転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ーおまけ3

 ホープたちとの戦いが終わり、彼らは騎士団へと連行されることになった。

 自分たちは、その様子をただ見守るしかなかった。

 

 「サダメ。手の方は大丈夫?」

 

 「ん? ああ、大丈夫だ。ミオのおかげで火傷跡も残らずに済んだよ。ありがとう」

 

 「そう? それならいいんだけど」

 

 心配そうに覗き込んでくるミオに、軽く手を振って見せる。

 

 最後に放った火球――あの時、炎の魔力を無理やり手のひらに留めたせいで、左手は酷い状態になっていた。

 皮膚は剥がれ、焼けつくような痛みが走り、まともに動かすことすらできなかった。

 

 ミオがすぐに治癒魔法を施してくれたおかげで、今は何事もなかったかのように動かせているが、あのままだったら最悪、手を失っていた可能性もある。

 

 ――我ながら、無茶をした。

 

 そう思い返しながら、拳を軽く握り直す。

 次は、同じやり方では通用しないかもしれない。改善の余地は大いにある。

 

 

 

 「ほら、さっさと入れ」

 

 「ちっ……こいつらさえいなけりゃ、こんな目に遭わずに済んだのによ」

 

 騎士団員に促されながら、ホープは馬車へと押し込まれていく。

 最後まで舌打ちをやめず、反省の色は微塵も見せなかった。

 

 

 

 ――あいつの過去は、想像以上に重かった。

 

 だからといって、やっていいことと悪いことの区別が消えるわけじゃない。

 同情はできる。だが、許されることではない。

 

 それは分かっている。

 

 ……分かっているはずなのに。

 

 

 

 このままで、本当にいいのか?

 

 

 

 ふと、そんな考えが頭をよぎった。

 

 このままいけば、奴はほぼ確実に重い罪に問われる。

 死刑か、よくて終身刑――未来は閉ざされていると言っていい。

 

 罪を犯した以上、罰を受けるのは当然だ。

 だが、その“原因”は何だったのか。

 

 

 

 ――あいつは、最初からああだったのか?

 

 

 

 違うはずだ。

 

 生徒同士のいざこざ。

 理不尽な暴力。

 誰にも助けられず、孤立し、追い詰められていった結果が――あの姿だとしたら。

 

 

 

 それなのに、最後はただ“犯罪者”として切り捨てるだけでいいのか。

 

 

 

 「……待って!」

 

 

 

 気づけば、声が出ていた。

 

 「ん?」

 「サダメ?」

 「あ?」

 

 周囲の視線が一斉にこちらへ向く。

 

 

 

 ――しまった。

 

 

 

 呼び止めたはいいが、何を言うかなんて考えていなかった。

 助ける方法なんてない。

 言葉ひとつで状況が変わるわけでもない。

 

 それでも――何か言わなければいけない気がした。

 

 

 

 「……あ、諦めちゃ、ダメだ」

 

 

 

 ようやく絞り出した言葉は、あまりにも拙かった。

 

 「は?」

 

 当然のように、怪訝な顔をされる。

 

 

 

 「お、俺も……家族を殺された。村の人も、みんなだ。魔法の才能があるって言われてたのに、誰一人救えなかった」

 

 

 

 言葉が止まらなかった。

 

 自分でも、何を言っているのか分からないまま続けていた。

 

 

 

 「……何が言いてぇ? 不幸自慢か?」

 

 「違う!」

 

 

 

 思わず声を荒げる。

 

 

 

 「俺が言いたいのは、才能があるとかないとか、そんなの関係ないってことだ!」

 

 「あん?」

 

 

 

 「才能がないからって夢を諦める理由にはならない! 夢ってのは、才能じゃなくて……心の問題だ!」

 

 

 

 自分でも驚くくらい、言葉が溢れてくる。

 

 

 

 「諦めなければ、どんな形でも前に進める! でも、心が折れたら終わりだ……どんな才能があっても関係ない。だから、その……」

 

 

 

 ――そこで、言葉が途切れた。

 

 

 

 自分は、何を伝えたいんだ?

 

 何をしてやりたいんだ?

 

 

 

 答えは出なかった。

 

 

 

 「……はっ」

 

 

 

 ホープが小さく笑う。

 

 

 

 「もう来世の話でもしてんのか?」

 

 

 

 「っ……いや、そういう意味じゃ……」

 

 

 

 「冗談だよ。ジョークに決まってんだろ。……ったく、ノリ悪ぃな」

 

 

 

 皮肉混じりの言葉。

 だが、その声音は、どこかさっきまでと違っていた。

 

 

 

 結局、それ以上言葉を交わすことはなかった。

 

 ホープは大人しく馬車に乗り込み、そのまま騎士団本部へと連行されていく。

 

 

 

 遠ざかっていく馬車を、ただ見つめることしかできなかった。

 

 

 

 ――何もできなかった。

 

 

 

 胸の奥に残るのは、言いようのない無力感だけだった。

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