あれから、幾月もの時間が流れていた。
あの日以降、俺は一度も学園に通っていない。
それどころか、ソワレルの街にすら足を踏み入れていなかった。
行く当てもないまま、拠点を転々としながら彷徨い続けている。
――とはいっても、まともな拠点などない。
ほとんどは野宿だ。
実家にも、帰れていない。
村には一度も戻っていなかった。
おそらく、俺が学園を辞めたことを、村の人間はまだ誰も知らないだろう。
合格した時は、村全体で盛大に祝ってくれた。
あの光景が、今でも脳裏に焼き付いている。
だからこそ――帰れなかった。
どんな顔をして会えばいいのか分からない。
中退したことを話した時、どんな反応をされるのか。
それを想像するだけで、足がすくんだ。
せっかく、あそこまで辿り着いたのに。
結局、何も成し遂げられなかった自分を、どう受け止めればいいのか分からなかった。
「……はあ……」
自然と、ため息が漏れる。
試験に向けて鍛錬していた頃。
あの時は、不思議と前向きになれていた。
努力すれば変われると、本気で信じていた。
だが――
あの一件で、すべてが崩れた。
身体だけじゃない。
心まで、壊された。
ようやく薄れていたはずのネガティブな思考が、ここ最近になってまた顔を出してきていた。
いや、顔を出したどころではない。
今では、頭の中の大半を占めている。
俺は今、目的もなくさまよっている。
日中は、適当に狩りをして腹を満たし。
夜になれば、町の裏路地に潜り込み、貧民たちに紛れて眠る。
そんな生活を、ただ繰り返しているだけだった。
手元に残った金は、まだ底を尽きてはいない。
だが、使う気にはなれなかった。
先の見えない状況で、それを消費するのは愚策だと分かっている。
これは、最後の保険だ。
――本当にどうしようもなくなった時のための。
学園を辞めた直後、一度は考えた。
どこかで働いて、金を稼ごうと。
だが、それもすぐに諦めた。
今の俺には、あまりにも問題が多すぎた。
冒険者のように依頼を受けるにしても、身分証明が必要になる。
かつての学生証は、もう使えない。
仮に誤魔化して依頼を受けたとしても、記録は学園へ報告される。
不正が発覚すれば、懲戒処分は免れない。
最悪、騎士団に連行される可能性すらある。
――そうなれば、本当に終わりだ。
かといって、一般の仕事に就くのも難しい。
身元の分からない人間を雇う物好きなど、そうそういない。
俺にできることといえば、家事と山菜採りくらいのものだ。
それに――
「……無理、だろ」
小さく呟く。
あの出来事以来、人と関わること自体が怖くなっていた。
誰かと目を合わせることすら、どこか恐ろしい。
まともに会話できる自信もない。
今の精神状態で働くなど、到底不可能だった。
「……くそ」
横になりながら、吐き捨てるように呟く。
夏だというのに、夜の外気は思った以上に冷える。
身体を丸め、寒さを凌ぐ。
目を閉じると、嫌でも考えてしまう。
――どうして、こんなことになったのか。
俺はただ、夢を叶えたかっただけだ。
死んだ姉に、少しでも報いたかっただけだ。
そのために、必死に努力してきた。
それなのに――
「……俺が悪いのか?」
誰に向けるでもなく、問いかける。
才能がないことが、そんなに罪なのか。
身の丈に合わない夢を見たことが、間違いだったのか。
――夢を見ることすら、許されないのか。
「……ふざけんなよ」
かすれた声が、夜に溶ける。
一度きりの人生だ。
それでも、夢を見ることがいけないのか。
等身大で生きることだけが、正しいのか。
それ以外は、すべて間違いだというのか。
答えは、どこにもなかった。
ただ、同じ問いを繰り返すだけ。
答えの出ない自問自答を、延々と続けるだけだった。
やがて、意識が薄れていく。
その時だった。
ふいに。
自分に向けて、手を差し伸べる人物が現れた。