ホープたちとの戦いが終わり、彼らは騎士団へと連行されることになった。
自分たちは、その様子をただ見守るしかなかった。
「サダメ。手の方は大丈夫?」
「ん? ああ、大丈夫だ。ミオのおかげで火傷跡も残らずに済んだよ。ありがとう」
「そう? それならいいんだけど」
心配そうに覗き込んでくるミオに、軽く手を振って見せる。
最後に放った火球――あの時、炎の魔力を無理やり手のひらに留めたせいで、左手は酷い状態になっていた。
皮膚は剥がれ、焼けつくような痛みが走り、まともに動かすことすらできなかった。
ミオがすぐに治癒魔法を施してくれたおかげで、今は何事もなかったかのように動かせているが、あのままだったら最悪、手を失っていた可能性もある。
――我ながら、無茶をした。
そう思い返しながら、拳を軽く握り直す。
次は、同じやり方では通用しないかもしれない。改善の余地は大いにある。
「ほら、さっさと入れ」
「ちっ……こいつらさえいなけりゃ、こんな目に遭わずに済んだのによ」
騎士団員に促されながら、ホープは馬車へと押し込まれていく。
最後まで舌打ちをやめず、反省の色は微塵も見せなかった。
――あいつの過去は、想像以上に重かった。
だからといって、やっていいことと悪いことの区別が消えるわけじゃない。
同情はできる。だが、許されることではない。
それは分かっている。
……分かっているはずなのに。
このままで、本当にいいのか?
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
このままいけば、奴はほぼ確実に重い罪に問われる。
死刑か、よくて終身刑――未来は閉ざされていると言っていい。
罪を犯した以上、罰を受けるのは当然だ。
だが、その“原因”は何だったのか。
――あいつは、最初からああだったのか?
違うはずだ。
生徒同士のいざこざ。
理不尽な暴力。
誰にも助けられず、孤立し、追い詰められていった結果が――あの姿だとしたら。
それなのに、最後はただ“犯罪者”として切り捨てるだけでいいのか。
「……待って!」
気づけば、声が出ていた。
「ん?」
「サダメ?」
「あ?」
周囲の視線が一斉にこちらへ向く。
――しまった。
呼び止めたはいいが、何を言うかなんて考えていなかった。
助ける方法なんてない。
言葉ひとつで状況が変わるわけでもない。
それでも――何か言わなければいけない気がした。
「……あ、諦めちゃ、ダメだ」
ようやく絞り出した言葉は、あまりにも拙かった。
「は?」
当然のように、怪訝な顔をされる。
「お、俺も……家族を殺された。村の人も、みんなだ。魔法の才能があるって言われてたのに、誰一人救えなかった」
言葉が止まらなかった。
自分でも、何を言っているのか分からないまま続けていた。
「……何が言いてぇ? 不幸自慢か?」
「違う!」
思わず声を荒げる。
「俺が言いたいのは、才能があるとかないとか、そんなの関係ないってことだ!」
「あん?」
「才能がないからって夢を諦める理由にはならない! 夢ってのは、才能じゃなくて……心の問題だ!」
自分でも驚くくらい、言葉が溢れてくる。
「諦めなければ、どんな形でも前に進める! でも、心が折れたら終わりだ……どんな才能があっても関係ない。だから、その……」
――そこで、言葉が途切れた。
自分は、何を伝えたいんだ?
何をしてやりたいんだ?
答えは出なかった。
「……はっ」
ホープが小さく笑う。
「もう来世の話でもしてんのか?」
「っ……いや、そういう意味じゃ……」
「冗談だよ。ジョークに決まってんだろ。……ったく、ノリ悪ぃな」
皮肉混じりの言葉。
だが、その声音は、どこかさっきまでと違っていた。
結局、それ以上言葉を交わすことはなかった。
ホープは大人しく馬車に乗り込み、そのまま騎士団本部へと連行されていく。
遠ざかっていく馬車を、ただ見つめることしかできなかった。
――何もできなかった。
胸の奥に残るのは、言いようのない無力感だけだった。