第7章ー1
初任務を終えてから、気がつけば三ヶ月という月日が流れていた。あの一件では様々な出来事があったものの、結果として誰一人欠けることなく任務を完遂できたのは、不幸中の幸いと言えるだろう。他の任務に赴いていた生徒たちも、特に大きな問題もなく無事に学園へ帰還している。
もっとも、俺たちに関して言えば「あのザマ」だったため、帰還後は三日ほどの休養期間が設けられていた。とはいえ、その間も任務報告書の作成や騎士団による事情聴取などに追われ、実際にはほとんど休めた気がしなかったのだが。
その後の三ヶ月の間に、俺たちは二度ほど新たな任務に参加した。だが、今回の一件が影響しているのか、割り当てられる内容は畑仕事やビラ配りといった、明らかに前回よりも難度の低いものばかりだった。いや、決して楽というわけではないのだが、少なくとも命の危険を感じる類ではない。
おそらく、危険性の高い任務からは意図的に外されているのだろう。リーフさんなりに色々と考えた上での判断に違いない。あれだけの騒動があったのだから、むしろ当然の配慮とも言える。
それ以外に起きた出来事といえば、寮内での新入生歓迎会や中間試験くらいなもので、概ね平穏な学園生活を送っていたと言っていいだろう。
そして季節は夏へと移り変わっていた。気づけば冬服の面影はすっかり消え去り、完全に夏服へと切り替わっている。
「はあ……最近、随分と暑くなってきた気がするでござるぅぅ……」
教室の机に突っ伏しながら、マヒロがぐったりとした声を漏らす。額にはびっしりと汗が浮かび、今にも溶け出しそうな有様だ。どうやら相当暑さが苦手らしい。そういえば、春先のまだ肌寒い時期に平然と水浴びをしていたような奴だ。そんな彼女がここまで参っているのを見ると、よほど夏が嫌いなのだろう。
「ほら、シャキッとしてマヒロ。涼しくしてあげるから」
「うぅ……かたじけないでござるよ、ミオぉ……」
ミオがそっと風魔法を発動させ、マヒロの周囲に涼やかな風を送り込む。ここ最近のミオは、こうして定期的に彼女を冷やしてやっており、もはや専用の扇風機のような役割を担っていた。
「けどさ、そんなに暑いの苦手なのか? 普段あれだけ走ったり筋トレしたりして汗かいてるのに」
二人のやり取りを見ながら、ふと疑問が浮かんだ。あれだけ日常的に汗を流しているのに、夏の暑さには弱いというのはどういう理屈なのだろうか。
「……拙者、汗をかくこと自体は嫌いではござらん。だが、何もしていないのに汗が出るのが嫌なのでござる。熱い風呂とは違って、ただ暑いだけでかく汗は、どうにも不快でな……」
「あー……それはちょっと分かるかも」
マヒロの説明には妙な説得力があった。確かに、何もしていないのにじわじわとにじむ汗は、運動でかくそれとは違った不快感がある。特に寝ている時などは最悪で、妙にベタついて寝苦しくなることもある。まあ、自分の場合は運動中の汗でも普通に不快に感じることはあるのだが。
「おら、とっとと席に着けー」
そんな他愛のない会話をしていると、教室の扉が開き、コールスタッシュ先生が入ってきた。どうやら朝のホームルームの時間になっていたらしい。周囲の生徒たちもそれに気づき、慌てて自分の席へと戻っていく。
「おはよう諸君。本日のホームルームでは、『あの件』について軽く話しておこうと思う」
「あの件? 何の話ですか?」
挨拶もそこそこに本題へ入ろうとする先生の言い回しに、思わず疑問が口をついた。他の生徒たちも同様に首を傾げている様子だ。何か見落としている出来事でもあっただろうか。
「ああ……まだ知らなかったか。この時期になると、皆少しは気を引き締めるものなんだがな」
「この時期って……どういうことです?」
教室にわずかなざわめきが広がる中、先生はわざとらしく間を置いてから口を開いた。
「この時期にはな――お前たちにとって避けて通れない大事な行事、『期末試験』があるからだ!」