転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー69

 「……んっ、んん……」

 

 決着がついてからしばらく経ち、ようやくホープが目を覚ました。時間にして、およそ一時間弱といったところだろうか。自分たちもあの戦いでほとんどの力を使い果たし、地面に倒れ込んでいたが、徐々に体力は回復し、どうにか動ける程度には戻っていた。もっとも、もし彼があのままの状態で先に目を覚ましていたら――少々厄介な事態になっていた可能性は否めない。

 

 「目ぇ、覚めたか?」

 

 声をかけると、ホープはゆっくりとこちらに視線を向けた。そして次の瞬間、露骨に舌打ちを鳴らす。

 

 「……ちっ」

 

 あまりにも分かりやすい反応に、思わず苦笑いが浮かびそうになる。まあ、立場を考えれば当然といえば当然か。

 

 「その拘束具、魔法を封じる効果があるんだ。だから魔法を使おうとしても無駄だぞ」

 

 一応、状況を説明しておく。ホープの両腕には、魔力の流れを遮断する魔道具がはめられていた。これがある限り、どれだけ魔力を持っていようと発動は不可能だ。

 

 「けっ、見りゃ分かるっつーの。その程度の対策もしてねぇなら、拘束する意味なんざねぇだろ。馬鹿にしてんじゃねぇぞ、クソガキが」

 

 だが、返ってきたのは予想通りの悪態だった。動揺どころか、むしろ“知っていて当然だろう”とでも言いたげな態度だ。どうやら自分は、無意識のうちに相手の癇に障ることばかり口にしているらしい。そんなつもりはないのだが。

 

 「……なあ。一つ聞いていいか?」

 

 「ぁあ゛?」

 

 それでも、どうしても気になっていることがあった。

 

 「なんで、こんなことをしたんだ?」

 

 自分の問いに、ホープは一瞬だけ目を細めた。だがすぐに、吐き捨てるように言う。

 

 「……別に。テメーらみたいな“才能ある奴”には、才能のねぇ連中が何考えてるかなんて一生分かんねぇよ。それだけだ」

 

 皮肉混じりの一言。それは答えというより、明確な拒絶だった。

 

 ――才能。

 

 そういえばこいつは、先ほどから何度もその言葉を口にしている。だが自分から見れば、ホープにも十分に“力”はあるように思えた。確かに派手さはないが、使い方次第でいくらでも応用が利く魔法だ。少なくとも、無能と切り捨てられるようなものではない。

 

 「……あんた、前に何かあったのか?」

 

 思わず、そんな言葉が口をついて出た。

 

 「ぁあ゛あ゛あ゛ん?」

 

 睨み返される。それでも、引くつもりはなかった。

 

 「才能があるとかないとか、それが今回のことと何の関係があるんだよ。だったら、あの集落の人たちはどうなる? 皆“才能があった”から死んでもよかったって言うのか?」

 

 「うるせぇぇぇなぁぁぁっ!! 黙ってろって言ってんだろうが!!」

 

 怒声が響いた。空気が一気に張り詰める。

 

 「サ、サダメ……これ以上は……」

 

 横からミオが止めに入るが、自分の中の苛立ちは収まらなかった。

 

 「やれるもんならやってみろよ!」

 

 気づけば、挑発するような言葉まで吐いていた。自分でも驚くほど、感情が高ぶっている。

 

 「……サダメぇ?!」

 

 ミオの焦った声が耳に入る。それでも止まらない。

 

 「あんたは人を殺したんだぞ! それを“嫉妬でした”なんて薄っぺらい理由で済ませられるわけねぇだろうが!!」

 

 「テメーが納得しようがしまいが、知ったこっちゃねぇよ! 分かったら手ぇ離せや!!」

 

 いつの間にか、ホープの胸ぐらを掴んでいた。自分でも無意識の行動だった。

 

 「ちょ、ちょっと! 落ち着いてサダメ!!」

 

 ミオが慌てて引き剥がそうとするが、力が入って離れない。三者三様の思惑がぶつかり、場の空気は完全に険悪なものへと変わっていた。

 

 「関係あるとかないとか、そういう話じゃねぇんだよ」

 

 それでも、自分は言葉を続ける。

 

 「俺は――お前のことを知りたいだけだ」

 

 「……は?」

 

 呆れたような声が返ってくる。

 

 「キモ。正気かよ」

 

 「ああ。本気だ」

 

 真っ直ぐに見据える。逸らさせない。逃がさない。

 

 その視線に耐えきれなくなったのか、ホープは顔を背け、深いため息を吐いた。

 

 「……はあ。めんどくせぇな」

 

 観念したように呟く。

 

 「どっから話せばいいんだか……」

 

 やがて、ぽつりぽつりと語り始めた。

 

 姉を魔物に殺されたこと。魔法学園に入学したこと。そこで味わった挫折と絶望。そして――ここに至るまでの経緯。

 

 断片的だった情報が、ようやく一つの線として繋がっていく。

 

 話を聞いているうちに、いつの間にか時間が過ぎていた。やがてフィーが教師たちを連れて戻ってきて、事の顛末を説明することになる。

 

 その後、ホープたちは騎士団へと引き渡され、今回の一連の事件は終息を迎えた。

 

 ――すべてが終わったはずだった。

 

 それでもなお、胸の奥には拭いきれない何かが残っていた。

 

 ―転生勇者が死ぬまで、残り4082日。

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