、どこか恐ろしい。

 

 まともに会話できる自信もない。

 

 今の精神状態で働くなど、到底不可能だった。

 

 

 

 「……くそ」

 

 横になりながら、吐き捨てるように呟く。

 

 

 

 夏だというのに、夜の外気は思った以上に冷える。

 

 身体を丸め、寒さを凌ぐ。

 

 

 

 目を閉じると、嫌でも考えてしまう。

 

 ――どうして、こんなことになったのか。

 

 

 

 俺はただ、夢を叶えたかっただけだ。

 

 死んだ姉に、少しでも報いたかっただけだ。

 

 そのために、必死に努力してきた。

 

 それなのに――

 

 

 

 「……俺が悪いのか?」

 

 誰に向けるでもなく、問いかける。

 

 

 

 才能がないことが、そんなに罪なのか。

 

 身の丈に合わない夢を見たことが、間違いだったのか。

 

 

 

 ――夢を見ることすら、許されないのか。

 

 

 

 「……ふざけんなよ」

 

 かすれた声が、夜に溶ける。

 

 

 

 一度きりの人生だ。

 

 それでも、夢を見ることがいけないのか。

 

 等身大で生きることだけが、正しいのか。

 

 それ以外は、すべて間違いだというのか。

 

 答えは、どこにもなかった。

 

 ただ、同じ問いを繰り返すだけ。

 

 答えの出ない自問自答を、延々と続けるだけだった。

 

 やがて、意識が薄れていく。

 

 その時だった。

 

 ふいに。

 

 自分に向けて、手を差し伸べる人物が現れた。

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