転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ーおまけ2

 「はあ……はあ……はあ……」

 

 今日の任務は、ただの薬草採取のはずだった。

 それなのに今、俺は必死に“何か”から逃げている。

 

 何から逃げているのかは分からない。

 “奴”が何者なのかも分からない。

 

 分かっているのは――仲間がやられたという事実だけだ。

 

 薬草採取の最中、四人いた仲間のうちの一人が突然何かに襲われ、重傷を負った。

 異変を察知した俺たちは周囲を警戒したが、次の瞬間、別の仲間も同じように攻撃を受けて倒れた。

 

 どこから攻撃されたのか、まるで分からない。

 

 そして、もう一人――治癒魔法を使える女が、急いで負傷者に魔法を施そうとした、その時だった。

 

 彼女もまた、見えない何かに襲われた。

 

 ただ倒れただけじゃない。

 服が引き裂かれ、怯えた様子で身体を震わせ、意味も分からず股を開き始めた。

 

 その異様な光景を目にした瞬間、俺は確信した。

 ――“何か”が、そこにいる。

 

 姿は見えない。だが、確実に存在している。

 

 俺は咄嗟に、その場にいるはずの敵へ向かって殴りかかろうとした。

 

 ――だが。

 

 直後、草むらの奥から魔物らしき遠吠えが響いた。

 

 その音に、全身が凍りついた。

 

 この状況で魔物? おかしい。

 だが、そんな違和感を考える余裕はなかった。

 

 恐怖で、思考が完全に止まっていた。

 

 気づいた時には、俺はその場から逃げ出していた。

 

 

 

 今はただ、助けを求めて隣町へ向かって走っている。

 

 全力で走り続けて約五分。

 限界を迎え、俺はその場に崩れ落ちるようにして呼吸を整えた。

 

 「はあ……はあ……くそ……」

 

 町まではまだ距離がある。

 このままじゃ追いつかれるかもしれない。

 

 せめて――誰か通りかかってくれれば。

 

 

 

 「……あれは……人、か?」

 

 視線の先に、フードを深く被った人物がこちらへ歩いてくるのが見えた。

 

 顔は見えない。

 冒険者かどうかも分からない。

 

 だが、今は誰でもいい。

 

 ――最悪、囮にして逃げればいい。

 

 

 

 「はあ……はあ……! す、すいません! 助けてくれませんか!?」

 

 俺はその人物に駆け寄り、必死に声をかけた。

 

 

 

 ――次の瞬間。

 

 「がっ?!」

 

 突き飛ばされた。

 

 何が起きたのか分からないまま、尻餅をつく。

 

 「いってぇ……な、何しやが……」

 

 怒鳴りつけようと顔を上げた、その時だった。

 

 

 

 「よう。久しぶりだな」

 

 

 

 「……る……って、おまえ……」

 

 言葉が詰まる。

 

 フードの奥から覗いた顔は――見覚えのあるものだった。

 

 

 

 「どうした? 今日は薬草採取の依頼だったんだろ? なのに必死に逃げて、どこ行くつもりだ?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、そいつは言った。

 

 

 

 「ッ!? なんでそれを……」

 

 知っているはずがない。

 

 依頼の内容は、受けた者しか知らないはずだ。

 

 こいつは――もう学園の人間じゃないのに。

 

 

 

 「それにしても、今日はいつもの連中じゃねーんだな。あいつらはどうした?」

 

 軽い調子で問いかけてくる。

 

 だが、その言葉で確信した。

 

 こいつは――全部知っている。

 

 

 

 「……とぼけんなよ」

 

 喉の奥から、声を絞り出す。

 

 「お前がやったんだろ……ホープ」

 

 

 

 ホープ。

 魔法の才能もないくせに、なぜか学園に入り込んだ男。

 

 こいつのせいで、俺たちの仲間は一人落ちた。

 

 俺たちは五人で、同じ未来を目指していた。

 

 それを――こいつが壊した。

 

 

 

 「はっ。復讐か? ふざけんなよ」

 

 怒りが込み上げる。

 

 「才能もねー奴が夢なんか見るからだろ! 人の役に立つ? 笑わせんな! これのどこが役に立ってんだよ!」

 

 

 

 叫び続ける俺を前にしても、ホープは微動だにしなかった。

 

 

 

 「……ふっ」

 

 そして、小さく笑うと――首に注射のようなものを打ち込んだ。

 

 

 

 「お前の惨めな顔が見れて満足だ。じゃあな」

 

 

 

 「……は?」

 

 それだけ言い残し、背を向けて歩き出す。

 

 

 

 何だ、それは。

 

 ふざけるな。

 

 

 

 「……ざけんなよ」

 

 俺は立ち上がる。

 

 逃げるな。

 ここで終わらせてたまるか。

 

 

 

 「ぶっ殺してやる――!」

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

 「深淵の虚空で万物を喰らい尽くせ――【漆黒の追放球】《ブラック・バニッシュ》」

 

 

 

 「……は?」

 

 

 

 直後、背後から凄まじい吸引力が発生した。

 

 身体が強引に引き寄せられる。

 

 

 

 「なっ……!?」

 

 あり得ない。

 

 こいつの魔法は、こんな威力じゃなかったはずだ。

 

 

 

 恐る恐る振り返る。

 

 

 

 そこには――

 

 巨大な黒い球体が浮かんでいた。

 

 

 

 周囲の木々が、地面ごと引き剥がされ、飲み込まれていく。

 

 音もなく、ただ“消えていく”。

 

 

 

 「……うそだろ……」

 

 

 

 理解した瞬間、全身が震えた。

 

 あれに触れたら――終わりだ。

 

 

 

 「いやだ……やめろ……!」

 

 

 

 身体が宙に浮く。

 

 抗えない。

 

 

 

 「いやだああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 次の瞬間、俺は黒に呑み込まれた。

 

 

 

 肉が裂けるような激痛。

 

 骨が砕ける感覚。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 意識は、闇に消えた。

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