転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ーおまけ5

 「……ホープさんが捕まってしまいましたか。残念ですね」

 

 町外れにある古びた教会で、いつものように彼を待っていた私は、別口で魔薬を売っている顧客の男からその報せを受けた。ホープとその一味は、私の知る限りでも有望な駒だった。だが同時に、ここ最近は些か派手に動きすぎていたのも事実。騎士団に目を付けられていた以上、今回の結末も避けがたいものだったのだろう。本音を言えば、もう少し慎重に立ち回ってほしかったが――終わったことを嘆いても意味はない。

 

 「そうなると、この場所にも近いうちに捜査の手が入るでしょう。今後は別の場所で取引を行いましょう」

 

 「あ、ああ……そうだな」

 

 「では、私はすぐに次の取引場所を確保してきます。準備が整い次第――」

 

 踵を返し、教会を後にしようとしたその時だった。

 

 「ま、待ってくれ!」

 

 「……? まだ何かご用が?」

 

 振り返ると、男はどこか落ち着きのない様子でこちらを見ている。魔薬はつい先日渡したばかりのはず。追加の取引にしては様子が妙だ。

 

 「あ、あのさ……この前の魔薬のせいかよ、なんか……ムラムラが収まらなくてよ……これ、どうにかなんねぇかなぁって……」

 

 荒い息遣い。異様な視線。自分の股間へと向けられた執拗な手つき。

 

 ――なるほど。

 

 「そうですか。それはお困りですね」

 

 私は一瞬だけ沈黙し、状況を把握した上で微笑を浮かべる。

 

 「分かりました。私でよければ、お力になりましょう」

 

 「ほ、本当か!? 言ったな!? 今さら無しはねぇぞ!?」

 

 言い終わるより早く、男は興奮を露わにして距離を詰めてくる。そのまま乱暴に身体を押し倒され、背中に冷たい床の感触が広がった。

 

 「へへ……前から思ってたんだよ。あんたみたいな綺麗なシスター、一度は抱いてみてぇってな」

 

 衣服が乱雑に引き裂かれる音が響く。布が裂け、肌が露わになっていく。

 

 ――やはり、そういうことですか。

 

 魔薬に精力増強の効果はない。つまり、先ほどの言い分はただの口実。最初からこの男の目的は、私の身体そのものだったのだろう。

 

 「……」

 

 私は抵抗しない。ただ静かに、その行為を受け入れる。

 

 好意があるわけではない。むしろ不快ですらある。だが、彼のような末端の人間であっても、利用価値がある以上は切り捨てるべきではない。裏社会に身を置く以上、こうした存在は避けて通れない。選り好みをしていては、目的などいつまで経っても果たせないのだから。

 

 「おら、どうだ? 気持ちいいか? 本当はこういうの、待ってたんじゃねぇのか?」

 

 耳元で囁かれる下卑た言葉。肌を這う粗雑な手つき。

 

 その一つ一つが、神経を逆撫でする。

 

 (……愚か)

 

 内心で呟きながら、私はじっと耐え続ける。だが、次第に積み重なっていく不快感は、確実に限界へと近づいていた。

 

 やがて男は満足したのか、下卑た笑みを浮かべながら腰を浮かせる。

 

 「そろそろいいだろ。ここからが本番だぜ――」

 

 ――その瞬間だった。

 

          「愚かですね」

 

 自分でも驚くほど自然に、その言葉が口から零れていた。

 

 「……は?」

 

 男の動きが止まる。

 

 次の瞬間、異変は訪れた。

 

 「なっ……あ、ああ……?」

 

 腕が――消えている。

 

 溶けるように、音もなく、形を失っていく。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!?」

 

 絶叫。混乱。血飛沫。

 

 理解が追いつかないまま、男は崩れ落ちる。

 

 「……はあ。つい、やってしまいましたね」

 

 私はゆっくりと起き上がり、乱れた衣服を気にも留めずにため息をついた。

 

 「ですが、仕方のないことです」

 

 男は震えながらこちらを見上げる。恐怖に歪んだその表情が、滑稽でならない。

 

 「よく考えれば、貴方の目的は最初から私の身体でしたね。ならば、救う必要もありません」

 

 掌を静かに突き出す。

 

 「私が導くべきは、あの方を信仰する者のみ。貴方のような者は――不要です」

 

 「ま、待て……頼む……!」

 

 懇願の声は、最後まで形にならなかった。

 

 発動された魔法は、男の存在そのものを削り取る。

 

 数秒後、そこにあったのは――床に残された血痕だけだった。

 

 「……さて」

 

 私は一瞥だけそれを確認し、視線を逸らす。

 

 床は多少傷つくが、この教会であれば問題ない。処理さえ済ませれば、痕跡もいずれ消えるだろう。

 

 「それよりも、服を調達しなければなりませんね」

 

 近くにあった布切れで最低限の身なりを整え、私は隠し通路へと足を向ける。

 

 この場所も、もう長くは使えない。

 

 だが、それでも構わない。

 

 ――すべては、あの方の復活のために。

 

 私は何も躊躇わないのだから。

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