「なつ、やすみ?」
先生のその一言に、教室中の生徒たちが一斉に耳をそばだてた。今、確かに“夏休み”という言葉が聞こえた気がする。だが、それが本当に現実のものなのか、誰もが半信半疑だった。
「そうだ。学園《うち》には春・夏・冬、年に三回の長期休暇が設けられている。その期間中は寮の外での生活が許可される。つまり、実家に帰るもよし、外へ遊びに行くもよしってわけだ」
「……そ、それって……」
「お前らは、自由になれるってことだ」
「……」
先生の言葉を受け、教室は一瞬静まり返った。歓声が上がるでもなく、誰もが言葉を失っている。あまりに突然すぎて、状況を飲み込めていないのか、それとも期待が大きすぎて実感が追いつかないのか――いずれにせよ、この学園にも長期休暇が存在するという事実だけは確かだった。
しかも、その期間は一ヶ月。実家への帰省はもちろん、遠出や旅行だって可能な長さだ。普段の厳しい学園生活を思えば、それはまさに夢のような時間と言える。
「「……いよっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
次の瞬間、抑え込まれていた感情が一気に爆発した。教室中に歓喜の声が響き渡り、あちこちでガッツポーズや飛び跳ねる姿が見られる。先ほどまで絶望に沈んでいた空気はどこへやら、一転して祝祭のような盛り上がりを見せていた。
それも無理はない。これまで過酷な訓練や任務を乗り越えてきた彼らにとって、一ヶ月もの自由時間は何よりのご褒美だ。自分も表情には出していないが、内心ではかなり心が躍っていた。
「……はあ。気持ちは分かるが、一旦落ち着け。話はまだ終わってねぇぞ」
そんな騒ぎを前に、先生は大きくため息をつきながら生徒たちを制した。どうやら、この話にはまだ続きがあるらしい。
「いいか? 夏休みの権利が与えられるのは、期末試験で筆記・実技の両方に合格した者だけだ」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
「どちらか片方でも落ちた場合、あるいは両方とも不合格だった場合は――夏休み期間の一ヶ月、学園に残ってみっちり勉強か特訓だ。休みが欲しけりゃ、死ぬ気で成果を出せ」
「……」
その一言で、教室の空気は再び急降下した。先ほどまでの歓喜は一瞬で霧散し、代わりに重苦しい沈黙が広がる。
要するに、期末試験に合格した者だけが夏休みを手に入れられるという仕組みらしい。さすが世界有数の魔法学園、簡単にご褒美は与えないということか。
とはいえ、全員が合格する保証などどこにもない。むしろ現実的に考えれば、誰かしらは脱落するだろう。努力次第とはいえ、この試験が大きな関門であることは間違いない。
正直なところ、自分にも確実に合格できる自信はなかった。筆記に加えて実技まであるとなれば、負担はかなり大きい。鍛錬と勉強を両立させる必要がある以上、これまで以上に計画的に動かなければならないだろう。
「それで、今後の予定だが――」
先生はそのまま話を続けていたが、もはや大半の生徒は内容をまともに聞いていなかった。